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五分前仮説のブランニューワールド  作者: 幾楽あくた


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死ぬよりマシなゾンビズム 23


「おい、コード切れているのに鳴る物なのか?」

「古御堂さんよぉ、どっかの大統領が偏見の積み重ねが常識って言ってたらしいぜ?」

「物理学者だ」


 受話器は黒電話から落ちている。本来なら通話中という扱いになる筈なのだが、そもそも本来この黒電話がベルを鳴らわけがないのだが。

 

「はいよ。どちら様でぇ?」

 

 コードが切れている受話器を拾い上げて呼びかけてみる。が、ジリリリン……。ジリリリン……。

 ベルは鳴り続ける。


「……当然っちゃ当然だが、おちょくられている気分だな」


 間抜けをさらした静夜にジト目を向ける古御堂。そしてその後ろに隠れる様にして同じような目を向ける少女。

 なんで古御堂ともう馴染んでいるんだ? 心底不思議なものを見ている気がするがそもそも細かい事を気にしない静夜はその不思議を放っておくことにした。


「ったく、どうやって電話に出ろって言うんだよっと」


 独り言ちて腰を曲げ、黒電話の本体、そのフックスイッチを押してからもう一度耳を当ててみる。

 フックから指をっ放してもう一度「はいよ。どちら様でぇ?」と同じ文言を言ってみる。


『どうも、白紙社北関東営業部部長の今上と申します。この度は当社管理の呪物を破損した件につきまして、貴方様に損害賠償を請求したいと思いましてご連絡いたしました。ご一緒にいる古御堂さんにも責はあると当社は判断しておりますので、その件に関しても、この電話でお話をしようかと思っております』

「あー……。おかけになった電話番号は現在呪われているようです。足を洗って考えなおして一昨日来てください」

『……ふざけるのも大概にして頂きたい。バッドステータス。今回の件は『街』が関わる大事だ。お前の様なチンピラが手を出して潰していいような案件じゃない』


 静夜がふざけると電話の向こうの今上は歯を噛みしめる様な声音で静夜を罵る。


「チンピラじゃなくてヤクザの仕事かい? 意識が高くて良いこった」


 そこを更に煽る静夜。しかし、内心では行き先が見えずに焦っていた。特に、この件で古御堂に目を付けられる事が面白くない。覚悟はしていたし、古御堂も納得尽くの状況ではあるが、それでも穏便とは程遠い結果が導き出されそうで、それはやはり心苦しいものである。


『対価なら払える筈だ。今までの分も割引で考えやる。こちらからは半分を要求する』


 半分。それは静夜が所有する呪物の半分を寄こせという脅しである。一つ一つが一財産。静夜のコレクションを全て然るべき場に出して売り出せば、少なく見積もっても十億円にはなる。もともと資産としての価値は見出していないし、なんならお荷物ですらあって、どうにか手放したいとすら思っている。だが、それであっても相手は白紙社。手に入れた呪いの行方は自分以外の誰かの不幸である。


「それなら所有者が必ず死ぬ椅子で手を打とうぜ? 立派な椅子に座らねぇと出世出来ねぇって聞いた事があるぜ」


 それとて渡す気のない応酬だった。静夜のコレクションが欲しいなら死んでみせろという嫌味である。


『呑めないなら親類縁者、子々孫々、根こそぎ全部的に掛ける』


 聞こえない様に舌打ちする静夜。


 煽りに対する答えはつまり、危険ではないがそれなりの厄がある呪物を寄こさなければ、会社が総力を挙げて静夜の知り合いに手を出すという事である。

 白紙社がまさかこんなにもこの件に関して怒りをあらわにするとは予想していなかった。いつだって場当たり的に呪いを改変し、杜撰な管理で呪い垂れ流している白紙社が、明確に憤激している。この怒りは電話越しでも伝わり、聞いている静夜も、一瞬はどうにか沈めるべきかもしれないと思う程であった。


