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五分前仮説のブランニューワールド  作者: 幾楽あくた


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未来シコウのチートデータガール プロローグ

 ああ敗北だ。だが、これはいい敗北だ。惨めな敗走じゃないからこれは良い。


 やれることはすべてやった。出来る事は何でもやった。怖くて苦手な上司に土下座した。心配してくれる家族にきちんと言葉を残した。


 助けてやりたいと思ったから、助けるために動く事が出来た。


 いろんな世界を見てきた。様々な悲劇を見てきた。助けてやりたいと思っても、まったく何も出来ず無力に打ちひしがれる若者を多く見てきた。その立場になった時、自分は果たして何か行動を起こせるか。ずっと妄想していた事への答えを出す事が出来た。満足する答えを、きちんと出せた。


「ふーむ、もうすぐ我々は死にますな」

「死ぬだろうなぁ。散々やって、めっちゃ怒らせたからなぁ」

「ヒヒヒッやったな。やってやったな。ざまぁ。グッバイざまぁ」


 鼎談(ていだん)は狭い部屋で。


 四方八方をモニターに囲まれて。電球のつかない部屋はその青白い光だけで明るい物だ。

 中央で顔を寄せ合う三人は、真っ黒なシルエットながらその特徴的な容姿が浮き彫りになる。


 デブ、ちび、若禿げ。


 端的に言ってそんな三人だ。三人とも眼鏡をかけているのもわかる。モニターの光で眼鏡のレンズだけが妙に光ってる。


 ザザッザ――


「さすが奴等の下部団体だったと言ってやります。ですが、それでもまさかこんなクソキモ野郎共にしてやられるとは思いもよらねぇので、正直ブチ切れました」


 唐突に、室内のスピーカー全てから声が響いた。苛立った声である。

 

「フハハハハ。随分お怒りですな。我等も頑張った甲斐があるという物だ」


 肥満体系の影が代表して大声を上げる。

 あのスピーカーの向こうにいる人物を怒らせてしまったから、彼等は死の憂き目にあっていた。


 初めは話し合いのつもりだったのだ。ところが聞く耳を持ってくれない。交渉の席に向かった同志が死体になって、帰っても来なかった。話し合いにすらならない。

 どうやって情報を知ったと問い詰められて、真面目に答えてやったら激怒した。え、隠しているつもりだったのかと、本気で驚いたものだ。

 そこからは殆ど一方的な戦争だった。同志が一人、また一人と姿を消し、二度と姿を見せなくなる。


 察しが悪かろうがよかろうが、さすがに気が付く。知ってはいけない情報を知り、あまつさえ口を出してしまったのだと。


「もういいです。何も残らないと思い知りやがりなさい」

「フハハハ。元より根絶やしにするつもりの癖に良く言いますな。勝どき代わりに一言言おうとして、我等が暢気なものだから、さては罵倒も思いつかなくなったんですな」

「語彙力ない奴が一言言おうとなんてウケるな」

「ヒヒヒッ。だっせぇ」


 真っ向から不意打ちをして、死んでいく友人を盾にして、生きている友人を囮にして、結局成果をだせなくて、今から自分たちは死ぬけれど。


 それでも一矢報いたと思える事はした。

 未来に希望は託した。


「クソオタ共が、何笑ってやがるんです? 今から死にさらすというのに」

「笑うとも。明るくないデブなんて、女子にもてないですからな」


「これから死ぬカス豚にアドバイスをしてやります。お前がモテないのは現実を見やがらねーからです。次元が一つ多いだけで目を背ける。理想と妄想を高らかに述べて本物の女から目を背ける。他人の腹には文句を言うのに自分の脂肪には目を背ける。そして今の様に、死ぬ事からも目を背けている敗北野郎でやがるからです」

「酷い言われようですなぁ……」


「リーダー本当にアドバイスされてらぁウケるぜ」

「ヒヒヒッ。じゃあなぁ、グッバイ」


 三人は笑う。スピーカー越しの大敵を肴に大笑いである。

 禿げた男が何かのボタンを押すと、ぶつんとスピーカーが切れる。


「キヒヒヒッあーあ、笑った笑った」

「これで人生の笑い納めだな」

「そうですな。次に笑うのは来世ですな」


 そんな会話が聞かれていたのか。それは解らないが部屋を明るく、青く、白く照らしていたモニターが一斉に赤く染まる。

 終わりが、もはや秒読みなのだ。


「出来れば来世も……」

「よせや恥ずかしい」

「ヒヒッ。だが嫌いじゃねぇぜぇ」

「思いつきましたぞ。来世は二次元に――は良いから、次は、皆に愛さるような顔だといいですな」

「お、それはいいな」

「それなら美少女とか、いや、いっそ猫もいいな。ヒッヒッヒッ」


 これが、たぶん本当に人生最後の笑い声。

 それでも、たぶんいつもと変わらない何気なしの笑い声。

 三人だけになってしまったその根城が、徐々に、徐々に捻じれていく。すり潰れていく。空間という概念に削られていく。


 居場所が知られてしまった時点で敗北だったのだ。それは、解っていた事だ。


 三人は思う。


 ああ怖いな。こんな風に、中心に押しやられ、どこにもいかずに死んでいくんだな。

 次があるなら。

 あるなら。

 ないよな。

 後悔だってないけれど。


『いいよー。面白そだから叶えたげる』


 どこかで聞いた事がある声だった。

 こうして、この日、一つの危険思想団体が壊滅した。


『非実在青少年保護育成委員会』という思想団体。次元干渉と精神干渉に長けたテロ集団であり、警察庁公安部からも危険視されていた犯罪集団である。

 彼等が死に絶えた後。もしも次があって目覚める事があったとしても、もう、醜いと揶揄されるその姿では、ないだろう。

  


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