未来シコウのチートデータガール 17
嘘を悉く見破られ、反抗しようとするたびにシキがプリンを口に運んでいたスプーンで指す。「そこ」と言われた古御堂がそこを叩けば服の中で顔を出していた何らかの怪物が潰された。
「なぁ、お前さんが転生者をぶっ殺して回っているって奴かい?」
百花からもたらされた情報をもとに聞くと、赤髪坊主の男は無言で頷いた。
「俺ァちょっとコネがあってな? お前さん達が依頼を受けて動いてるのはもう聞いているぜ? グッバイワールドだろ?」
頷いた動作から一転、驚いたように目を見開き顔を上げる。が、思わずしてしまった動作を隠すように無言のままである。単純な引っ掻けだと判断したのだろう。
「何か反論したらどう? 知っているとか、知らないとか、僕は殺し屋じゃありませんとかさ」
古御堂が気の抜けた様な声音で、強い言葉を投げかける。さんざん叩きのめされた後なので赤髪坊主は古御堂に対して若干の怯えがあるように見えたが、しかし無言である。
「これだけの事をされたんだ、骨の一本位いっとくのはどうだ?」
「物騒な事言わないでおくれ」
苦笑いしつつ、赤髪坊主の顔が一瞬引き攣ったのを静夜は見逃さない。他人を殺すことを生業としているのに、そんな覚悟もなかったのかと静夜は内心呆れてしまうのだった。言い出した鬼なんて、たぶん自分が殺される事すら覚悟の上なのだろうに。
「安心した顔してんじゃねぇよ。何も吐かなくたってお前さんはブタ箱いきだ。殺し屋にゃ死刑が適応されるんだぜ?」
……今度は怯える様子もなく、ただ無言で睨み返してくる。少し余裕が出てきたような、そんな雰囲気すら感じ取れるのだった。
「……死ぬのは怖くねぇかい?」
尋ねるが、返事はない。ただし、その反応を見ている古御堂が眉毛を跳ね上げた。
「弓代」
「解ってるよ」
古御堂の反応も含めて静夜は確信する。この男は死ぬ事を恐れていない。だが、それは覚悟故に恐れていない訳ではなさそうでだった。
その理由は、そう百花が言っていたではないか。多くの殺し屋が、危険顧みずに無茶な仕事に果敢に挑んでいると。それは、それをするだけの理由、報酬が約束されているからだ。
「――ああ、なるほど。なるほどなぁ」
「どうした?」
静夜が納得して、古御堂は訝しがる。
「こいつ等に用意された報酬はな。金じゃねぇんだよ」
「殺し屋なのにか?」
「金じゃ買えねぇものだよ。なぁ?」
さっきとは打って変わって、静夜が暴力的に椅子に括りつけられた赤髪坊主の足を蹴りつける。露骨に苛立ち、その苛立ちに坊主はひるむのだった。
「……義理人情などという話は聞きたくないんだが?」
「だったら可愛げがあって見逃してやりたくなっちまうんだがよ。こいつ等に用意された報酬は別の人生だ」
「人生?」
「輪廻転生だよ。死んだ後、記憶を残したまま別人の人生を始められるわけだ」
「……そんな事が出来るのか?」
「こいつ等に依頼した奴ァグッバイワールドって言ってな。世界一頭がイカレて世界一厄介なテロ集団だ。魔法がなんで使えるかを解明して妖術を作り出したり、モンスターの理屈を解明して自分たちで怪物を作り出している。そんで転生者がいるなら自分たちだって転生者を作れるって言って、実際に作れちまう連中だよ」
「それは、なにかの冗談だったりするか?」
「一部じゃ有名な話だ。本気になりゃ世界を滅ぼせるって言われてんのに、人助けをしたり、人を殺したり、国を亡ぼしたり、病気を撲滅したりする訳わかんねぇ奴等だってな」