 個人である静夜に対して組織力のある白紙社。これはさすがに分が悪い。かといって呪物をまともに管理する意思がない白紙社に渡すには、静夜のコレクションは価値が高すぎる上に、他者に及ぼす影響があまりにもでかい。このまま交渉が続く様ならズームォを引っ張り出す事すら考えなければならないだろう。


「おい、弓代……」

「俺のコレクションがお前さんたちの手に負えるたぁ思えねぇんだが?」

『手に負えなかったからなんだというんだ? そもそもマジックアイテムも呪物も、我々人類の手に負えないのに存在している。ならばやり方が解らない無知蒙昧な阿呆共や、貴様の様な社会的信用のない破落戸ではなく専門家の我々が取り扱うのがいくらかマシという物だ』

「おーおー、取り扱う努力も出来ねぇ素人の開き直りかい?」


「おい」

『どうやら貴様は当社の財産に危害を加えておいて一顧だに反省を見せない愚物のようだな。法的解決だけが世の中の理と思うなよ?』

「法律に頼ったら負けちまう後ろめたいお前らにゃ暴力以外にゃ手段が思いつかねぇようだなぁ。こちとら話し合いにゃ応じてやっても構わねぇんだぜ? どうだいお宅らで手に負えなくなった呪物をこっちで片付けてやるぜ。今なら特別サービスで無料にしてやるよ」

「おい、弓代」


 先ほどから背後で古御堂がうるさい。さすがに今小言を言われても聞き流す以上の事は出来ないのだが。


 そんな気持ちでもこのまま無碍に徹する訳にもいかず、視線を向けると、そこには黒と緑の存在――この街に巣食う本物の化け物が立っていた。

 顔は認識できないのに、整った造形であると解かる。瞬きをしているのが判る。薄い笑みを浮かべているのが判る。全てを自分以下の存在だと確信して慈愛の目をしている事が判ってしまう。


 さすがに目を丸くして絶句する静夜だったが、驚かせた本人は静夜の反応にはまるで頓着せずに当たり前のように歩いてくる。


「青年。ちょっとその電話を貸してくれないだろうか」


 すっと手を差し伸べてくる推定美女。有無を言わせない迫力に圧倒され、静夜は咄嗟にその黒受話器を手渡していた。


「もしもし。私が誰かわかる? わかるでしょう。このタイミングだものね」


 やや高圧的に言い放つとしばしの瞑目。そして満足そうに笑みを浮かべた。


「私が依頼した内容は、自殺者を一人も出さない様にする事。けど、この度それが不履行となったので、電話を換わり、私が話させてもらっているわ……それは違うわ。呪縛が壊れる前、この街で自殺者が出ている。そして、私が電話を換わった意味も是非とも考えて欲しい」


 ちらり、静夜をみる緑黒の女。


「嘘じゃないわ。そちらもどうせ記録しているでしょ? 昨夜、夜の九時。小達磨市開催の数秒前。心臓を自ら貫いて自殺をした人間がいる」


 ――静夜にはその時間の、その自殺に、心当たりがあった。口の中に、あの日以来食べていない林檎の味が蘇る。


「自殺企図がなかったかどうか、とか、直ぐに蘇生した。とか、そこはどうでもいいの。自分の遺志で心臓を貫いた。そして、間違いなくその人物は一瞬死に至った。これは貴方達のシステムに明らかな欠陥があった事を示しているわ。あら? 水掛け論にすらならない事実確認をするようならば、白紙社の程度は知れたものだと認識させてもらうけれど、いいかのかしら? はい。解ってくれれば結構です。で、まぁ、それを置いておいても? まさかデストピアを作って依頼を成就させるなんて? まぁ、その辺に関しては放任していたし? 手段を問わないとは伝えたし? 結局上に報告する私が怒られればそれで済む事で? リスクとリワードを考えたら結果は悪くないと思っていた。けれど。でも。それでも報告しやすい方法を――ええ、解っていただけたならこちらの件も結構。では。ええ。なら文句はないわよ」


