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五分前仮説のブランニューワールド  作者: 幾楽あくた


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未来シコウのチートデータガール 1

 その二人を止めに入った黒服が、わざわざゆっくりと殺される。


 皮膚が表面から徐々に削がれていき、傷つき、痛がり、手遅れになり、死んでいるのか生きているのかわからなくなり、死んだ。


 それを見て一人は興味なさそうに無視して、もう一人は顔を顰めて嫌そうな顔をした。


 興味なさそうな男は、しかし顔を顰めた男の反応には興味津々の様で気軽な声をかける。


「――しかしこんな雑魚どもになんのご用なんでぇ?」

「テメェも同じく雑魚だろです。オレが会いてーから会ってやるんです」

「アレですかぁ? もうすぐ活動出来なくなるから手先を探しているんですかぁ?」

「ぶっ殺されてぇですか?」


「いえいえ。で、あるなら笹月を売り込もうかと思いましてねぇ。お役に立ちますよぉ?」

「考えといてやるから黙りやがりなさい」

「飲み会に行けたら行くって言っている人、何人が来ているんでしょうねぇ」

「ゼロに決まってんだろです」

「当たり前の様に言いますねぇ。普通そこは気まずそうにしませんかぁ?」


 歩く足は二つ。

 編み込みブーツと高級な革靴だ。


「ナナホシの小娘の紹介でなければ本当にぶっ殺してやりてーウザさでやがりますね」

「酷いですねぇ。これでもこの世界では最上級である自負があるんですよぉ」

「他の世界から逃げてやってきたクソ雑魚ナメクジが粋がっていると首を圧し折ってやりたくなるので黙りやがりなさい」

「そこはせめて鼻にしてくださいよぉ」


 ねっとりと笑う声。もう一人は苛立たし気に舌打ちをした。


 カツカツと、モルタルの階段をおりる。反響する音に足音以外の、扉の向こうの喧騒が混じり始めている。

 その分厚い金属の扉を、編み込みブーツの底が蹴り破る。そっと手加減をして、風穴が空くことなく、扉は折れ曲がるに留まり開かれた。

 広いフロアはバースタイル。間仕切りなどはなく、フロアにはいくつかのテーブルとイス。奥にはカウンターテーブル。中には大勢の男女がついさっきまで楽しそうに酒を飲み交わしていた。


 注目が一身に集まる。


 彼等の目に映るのは二人の人物。

 一人は白と黒と黄色。黒い下地にオレンジ交じりの黄色の柄の、スズメバチを想起させるティーシャツ姿。白に近い銀色の髪。手足が長く背が高い。特徴を上げれば中々に多い。それが一人目の青年である。


 その後ろに続くのは糸目と言われる程目の細い、茶色髪の男性。キャメルのスーツは超が付く高級品、腕時計も靴も一級だ。その手には丸めたポスターがぎっしり詰まった紙袋を中指に引っ提げている。


 そんな二人組が、煙草と酒の香りのするバーにやってきた。


 すわカチコミかと、気性の荒い客共が立ち上がる。気の早い者たちは武器を手に取り、中には特殊能力を展開して攻撃を開始していた。


「お座りしてやがりなさい」


 白銀の青年がそれはもう面白そうに笑みを浮かべ、そう言った。

 そしてその瞬間に全ての勝負が決まった。


 本来、視線を向ける事すら論外であり、攻撃的思考をする事ですら自殺を意味する筈であったが、実に鷹揚に青年は全てを許した。

 問答無用で全員が椅子に座りなおし、武器は床に捨てられ、死屍累々を築ける特殊能力は何一つ発動せず、そして見られただけで動けなくなる。心臓すらも、きっと止まれと思われたならば止まってしまっただろう。なのに生きているのだ。青年に襲い掛かろうとしたこの場の全員が、許された事を理解しただろう。


「え? 許すんですかぁ? もっと早く言ってくださいよぉ」


 ねっとり、じっとりと、もう一人の男が言った。


 見れば五人ほどが死んでいる。ぐずぐずになった肉の塊の総量で推察できるが、一瞬何人死んでいたかもわからない有様である。微弱な命の、か細い終わり方に気付くのが遅れた。気が付けなかったのは青年の失態である。


