未来シコウのチートデータガール 11
ケイオス・ウィッチの隠し部屋。フルダイブ型オンラインゲームの魔法使いのレコンキスタ・ドール、通称『マホレコ』の隠しボスの一人がいる部屋である。
ケイオス・ウィッチ。
ウィッチと言うからには、おそらく魔女なのだろうが、ハジメはケイオス・ウィッチの性別を考えた事がない。
その見た目は身長五メートルほどの人型の怪物。目鼻口が全て表現された陶器の仮面を皮膚に直接皮膚に縫い付けた顔をしていて、首は不自然に長く、髪は太く長い触手であり、腐ったような粘膜に覆われている。奇形の髑髏が埋め込まれたような突起のある肌をボロボロのマントで覆った姿は、見た者に根幹的な嫌悪感と恐怖を抱かせた。
このケイオス・ウィッチ、該当ダンジョン内における全プレイヤーのキャラクターの死亡総数によってレベルが上がっていくという信じがたい仕様をした強敵である。つまり強さは刻、一刻と上がっていき、攻略サイトでは運営の悪ふざけで作られたネタボスである可能性があるとすら言われたボス敵である。
その正体は不明というのが公けに発表されているのプロフィールだが、極一部のゲームプレイヤーはもう少し深い所を知っている。トッププレイヤーグループの『バイバイ・ディクタ』――つまり甘咲ハジメをリーダーとする集団だけはが、その詳細を知っていた。
【生まれ落ちた時からそうでアレと決められていた。ヒトの死をきっかけについに壊れた。ああ、もっと他の道が残されていたのなら……】
ケイオス・ウィッチについてのテキストである。これは、ハジメたち『バイバイ・ディクタ』しか知らない。
別にハジメたちが特別運営に優遇されていたから知っていたという訳ではない。ケイオス・ウィッチを討伐する事が出来れば、誰でも知る事が出来る程度の情報であり、ケイオス・ウィッチを討伐した事があるのが、ハジメたちだけだったというそれだけの話である。
他に解かっている事といえばケイオス・ウィッチはゲームシステム的に、非情に特別な位置付けだったという事だ。
ことハジメがケイオス・ウィッチについて語る場合、そのプロフィールよりもこちらの話に重点を置くべきだろう。
その最大の特徴とは、ケイオス・ウィッチを倒すと、倒したプレイヤーがケイオス・ウィッチに成り代わり、ボスとして他のプレイヤーを迎え撃つ事が出来るようになるという物だ。より正確に言えば、ケイオス・ウィッチの体に乗り移って操れるというものである。これにより疑似的にボスの体験をする事が出来るのだ。
手順としては討伐報酬として特別なアイテムが配られ、ケイオス・ウィッチに挑む他プレイヤーが現れるとアイテム所有者に対して連絡がポップアップする。そのポップアップに対して参加の意志を表明すると、早い者勝ちでケイオス・ウィッチの体に憑依するのだ。
多くて週に三回。少なくとも週に一回程。ハジメ達は代わる代わる挑戦者たちを倒し続けた。
トッププレイヤー達の技術とゲーム仕様上の超えられない壁を超えたレベルの肉体を操る事で、より絶望的に強くなるという循環を成立させ、ハジメたちは一年に渡り絶対的最強としてケイオス・ウィッチを演じてきたのだ。
この特別な報酬はチームメンバーだけの秘密であり、ハジメは想いを寄せる男友達にすらもそれを明かさずにいた。何度となく、ケイオス・ウィッチの体を使い、勝負を挑んでくる友人を返り討ちにしつつ、友人のゲーム的成長を見守るのを密かな楽しみにしていたのだった。
『いやほんっとに、おかしいと思うんだよね。積んでるAIがえげつない……戦略が会うたび変わるし魔法も戦闘技能も使い方が急激に変わるんだぜ』
『へぇ? 随分苦労しているようじゃないか』
『特に! 魔法を使うパターンの時があるんだけど、あの時の立ち回りがもうバケモノなんだ』
『……そんなに強いんだ?』