そんな訳の解らないグッバイワールド。確実に言えることは、ワンダフルワールドが用意した全てに憎悪を向けているという事だ。転移者も転生者も、魔法もモンスターも、全部許せないと、本当に本気で考えている節がある。
「ま、そんな訳で、こいつは死んだってかまわねぇんだよ。なんつったって次の人生がまっている。何なら、痛い目には合いたくねぇし、自分で死ぬのァこえぇから誰か他人に一思いにやってもらいてぇってなもんだ。なぁ?」
がんっと、静夜は苛立たし気に椅子を蹴る。
古御堂は静夜と赤髪坊主を見比べて、どうやら真実らしいと納得した様子だったのだが、ぎろりと鋭い目つきで静夜に向き直った。
「気持ちが高ぶるのは理解できるが、少し押さえなさいって。シキが怖がるだろ?」
「……そらぁ、悪かったな。おうシキ、別に怒っちゃねぇよ。そんな不安そうにしないでおくれ」
遠巻きに立って無表情のシキだが、古御堂がそう言うと妙に所在なさそうに見えてくる。身内を脅かすのは静夜としても気分がいいものではなかった。
「ったく。俺みてぇに甘い奴をターゲットにしてよかったな。痛い目に合わねぇで済むぜ」
ぼやきながら歩き出し、通りすがりでシキの頭を一撫でして、通り過ぎて、壁際にある段ボール箱に歩み寄る。
雑な静夜は段ボール箱のテープを乱暴に破り捨てて、少し箱の蓋部分も千切りながら、がさごそと。数秒まさぐり振り返った。
「……なぁ兄さん。こんな言葉ぁ知っているかい? 末代まで祟る。って奴を」
立ち上がり、ずいっと一歩前へ。坊主頭は背もたれ以上に後ろに下がれず、心だけが一歩逃げる。
静夜の顔は美しい。その顔で恐ろしい事を言い出すと、止めどなく怖い。そんな静夜の手にはいつの間にか、黒錆びに覆われた鉄の指輪が摘ままれている。
「悪さした奴を死んでも許さない。その血筋が途絶えるまで粘着質に追い回して祟る。そんなしつこい祟りもあるんだが、一回の転生くらいで振り払えるもんなんかねぇ? それはさておき、これをやるよ。なぁに。ただの指輪だよ。安物の、鉄の指輪さ」
目を見開き静夜の顔と、その黒い指輪を交互に見つつ、徐々に近づく指輪に視線は吸い寄せられ、そして釘付けになった。
そんなに見つめても、静夜の動きは止まらない。どんなに願っても、指輪は文字通り目と鼻の先に来ている。
「待てっ!」
目の前のそれへの対処をしなければならない。その事に漸く思い至ったのか坊主頭は堰切ったように声を上げる。
無視して手を進めてもいいが、折角期待通りの反応をしたのだからと、静夜の動きは止まるのだった。そうして冷たい眼差しで坊主頭が次に何をいうのかを観察するように見つめる。
「待ってくれ……はっ話す。何でも話す。全部。さっきまで言っていた事も、話す。全部認める。だっ……だから、それを近づけるのはやめてくれ」
静夜としては、大した事だと思っていない。
昔引き取った呪いの人形。ありふれたその人形の目の前にある日突然置いてあったのがあの黒い指輪である。なんの呪いがあるか解らないし、指に嵌めてみても何も起きないし、外す事も容易で何度か適当な所に置きっぱなしにして無くしかけたり、全くもって価値のない物である。人形が持ち帰ったのかもしれないと思って捨てるのも忍びないと思うくらいの物だった。
だが、真っ黒に錆びついた指輪は傍目から見ると随分不気味に見えるらしく、しかも呪われた静夜が言うのだから説得力も出る。なのでこうした脅しをする時には重宝している物でもある。
ではあるのだが、嘘を見破れる筈の古御堂やもっとおっかない物の筈のシキも少し距離を取ろうとしているのがなんとも滑稽である。
「そんじゃ沈黙はなしだぜ? 指折り数えて三回でプレゼントだ」