 苛立つ気持ちを抑え、小さくため息を吐く。


「テメー話を聞いてやがりましたか? 生き返らせるのは面倒くせーんだぞ?」

「あー。それはすみません」

「……次はねーです」

「今殺したのは指名手配犯だったと、言い訳はしておきますよぉ。これでも公務員なもので、見逃せなかったんですよぉ」

「ここにいる奴等は全員筋者でやがるだろ。全員ぶっ殺すですか? テメーの様な公務員がいるのはこの国の不幸でやがりますね」

「随分この世界の住民に気を遣うようですねぇ」


 無言で鋭く睨み付けても、糸目の男はどこ吹く風。内心殺されるかもしれないと思っているくせに、表層に見せない胆力だけは中々な物である。


「おい、テメー等。オレは少し忙しいからしばらく大人しく飲み食いしてやがれです」


 バーの中に突如乱入してきたそれに対して、先客たちは返事すらしていいのか解らなさそうに、ただ固唾を飲む。ただ、見てはいけない物がそこにいる事だけは明確だったのだろう。

 誰もが黙った状態のままの中、白銀の男は楽しそうに歩き出す。油のシミが多い、踏みしめると奇妙な柔らかさを覚える木張りの床を、コッコッと音を立てて。


「んーふふんーんー……」


 初めは言葉ではなく、ただのハミングで。

 

「猫とカエルのサイケデリック。君の指からぼれるタピプペポー」


 やがて非常に機嫌のよい鼻歌になる。


 白銀の青年が四歩歩く。すると後に続く糸目の男の手によって壁に一枚のポスターが貼りつけられていく。

 手際よく、皺ひとつなく、不気味な程に等間隔で、地面に対して水平に。

 白銀の美青年は何かのアーティストで、後ろの糸目はマネージャー。ライブ告知の為にゲリラ的に酒場を闊歩している。そんな関係性が連想できるかもしれない。


 もしかしたら在り得ない程の偶然が重なってこの酒場に迷い込んでしまったのではないだろうかと、そう勘違いしたいかもしれない。


 だが、普通に考えれば、人殺しの巣窟にそんな偶然が紛れ込む事など、ありえない話である。


 白銀の青年が糸目の男に案内されて訪れたのは『鼠の巣』と呼ばれる酒場だ。

 殺し屋達の為の会員制酒場。そういう物だと聞いている。

 集うのは《鼠の衆》という殺し屋達。関東最大級の殺し屋団体である。彼等が集うここでは警察が正式な手続きで出した令状といえども効力を発揮しない。圧倒的暴力によって守られた治外法権である。


 なのに、泣く子も黙る殺し屋共が、白銀の青年とその御供の行動を何一つを止められない。


 それどころか、白銀の青年が通ると大げさに身を引いて道を譲る。侵入時のパフォーマンスが覿面(てきめん)に効いている。

 死ぬ覚悟は出来ていても、無駄に惨めに苦しんで、無意味に死ぬような覚悟を決めている人間なんて、そうはいない。

 青年は道を開ける有象無象に対して礼を述べるどころか、反応すらしない。万が一にでも進行方向に誰かいる事など、そもそもあり得ないと知っている様子だった。歩けば空気が退くように、声を掛けなくとも有象無象は自らの立場を理解する筈だと信じているかのように。


 後ろに続く糸目の男も、それにならって当然という様子である。見ようによっては、糸目の男の方がよりその確信を抱いている様に見えるほど堂々とした様子である。


 逃げる様に壁際から離れていき、自然と総勢二十名の殺し屋共は、酒場の中央に集まっていく事になる。胆力があり、その上で運よく青年の進路上にいなかった者たちは酒を飲み続けるのだが、それでも露骨に無口になり、口に運ぶツマミの味は、きっと砂を噛むようだろう。


 そうして見守られる間にも不気味な程正確な等間隔に、ポスターは貼られていく。


 鼠の衆が集う、日本でも指折りに危険な大広間の壁に、所狭しと貼り付けられたポスターには、漫画で見かけるような文言が大きく印字されていた。


『DEAD ONLY』


 しかしその賞金首たちを殺したのならば、いかなる褒賞が待っているのか、肝心なそこが書かれていない。


 こんなポスターに書いてある事を鵜呑みにする人間は一人としていないだろうが、それにしたって不親切な掲示であった。


「最上級で最高品質セイアンザイを僕にください。僕に、僕に僕にー。僕に極上の!」

「なんですかぁ? その不安になる歌はぁ」

「うっせーです」

 