『ちょっとあのパターンの時には絶望だぜ。あんなにパターン変わるなんて、もう多重人格の設定でもあるんじゃないかな』
『わぉ、良い勘してる』
『え、なんか言った?』
『ふふ、何でもないよ』
もしも君が勝てたならその時は教えてあげるよ。私達のチームの一年も、これまで挑んできた数々の暗躍も。
そんな風にゲーム内で満喫した日々を送ってきたハジメだったが、チームで倒したケイオス・ウィッチに対して、常々思っていた事があった。それはケイオス・ウィッチへの単独挑戦への未練。
このゲームが今後も続いていくのなら、ケイオス・ウィッチは際限なく強くなる。五人でやっと倒した一年前より、今の方が間違いなく強くなっている。その強くなり続ける敵に対して単体で勝負を挑み敗北し続けるプレイヤーたちは悔しそうであり、同時に楽しそうであった。そんな挑戦をし続ける彼等を見る度に思うのだ。彼等が倒せない化け物の正体は自分達なんだと。でも、その強さは個人の強さではなくてチームの強さ。今後ケイオス・ウィッチを倒せるチームが現れたらどちらが上かという事になる。誰も気にしないと言ってもハジメの心の中で議論は噴出する。
それはあらゆる分野の競技でも起こる感情。競う事が出来るなら、そこにはトップ争いが生じる。一等賞も金メダルも、狙えるものなら狙うし、そんなものはいらなくとも、自分が一番だという確固たる自覚は自尊心が満たされる。
つまり何が言いたいかというと、どう考えてもチームで挑まなければ勝てないケイオス・ウィッチを、ハジメ単騎で倒す事ができれば少なくとも現状最強と名乗る事はできるのではないかと思ったのだ。
チームメイトに相談すると強力なサポートと後押しを受け、必要な装備を整え、ゲーム内転生システムによって種族をエルフから他種族に変え、転職システムにより補助職から戦闘職へ。ステータスの割り振りもソロプレイヤー用のキャラクタービルドのやり直しをした。
何度も相談を繰返し、満を持して挑んだソロでのケイオス・ウィッチへの挑戦に備えた。
ハジメがまず目をつけたのは、今はもうあまり選ばれる事のなくなった、攻撃特化型と呼ばれるキャラビルドだった。
攻撃力は高い。ただし防御力はそれほど高くない。そういった特徴。このステータス構成は、別名脳筋ビルドとも呼ばれ、先制攻撃が出来るかどうかが勝敗の全てと言っても過言ではないプレイスタイルになりやすい。
実はゲームのサービス開始直後はこの構成が非常に効果的であったが、すぐにアップデートが実施されて先制攻撃に強い敵や、不意打ちによって敵が激怒して超強力になるなどのギミックが現れた事で選ばれる事はなくなっていったものだった。
ハジメも普段は攻撃力特化などは好まないのだが、ケイオス・ウィッチの行動パターンや能力の特徴を研究すればするほど、この隠しボスがサービス開始時から何もアップデートされていない事がわかり、その事が光明に見えてきた。もしかしてゲーム初期の最強構成こそが攻略の鍵になるのではないだろうかと。
攻撃特化型は、キャラクターの種族をベルセルクやアマゾネス、スパルタクスなどの防御力を捨てて攻撃力を高めたものにするところから始まる。
そこに更に、自身の攻撃力を上げる狂信者、狂戦士、侍などの職業を選択することで、攻撃力を不自然なまでに引き上げる。それが攻撃特化型と呼ばれるキャラビルドの特徴だった。
ハジメと仲間達が考え抜いた、バランスを意図的に崩した攻撃力特化型。しかし簡単に殺されてしまう訳にはいかない粘りの強さ。魔法使いのレコンキスタ・ドールのトッププレイヤー達が真剣に考えた防御を捨てたキャラビルド。
さんざん考えて、何度もトライアンドエラーをして、辿り着いたのは誰が見ても邪道と言える攻撃力特化型キャラクターだった。
当初はベルセルクだった種族は最終的には魔族へ。職業は攻撃力特化の狂戦士となった。
魔法が得意な魔族は魔法使いでこそ輝く。