指輪をぽんぽんと掌の中で躍らせつつ背を向ける。入れ違って古御堂が角を生やしたまま坊主頭の対面にドカリと座った。
気圧されて、威圧されて、睨みが有効になった。鋭い目つきの鬼が言う。
「それでは楽しい面接の開始だ」
自分がやられてきたか恨みをここで晴らすかのような台詞で、赤髪坊主は引き攣った顔をする。
「――異世界人殺しが仕事か?」
「……せっ正確には、依頼されたターゲットの殆どが……異世界人だったという、だけだ」
「異世界人以外もいる訳だ? それで異世界人を何人殺した?」
「まだ、一人も、殺してないんだ。本当だ」
隣で聞いている静夜はちらりと古御堂に視線を向ける。古御堂は蔑むような目付きで、ただ赤髪坊主を見ていた。暴力的な雰囲気はなく、しかし決して穏やかではない。
「お前以外の仲間はどこかで誰かを殺しているんだろ?」
「それは、そう……だ」
「んじゃ、お前さんは今までに何人殺した? 異世界人じゃなくてもいいぜ」
「……覚えていない。数えていない」
「ところで、正直に答えたからと言ってムカつかない訳じゃないんだからな? グッバイワールドも依頼で間違いないな?」
びくりとなってから、ゆっくりと頷き、肯定。
「報酬は輪廻転生で間違いないな?」
無言になって首肯。
「あまり無言が続くとついうっかりカウントを進めてしまいそうな気がするが、まぁいい。話しを変えるとするか。どうやって引っ越したばかりのここを突き止めた?」
古御堂の目付きは薄暗い。色々な脅しなど無くとも、ただそれだけで自白したくなるような迫力だった。
「召喚魔法の中には、鼻の利く動物を呼び出せるものもある。……呪いの臭いを嫌うものだからここに来るまでに、随分時間が掛かった」
「ふむ? 犬みたいなものか。ターゲットは異世界人が殆どだったが、弓代が含まれたことに違和感はなかったのか?」
「……他にもいたからな。それに、転生者と転生者の素体はそう変わらない。異世界人の専門家はそう言っていた」
「そんなことまで割れているのかよ……」
思わず口を挟んでしまう静夜である。
「有名な話だ。転がり同盟共は弓代静夜が本物になる事を心待ちにしている。白紙社は死ぬ日を記念日にするそうだ。聖女共は色めき立ち、魔女共は貞操を気にして戦々恐々だ。魔導省は貴様が転生する前に冷凍保存しようと本気で議論している」
「最後のを詳しく」
「そんな事はどうでもいい」
古御堂が静夜の発言を一言で切り捨てる。
「いや良くねぇよ?」
「決定ではないなら問題ないだろ? そもそも弓代の危険性を考えれば誰でも思いつく事じゃないか」
「なっ……」
あまりといえばあまりな言い草に、絶句して口をわなわなと開いたり開いたり。しかし古御堂は全く取り合わずに再び話を続けるのだった。
「他のターゲットはどうなった?」
「……死んだ奴もいれば生きている奴もいる。まだ、仕事の過程だ」
「この仕事が――弓代を殺したら他のターゲットも殺すのか? それとも、一人殺せればお前の仕事はお終いなのか?」
「……当然殺す。最後までやる。全滅するまでやる。最後までやる事が仕事だ」
「立派な心掛けは嫌いではないんだが、依頼を失敗したらその報酬は手に入らんのだろう?」
この質問に、思わず。間違いなくついつい。笑みがこぼれたのだろう。赤髪坊主は口元をひくひくと歪める。一瞬の事ですぐに表情も落ち着くのだが、しかしそれは今更で、静夜の目からはあからさまで、訝しげな顔になった古御堂の背中に向かって伝えてやるのだった。
後ろから古御堂の肩を指でトントンと、振り返らせる。