 ぐるりと一周。紙袋が空になると出口に立つ。

 そうして振り返れば、酒場にいる全員は部屋の中央に集まっている。その真ん中を、白銀の青年は歩き出す。

 そうであれと決められているかのように、人垣が割れて、聖者とその従者のように二人は突き進み、最奥のカウンターテーブルの前へと。


 その足跡にすら絶望の雰囲気が漂っているものだから、ただれた傷口のように、人垣は元に戻らない。


「どーいつも、こいつもしけた面をしてやがりますねぇ。やる気なしでやがりますか? 本当に仕事できるプロでやがりますか?」


 酒の瓶を軒並み薙ぎ払ってカウンターテーブルに座り、男は言う。


「出来るとお思いでぇ? 彼等は名前の通りドブネズミ。猫にも劣るので手を借りるのは役者不足ですよぉ」

「テメェは永遠に口をきかねぇ方がいいんじゃねぇですか。オレは別にこいつ等を馬鹿にしてはいねーんですよ」

「動物を馬鹿にしないように、ですかぁ?」

「ツーアウトでやがります」


 苛立たし気に言うと、糸目の男が黙った。視線を落とせば両手の爪がはぎとられて、ぼたぼたと血が床に染みを作っている。


 糸目の男は爪を剥がされた瞬間を認識出来ていない様だったが、しかし動揺も見せなかった。少しだけ困ったように眉をしかめると、爪のない指をしげしげと眺めてふーっと癒すように吐息を掛ける糸目の男。


 指の、爪の剥れた部分を、魔法で造られた小さく半透明な立方体が包む。サイコロの様な大きさの、ガラス細工の様な箱は十個。すべての指先を覆いつくして、数秒。小さな箱が深紅に染まり、指から離れる。

 十個の立方体が宙に浮き、砂糖が水に溶ける様にサラサラと細かく分かれて最後は消えていく。

 その行程を終えてから再度爪に視線を向ければ、そこには爪と傷のない綺麗な指があった。苦笑して、糸目の男は両手を摩る。


「何やらお気に召さなかったようですねぇ。失礼しました」

「テメェの使い道なんて死体になった後に考えてやります。もう黙りやがればいいんです」

「おや、黙ってよろしいので? ここのドブネズミども全員息も出来ない有様ですよぉ?」


 そう言われて見てみれば、暢気そうな糸目男意外、この場の全員が脂汗をかいて息を呑んでいる。息の吐き出し方が解らないのか、吐いた音ですら不興を買うと思っているのか。


「……忸怩たる思いでやがりますが、テメーが喋るのを許してやります。余計な事をしやがったら日を改めてやるから心しやがりなさい」


 日を改める。つまり、今日とは違う状況にして出直すという事になる。具体的には、白銀の青年の隣にいるのは糸目の男ではなくなるという事を指していた。


 白銀の青年の、金色の瞳に射竦められて、糸目男は肩をすくめる。


 強烈な気配の矛先が、糸目男に向けられた事で、ようやく殺し屋達の千切れかけていた緊張感は緩和された。このタイミングを見逃さず、涼しい顔の糸目男は手を叩く。


「そういう訳で、お話の代行を受け溜まりました。皆さん、良い子ですから話を聞きましょうねぇ」


 この重力を感じるほどの空気の中で笑っている糸目男もただものではない。だが、この男であるならば、殺し屋達の緊張も人間の常識の中に納まる物であった。 

 加えて白銀の青年が意識して自身の存在感を無に切り替えた物だから、緊張の緩和は不自然な程の落差を呼んだ。


 その結果――。


「ダロス。落ち着くのです。駄目なのです」

「おいクソガキ。その犬コロ抑えろよ……。全員死んじまうぞ」

「はんっ。六道破りの狂人が聞いて呆れるね。強いと見るなり尻尾を巻くじゃないの」

「んだと? だったらやってやろうか? 連座だぞコラ」

「はわわぁ……」

「……皆煩い」

「お二人とも、それこそ死ぬわよ? ベンゾジアゼピン足りてる?」

「やめろキノコ女。犯して殺して犯すぞ」

「あら? そんな勇気があるのかしら? 一生役立たず(・・・)になってもいいのなら挑戦してみたらどう?」


 白銀の青年の気配に死にかけていたというのに、その事を忘れてしまったかのような会話が、囁き交わされる。白銀の青年の事を忘れていないのに、存在を意識できていない。と、言う感じであった。


 それに関して、それはそうなるだろうと思っている白銀の青年が眠たそうにくわっと欠伸をする。つい、うっかり欠伸をしてしまい、耳の聡い殺し屋達は再び水を打ったように静かになる。

 唐突に意識から消え、唐突に意識に上がる世界の終わりの様な青年。恐怖を覚えない訳がない。そのことに青年は苦虫をかみつぶしたような顔をする。


「おい、早く話をしやがりなさい。いちいちこいつ等が委縮してかわいそうじゃねぇですか」

「お優しいですねぇ。まぁ、そのために笹月は来ましたからねぇ。はいはい、注目してくださいねぇ」

 

