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五分前仮説のブランニューワールド  作者: 幾楽あくた


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未来シコウのチートデータガール 6

 始まりは空。


 空飛ぶ半実体の白鯨三体の回遊だった。いつの間にやら多くの白いイルカ、ジンベイザメ、イワシなどの小魚が遊ぶ様に追従しはじめる。


 普段東京の空に白鯨が現れる事はなく、ましてや三匹もの白鯨と、イルカの群れなど、観測が始まった百八十年前から初めての出来事である。


 固形物の様に陰影がはっきりとする入道雲が真っ青な南の空に聳え立ち、あれよあれよという間に広がっていく。


 夕立が始る前兆。

 帯電が始り、純白が黒く、黒く。

 空が覆われ、暗く、暗く。

 言祝ぐ様に鯨が唄い、イルカも鳴く。


 風が吹き始める。夏に冷たい風が心地よく、誰もが大雨を予感した。

 

 白鯨たちが回る。高層ビル群を中心にして円を描くように雄大に、穏やかに。

 東京中の獣という獣がその中心に顔を向ける。何が始るかを知り、喜ぶように一斉に向く。


 あるいは悲しむように一斉に向く。


 犬は遠吠えを。

 猫は瞳をくりくり爛々と。

 烏も雀も椋鳥も、電線と言う電線に整列し、それでもあぶれた鳥たちは手摺に枝に留まって今か今かと待ち構える。

 鼠に蝙蝠に狸にハクビシン、蛙どころか蠅にトンボにオケラだって。

 あらゆる魔獣。あらゆる妖魔。あらゆる魔のモノ。それらが謂われなき罰に怯えた。


 待ちわびた。焦がれた。悲願していた。

 避けたかった。逃げたかった。来てほしくなかった。懇願した。

 どちらも世界の王の到来を待ち構える。


 雨がぽつり。ぽつり。ザザザダダダダダ……。


 人々は気付かない。ただ驟雨に傘をさす。カフェのガラス越しに白鯨を、イルカを、動画に納めて喜ぶ。

 鯨達が描く円の少しだけ内側に光が生まれる。


 人類が、いまだ到達出来ずにいる真円が光で描かれる。

 二重。三重。四重。数えきれない真円が、まるで塔の様に空高くまで。

 その真円の中に描かれる五芒星。六芒星……十芒星。


 数々の星に添えられる魔法の言葉。魔道の言葉。呼び出す願いの呼び出す力のある文字。


 真なる円が魔法陣となる。


 何かが降り注ぐ。雷に似た何かが落ちる。一斉に、誰一人として死なない雷が轟音を上げて落ちる。


 誰もが『今のは近くに落ちたぞ』と思ってしまう雷鳴。


 本来なら怖がる仔犬が、仔猫が、人の子が、ちっとも怖がらない。


 落雷よりもカメラのフラッシュのほうが光る位に皆が魔法陣に注目し、記録に残される。


 それすら祝いの一つとなるのだ。この召喚の儀は。


 人ならざる、怪物たちが怯える。


 勝てない。敵わない。抗っても意味がない。


 恐ろしい何かがくる。


 なんだか解からない何かが来る。


 世界が終わった方がマシな何かが来る。


 東京どころか日本中、目端の利く世界中の化け物共が一様に王者の気配に振り返る。


 世界中の化け物にすら勝てる化け物殺しの人間どもが、自分なら勝てるかどうか。いや、いざとなれば命を賭しても勝たなければと振り返る。


 来るぞ。来るぞ。来てしまうぞ。


 破壊をもたらす紫電が、道を作る。

 歴史に残る大停電が起こる。

 雷は残す事なく落ちた。観測されたそれは東西南北から始まり、ある一点に向かって落雷の道を作っていた。


 四つの落雷の軌跡が最終的に交わった先は、とある外資系建設会社が作り上げた違法建築群だった。


 白鯨とイルカと全ての獣が喜びの歌を歌う。


 ただの人々は写真を撮り、共有し、凄かったと言って、でも結局忘れる。

 この世界の創造主に望まれて生まれ落ちた化け物共だけは、その理不尽ともいえるその存在を忘れない。


 この世界において自分は刈る側の人間だと思っている人間は、それが敵か味方か、その判断の為にも結局動かないまま。


 こうして、何者かに望まれてやってきた存在は、この世界に降り立った。

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