「こいつァ、もう仕事を果たしたんだよ」
「弓代は生きているだろう? これからも仕事をするつもりだったようだが?」
「その嘘を嘘と見抜くってなぁすげぇと思うがよ? にしたって完璧じゃねぇだろ? ま、こいつの場合ぁそういう話じゃないだろうけどよ」
赤髪坊主は沈黙する。それは、雄弁に静夜の言葉を肯定している様なものだが、沈黙したのだ。
睨んでも、目の前で親指を曲げてみせて、一回とカウントをしても、黙ったままである。
静夜は嘆息して、古御堂との会話を再開する。
「グッバイワールドってのは、さっきも言った通り、転生者も自分たちで作れるんだよ。しかも、手の込んだ昼飯を作る位に気軽にな」
「だからそれが報酬として成り立つのだろう?」
「気軽なんだよ。たぶん、成功報酬じゃねぇんだな。転生はな」
古御堂の感覚が正しい。転生なんて人の生き死にに関わる物が報酬なのだ。成功報酬だと思うのが正しいだろう。
だが、静夜はある程度グッバイワールドという組織の事を知っている。知ってしまっている。ワンダフルワールドを唾棄する程憎む組織は、ワンダフルワールドが気軽に転生を使用するなら、自分たちだって気軽に使える様にならなければならないと考える筈なのだ。転生に価値はないと表現しなければならない。だから、転生は成功報酬ではなく、殆どタダ同然でふるまわれている筈だ。と、静夜は話を聞いた時から確信していた。
「ターゲットをきちんと殺そうとした時点で、報酬は払われている。参加賞って事だろ? 解かってんだよ。無駄にカウント増やしたな、兄さんよぉ?」
指輪をコインロールの様に指の甲で遊ばせて、静夜は冷たく言う。
「んじゃ、古御堂。続きよろしくな」
静夜はコーヒーを淹れ始める。コーヒーを飲んでいるとシキが静夜のコップをじっと見つめる物だから、もしかしたらシキも飲みたいのかもしれないと小さなカップにコーヒーを淹れてやる。一口飲んだあと、シキは悲しそうな顔をして「静夜きらい」と言われてしまった。これはしまったと冷蔵庫からシュークリームを取り出してその袋をシキに手渡すが、何やら疑われて、ジトッとした目で静夜とシュークリームを交互に見始める。
「引っ越しの手伝いの礼にとっといた奴だ。やるよ」
言うとおずおずとシュークリームの袋を開けようとするシキ。そのシキに向かって古御堂は振り向かずに一言「お礼を言うんだぞ」と声を掛ける。
結果シキは小さな声で「ありがとう。静夜」と言い、美味しそうにシュークリームを頬張るのだった。
そんなやり取りの内にも、古御堂の尋問は進む。
「お前には仲間がいるのか?」
「いる。相棒とかではないが、同僚の様なものはいる。しかし仲間と思った事はない……。同業者のようなものが、いる」
「その同業者は何人くらい動いている?」
「正確には把握していない。――待ってくれ、把握はしていないが、およそ二十人はいる。最低体二十人。最大は三十人と言っていいだろう」
「同業者はもう仕事を果たしているのか?」
「ターゲットを殺したのかという質問であるならイエスだ。が、ターゲットの人数が多い。仕事は済んでいない」
「ちょいとゴメンよ? お前さんはどっかの殺し屋組織に所属しているんだよな? どうせ転がり同盟とかブレイバーズとかみたいに名前があるんだろ」
「鼠の衆という……」
名前を聞いて、古御堂が静夜に目線を向けてくる。知っているか? その名前は聞いた事はねぇな。視線でそんな会話が成り立つ。
「知らねぇな……が、鼠ってぇと……てこたぁ……丑やら巳やらもいるな?」
「そうだ。その元は干支の支部だ」