攻撃力が強い狂戦士は、フィジカルが強い種族でなければ本領が発揮できない。それでも両立出来たら強い訳で、当然の様に皆が試してみる組み合わせだった。皆が試して、結果、大成する事がなかった組み合わせとして知られている。
しかし、ハジメはこの構成で挑むことにした。
ケイオス・ウィッチを、たった一人で倒すための最適解として。
装備も整い、必要アイテムも鞄に詰めた。
体調も万全、集中力も研ぎ澄まされた。
そして四人の仲間が激励してくれ、片思いの彼とも何気ない会話を少しした。
別に死ぬ訳じゃないし、ただちょっとテンションはあげたくて。
そうして最高のコンディションを作り上げ、ハジメはケイオス・ウィッチに挑んだのだった。
――戦いは何時間にも上る長期戦になった。
魔族しか装備できないマクスウェルのブーツで回避力を上げて一発でも受けたら致命傷になりかねないあらゆる攻撃を躱した。
回避成功の継続回数が、魔力の微増に寄与するコモンアクセサリー、ラプラスの指輪を装備する。微増した魔力の積み重ねで効果が高くなった回避魔術を使う。躱し続けて、足りない攻撃力でケイオス・ウィッチを叩き続ける。ダメージが蓄積された頃にボスは自動回復能力で戦い始めの状態に戻ってしまう。それでも繰り返し続けてた。相手にダメージはなく、ハジメの体には疲労と共に魔力が溜まっていく。切れない集中力で継戦しつつ、時を待ち、自身の魔力が魔術師の高レベル帯を超えるのを確認した。魔族だからこそ魔力の蓄積効率が僅かに向上していた。
ハジメの体に蓄積される魔力の総量は大賢者を超え、魔人をも超えた。魔力が前人未踏に到達し、実はもうとっくに準備が整っていたのにも関わず、少しハイになっていたハジメは、更に一時間近く攻撃を躱し続けた。魔力が無尽蔵上がる、魔力の質の向上で回避の質も上がる。絶対的なマージンを確信したその時、ハジメの計画が動いた。
バーサーカーの中級スキルである『力こそパワー』で魔力を攻撃力へ変換。
トッププレイヤーのハジメである、ダメージの上限制限解放などとっくに手に入れている。
構えたのは【人肉用挽肉包丁】という棍棒の様な刀剣。
跳び上がり、ケイオス・ウィッチと目が合った。『君の体の可動域はとてもよく知っているよ』と嘯いて、攻撃が届かない事を確信している。そうして渾身の力を込めて振り下ろされた一撃は、ゲーム上での想定外の威力に達する。
『グッドバイ』
想像を超えて強くなり過ぎたケイオス・ウィッチを、砕きながら引き裂き、凄まじい威力にエフェクトが白くバグになった程である。
こうしてハジメは勝った。その勝利の方法の工程は、どれもがバグに近く、システムの穴を突いたような物だった。きっと、早晩修正が入る事だろう。
それはそれとして、だとしても完全な勝利である。
その証拠に、ハジメのもとにはゲーム運営チームからのメールが届いたのだ。
【ケイオス・ウィッチ討伐に関する連絡】
プレイヤー名、二神逢様
平素は弊社『OrderMade Chaosetica』をプレイしていただき誠にありがとうございます。
TOKYOエリアの最終ボス『ケイオス・ウィッチ』の単独討伐おめでとうございます。
『ケイオス・ウィッチ』を斃した事による討伐報酬についてのご連絡をさせていただきました。
内容は新規アバターの先行使用権、および特殊エリアの解放となります。
詳細を下記URLよりご確認の上、このメールの返信か、お問い合わせフォームよりご返答を頂けたら幸いです。
今後とも『OrderMade Chaosetica』をよろしくお願いいたします。
OrderMade Chaosetica運営チーム
【追加報酬についてのご連絡】
報酬の新規アバターについて、仕様の変更がございます。お手数ですがアバター更新の手続きを下記URLにてお願いいたします。
OrderMade Chaosetica運営チーム