 ぱんぱんと、手を叩いて注目を集めようとする笹月と名乗る糸目男。そんな事をしなくとも、既に衆目は二人に釘付けである。


「はい。皆さんが静かになるまでにこのお方が欠伸をしてしまいました。舐めてるんですかぁ? 人生最後の教育受けますかぁ?」


 おそらく、ふざけて言っただろうその言葉に、この場の殺し屋達は笑えない。当たり前の様に全員が言葉に飲まれていた。静かになったというのに、今度は不自然なまでの静寂が上書きする様に場を支配てしまう。


「オイてめーぶっ殺されてーですか? またお通夜じゃねぇですか」

「んふっ。申し訳ないですねぇ。ちょっとしたジョークのつもりだったんですよぉ。笹月だって話が進まないのは本意じゃないですよぉ」

「思ってもねーって事は俺には分かってんですよ」


 にこにこして、詰め寄る白銀の青年をなだめる姿は、どう見ても煽っているのだが、青年がその絶望的存在感に反して理知的なために惨事に発展しないで済んでいた。


「えー。我々はですねぇ。貴方達ヒトデナシの人殺し共を全員雇いたいと思ってここにやってきたんですよぉ」


 この場にいる中では随分年嵩の小柄な親爺が鋭い目つきで睨み返しつつ訊ねる。


「質問してもよいか?」

「はい。いいですよぉ」

「雇うというが、意味が解っておるのだろうな?」

「ええ、ドブネズミに死体を作らせる訳ですよねぇ」

「安くはないぞ」

「んふふっ、笑わせてくれますねぇ。末代まで遊べる金位用意できるのはお判りでしょう?」

「おんし等が我等に頼むからには、我等は死ぬような物であろう? すると我らが末代だ。金なんぞ、大した価値にもならんわ」


 小柄な親爺は、卑屈にならずに強く鋭く、笹月をねみつける。


「金ではない報酬ですかぁ? 面倒な事を言いますねぇ……」


 言葉通りに面倒臭そうに顔を顰める笹月に、当然小柄な親爺は不審そうな目をむけるが……。


「寧ろ聞いてやりましょう。この俺みたいなやつが現れて、依頼してやるんだぞです。お前ら、金ごときが報酬なんて思っちゃねぇだろです」


 白銀の青年が楽しそうに口を挟む。

 随分気さくに口を挟まれ、親爺は震える体を抑えながら頷く。


「なんでも用意してやります。俺が用できる物ならなんでもです」

「……いくら何でも大盤振る舞いじゃありませんかねぇ?」

「テメーは、人にもの頼む時にポケットの小銭を渡しやがりますか? だったら嫌われもん確定ですね」


 ちらりとも視線を向けず、切り捨てる。


「なんでも……なんでも、か」


 言葉を噛みしめる様に、親爺は部屋の全員に視線を配り、見渡す。

 青年も彼らを見る。全員、ただただ気おされて死にそうな顔をしている。いつだって死ぬ事を覚悟してきたはずなのに、死ぬのが怖そうに。

 親爺はこのメンツが欲しがる報酬とは何か、必死に考えているのだろう。


 依頼とやらを断ればきっと死ぬ。そして受けてもやはり死ぬ。だったらせめて、報酬くらいは十全に引き出したい。内心はそんなところだろう。そのいじらしさに思わず白銀の青年は微笑みすら浮かべる。


「……我等を使う理由はなんじゃい。おんしがその気になれば、我等の働きなんぞ休みの中の欠伸とも等しかろうに」

「理由なんて知ってどうするんですぅ? あなた方、理由が知れれば断れるとでもお思いですかぁ?」

「……ワシが問うているのは、そちらのお方じゃい」

「このお方がどれほどのお方かお解かりですかぁ? 少し優しい言葉を掛けられて調子にでも乗りましたかぁ?」


 笹月は、少し瞳を開けて不快を露に言う。が、白銀の青年は何やら楽しそうに頷くのである。


「グッバイワールドの意思決定をテメェごときが代弁するんじゃねぇです。テメェがいなくても会話が成り立つならテメェは用済みなのを理解しやがりなさい。そして、勇気のある無謀な雑魚に解説してやるは優しいと知りやがりなさい」

「それは失礼を」


 無下にされても、笹月は首を竦めてやれやれとジェスチャーをするのみだ。


「いい度胸でやがりますね。だがさっきも言ったように質問に答えてやりましょう」


 質問した親爺が殺される事もなく、白銀の青年は質問に答え始める。


「有象無象のクソ雑魚も死ぬ気になれば、いっその事死んでみれば、あるいは奇跡を起こすと最近になって学ばされちまいました。だったら調べてみない事には気が済まねー。そういう次第でやがります」