「ああ、やっぱ干支かい……予想通りの組み分けだな」
干支は日本の犯罪組織を上げろと言われたらこの名前が出てくるというほどに有名だった。
犯罪者の互助会とでも言うべき違法組織干支。少し前にとある事情によって弱体化したが、それでもいまだに危険な団体と言われている筈だ。
「その鼠の会とかいうのが今回メインで動いているのかい?」
「しゅ……、そうなる。鼠全員と、後は外部だ」
「そうかいそうかい。そん中によ、東雲コハクって奴はいるかい? あるいは、毒を使う女だ」
「……」
「俺を殺そうとしたんだけどよ、逆におっかねぇ美人に命狙われているぜ?」
じっと、静夜を睨み返す様な、反抗的な目で見返してくる赤髪坊主。静夜の指は曲がらない。目付きごときではカウントしないと、たった今線引きされてしまったが気にしない。
「……いる。会話をするだけで毒を盛れると言われている女だ」
「詳しく話せるかい?」
「この世にない毒も作れる……という話は聞いている」
「毒の盛り方ぁ解るかい?」
「これ以上は知らない。本当に、知らない」
許しを請うような顔で首を振る。嘘じゃないんだ。知らないんだ。
別に命乞いは聞く気はないが、本当に知らないなら聞き出そうとする行為は時間の無駄だ。
「――んじゃよ。死なねぇ奴等。俺みてぇにぶっ殺しても生き返る奴らもいるだろ? 殺し屋ってのはそんな奴まで殺せるのかい? なんつったって『殺し』屋だからな」
「不死にもいろいろある筈と、そういう考えである。死なないならバラバラして生き返らないようにする。死ぬまで殺す。生きる事を諦めたくなるほどの拷問にかけて追い込む。それでも無理なら封印するなど、色々あるのである」
「あっそうかい」
答えに静夜は白けた声を出す。面白みのない答えだった。つまり、バラバラになっても目を離した隙に寄り集まって、どんなに殺しても死ななくて、死にたくなっても死なない静夜の脅威ではないのだろう。最後の封印という文言はされた事がないと言う意味もこめて脅威なのかもしれないが、そんなものは鈍器で頭を叩かれたら危険であると同じで、当たり前の事を言っているのと違いがない。
「デッドストックって奴を殺したのもお前さんのお仲間かい?」
何気なく聞いたつもりの言葉に、赤髪坊主は一瞬顔を強張らせた。静夜はそれを見逃さない。当然古御堂も見逃さない。
「なんだい。違うのかい?」
「……いや、知らない。そうなのかも知れないし、きっとそうなのだろう」
「解かりやすいすっとぼけだな」
「弓代でもわかる程度にはあからさまだったな」
「甘く見逃してやってたらつけあがりやがったな」
静夜は指を折る。二回目だと。
「言いな。そいつぁ誰だい?」
「――そこ」
静夜が問いかけた瞬間、それに被せる様に少女がぽつりと言う。たった二言を言い終わるかどうかのタイミングで、古御堂が椅子を蹴倒して奔り、光始めていた赤髪坊主の二の腕に強烈な回し蹴りが炸裂する。静夜の耳にすら骨の折れる音が聞こえ、赤髪坊主は派手に転倒する。振り返ってみると唇回りにたっぷりとカスタードクリームをつけたシキがまだ指を向けたままの姿があった。
「次はないぞ?」
古御堂は倒れた坊主頭の顔を大きな掌でむんずと掴んで持ち上げる。プロレス技で殆ど実用性のないと思われるアイアンクローは、今間違いなく坊主頭の頬骨を挟み、締め付け、明確なダメージを負わせていた。
縛っている椅子ごとぶら下げられ、やや乱暴に元の姿勢に戻される。
そして、何事もなかったかのように尋問は続くのだ。
「十、九、八、七……」
特にルールを設けなかったカウントダウンが始まり――
「……っ! 鬱船カフク。そう名乗る男だ」
追い詰められて口を割る。静夜が古御堂を見れば、古御堂は見透かしたような、据わった目で坊主頭の目を覗く。
「……他にもいるな。だが、まずその男の話だ」
その宣言はもはや刑罰の執行のようだった。死を望みすらしている赤い坊主頭は、目を合わせたまま震える。
「が、外部の殺し屋だ……報酬は、いらないというほど、異世界人を殺す事に執着している人物だ」
素直に自白が始まるのは意外だったが、これはむしろ鬱船なる人物の話をする事で他の話をする事を先延ばしにしているのではないだろうか。
灰色の髪、顔には傷跡。世の中をはかなむような目付きに銀縁眼鏡。年のころは順当に見れば四十半ばから五十代の痩せ型。
外見に始まり、そして性格へ。
語られる鬱船カフクという男はほとんど異常であった。
日本以外の国の、宗教色の濃い国の、非常に強固な宗教家のような思想が垣間見える。
すなわち、異世界人を憎み。異世界人を殺すためには異世界人と協力する。そして協力した異世界人も必ず殺す。理由は異世界人であるから。善人も悪人もなく、敵も味方もなく、ただただ殺す。
異世界人は死すべし。そうであれ。
その能力は――。
「判らない……。判らないんだ」
「……折るんじゃなかったな。嘘か本当かが解りづらくなった」
「んで?」
「おそらく嘘だな」
「推定有罪だってよ」
軽薄に笑いかけて、静夜は悪役さながら椅子を蹴る。振動すらつらそうな男は小さく呻くが、さすがにもう睨み返す事すらしなかった。
「本当に知らないんだ……」
「今なら許してやるよ。なぁ、古御堂?」
「次の質問までだな」
荒くて浅い呼吸。わずかな時間。間があって。
「……蝶を、蝶を使う。それに触れれば人が死ぬ」
「なんだそりゃ。物騒な能力だな。魔法じゃないな、スキルか、超能力か……」
静夜が考察をつぶやくと、それを聞いた赤髪坊主は首を振った。知らないと必死に伝えるように。
「……ここまでだな。これ以上は知らなそうだ」
古御堂が嘆息すると、露骨に安心したように目元が緩んだ。静夜でも気づくその変化。これに気付かない古御堂ではない。半眼のその目の奥に、見透かす光が仄暗く灯っていた。
「他に、誰がお前達の味方をしているんだ?」
ガタっ。と震えた。
聞かれたくない事を訊かれたというだけではないだろう。静夜は古御堂の目を見て話したことがあるからわかるが、相手の内心を探ろうとする古御堂の目は、ワンダフルワールドのあいつに睨まれたかのような迫力があるのだ。
「さっ最強の――」
「違う! それじゃないだろう?」
小さく恫喝し、言葉を遮り否定して、そして穏やかな口調になる。僅かなセリフの中に強烈な緩急が付いているが、古御堂が声音を変えるとまるで一人で飴と鞭を与えているかの様である。
つまり、古御堂が恫喝しないで済む言葉を、対象者は探すのだ。口に出すのだ。
「俺達を、雇った奴が用意した――」
「なにか来る」
「……ん?」
赤髪坊主が口を割ろうというその時、シキが言った。猫が謎の何かを見るような様子に似て、そこに何があるのかわからないが、シキが見つめるのは部屋の角、天井付近。
静夜もつられて見る。
そこには何もないように見えて、しかしなにか、ぼんやりとしたものが見えた。水よりも透明な板のみで構成された水槽のようなものだ。大きさは三十センチほど。その一面が扉のように開かれて、ぷらぷらと揺れているのが、何とか視認出来た。
――なんだあれは?
疑問に思った次の瞬間、一匹の醜悪な小人が静夜の左肩の上に現れた。
「……は?」