 それは、奇跡を起こす者に対する尊敬というよりも、ずっと憎しみに近い感情。

 嫌いだからこそ、価値の証明をせずにはいられない。そんな感情。

 あのクソオタクどもが特別だったと、認めるのは癪である。しかし特別ではなかったのなら今度は自分が貶められる。


 悩ましいが、実はどちらでもいい。表面上の思考など、どうでもいい。


 白銀の青年は自身の心の根底にある物すら理解している。


 あのキモオタどもが命を燃やし、グッバイワールドに食いつけた事実を、非常に高く評価していたのだ。

 

「これは実証実験……。そう、実験だ、です。テメー等底辺が役に立つかどうか、こればかりは確認してみない事には分らねぇです。役に立ってみせやがりなさい」

「そこな男よりもか?」

「そりゃそうです」

「酷な事を求めおる」

「テメーらの戦闘能力なんて期待しちゃいねーですよ。このサディスト野郎に任せると、失敗の未来しか存在しやがらねぇんですよ」

「酷い言われようですねぇ」

「多少の暴走は許してやりますが、失敗しかしねぇ運命を辿るのは愚行と知りやがりなさい」

「ぐうの音もでませんねぇ」

「こいつも動かしますが基本はサポートをやらせます。実働はテメー等です。俺が望むのは下準備でやがります」

「……我等は職業殺し屋ぞ。役に立つ事は殺しのみよ。殺しに限り、我等は役に立つ」


 応える代わりに、右手が適当なポスターへ向き、指を突き付ける。


『DEAD ONLY』書いてある内容はそれだけ。つまり、殺し屋を殺し屋として使おうという事である。


「……報酬を、すまぬが思いつかん。が、ただで小間使いになる事はない」


 悔しそうに親爺は言う。

 それを白銀の青年は鼻で笑う。


「しみったれた人生をやり直したい。何を間違って人殺しになっちまったのか悩みやがってる。これはあってやがりますか?」

「……この場にいるどいつもこいつもがそう思っているだろうな。だが、遅きに失した。反省するような人生は気付いた時には遅い」

「結構結構、出してやります。お前らが欲しがる報酬を用意してやります。グッバイワールドのリアムが約束してやりますよ」


 悪魔の様に、白銀の青年は笑う。


「――魔導士、魔術師、魔法使い、妖術師……道士。魔の者が多いの。これは……東京に限られておるんか」

「お、気付きやがりましたね」

「これを全員……」

「全員だです。こいつらは未来の障害になっちまいやがりますからね」

「……未来の?」

「簡単に言っちまえば、こいつ等は俺たちが立てた計画の邪魔になる予定の奴等でやがります。綺麗に敷かれた石畳にゴミが落ちていたら進路を変えたくなっちまうじゃねぇですか。だから道を整えろと俺は依頼してやってます」

「おんしらの障害になるような人物を……人手が足りんのだが、助っ人を入れてもいいかの?」

「なっさけねぇですねぇ。自分達の未来を他人の手助けで切り開きやがりますか?」

「……」


 思わず言葉を失う親爺に白銀の青年は意地悪をし過ぎたと苦笑いを見せる。


「まぁいいんじゃねーですか? ただし、条件をつけさせやがりなさい」

「……条件と?」

「難しい話じゃねぇです。ワンダフルワールドの息が掛かっている奴らを入れるのは許さねぇです。奴等のお気に入りは依頼(そう)じゃなくとも皆殺し以外にねぇのです」

「それは、依頼人の要望に沿うようにせんといかんの」

 

 補足を語ると親爺の気配に安堵が過る。どうやら問題がないようだった。


「助っ人に心当たりはありやがりますか? 俺にはねぇですよ? なんと言っても最高のコーディネーターを用意しろと注文つけてこの糸目サディスト寄こす体たらくでやがります」

「本当に酷い言われようですねぇ……」


 そんなやり取りを尻目にしながら、親父は汗まみれの掌を見せまいと、益体のないプライドをもって隠している。それも悪くないと白銀の青年は満足げに言葉を待つ。


「一人……いや二人ほど……おる」

「プライドを捨てて、殺されちまうかもしれねーなんて思いながら、やっとの思いで提案するのがたった二人? それで結果を出せるっていいやがりますか?」

「余分があると失敗する」

「そんなに自信があるならそれでいいんじゃねぇですか。それで、テメェが縋りてぇのはどんなやつらです?」

「……異世界人を殺す事に人生を掛けた男と、最強の剣と呼ばれる剣士じゃ」 


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