 ぷらぷらと揺れる受話器のコードを指で絡めるように弄っていた女は、律儀に黒電話の上に戻してから静夜の方に向き直った。

 さて、この街に巣食う怪物が依頼してここを維持していたとなると、それを破綻させた静夜に一体何を言ってくるのだろうか。もしかしたら白紙社よりもよほど質の悪い事を言ってくる可能性すらあった。

 そう身構える静夜に、黒と緑の女性はとても困ったような顔の雰囲気のようなもの向けてきた。


「青年は総帥のお気に入りだったのね。人が悪いわ。総帥の査察ならそう言ってくれればよかったものを」

「……一体全体何の話だい?」


 静夜はあたかも関係があるかの様に匂わせて白を切ってみせたが、本当に意味は解っていなかった。心当たりや推察する事ができても、下手に何かを言っては話がややこしくなるだけだろう。


「そういう事にしておこう。人間大好きなあの方々の事だ。私の街作りがお気に召さない可能性も、それは考えたのよ。だから、今回の話はなかった事にしたわ。今回の件で白紙社が青年に関わることは今後一切ないと思って構わない」

「そりゃ……ありがたいこった」

「もっとも、青年が他の事で白紙社にちょっかいを出していたら別件で噛みつかれるだろうけれど、それはさすがに私の関与する所にないわね」

「ごもっとも」


 どうやらこの街における支配者が静夜を直ちにどうこうしようという意思はない事を、それどころか悪感情すらないとわかり、静夜は内心安堵して頷く。


 踵を返して一歩、二歩と静夜から距離を放したが、ふと何かを思い出したように立ち止まると、


「それで、もう私は居なくなるけど……それ、どうする?」


 ぐるん。


 不気味さすら漂う首の振り方で静夜ではなく、古御堂でもなく、くすんだ白髪の少女に顔を向けた。

 その雰囲気はゴミ箱に入り損ねた紙屑に気付いただけという物と差異はない。それゆえに拾ってゴミ箱に入れるのはやってあげても構わない。それ位の気軽さであった。

 それだけに、古御堂の後ろで少女は声も上げられない。事のついでに処分されるという可能性に気付いたのだ。


 五人の男たちが、歯の根を震わせる少女と古御堂を庇うように身体をずらした。もしも目の前の存在がその気になれば男たちの肉の壁など歯牙にもかけずに後ろの少女は塵になって塵取りでかき集められてゴミ箱行きになるだろうし、男たちは何の意味もなく消えていくだろう。


「ああ、そうだな。こっちで使い道は考えらぁ。そんな訳で問題ねぇ」


 間抜け面の古御堂も、意味もなく死なないで済んだ五人も、静夜に感謝するべきだ。そして助けられたガキんちょはもっと感謝しろ。

 緑と黒の女は値踏みするように静夜の方を向き、続いて古御堂を見て、少女を見て、最後に五人を指さした。


「そう……山田と、伊藤が二人、木島と、ノア。そんな名前よ」

「感謝の言葉しかねぇけど、そりゃサービスかい?」

「次、この街で真似事でも自殺をしたら許さないわよ」

「肝に銘じるよ」

「それじゃ本当に帰るわ。青年。もう二度と会わない事を願っているわ。でも総帥にはよろしく」


 その言葉を最後に、差し込む光に出来た濃い影に消えるようにして女は姿を消した。

 嘘みたいに静まり返って、何もかもが終わって、静夜はおおきく息を吐いた。


「……さすがに肝が冷えただろ?」

「ああ、視界に入れるだけで……そうだな、悪夢で感じるような絶望だった。あれは逃げる事も出来ないんだろうな」

「落下する夢とかな。実際にゃ慣れてるのに夢だとどうにもなんねぇんだよなぁ」

「落下に実際慣れる奴なんて聞いた事がない」

「なら初めて聞いたな」

「……あれは何だったんだ?」


 静夜の言動に何かしらの諦めを見せて、古御堂は話を進める。


「聞いた事あるかぁしらねぇが、街にゃ管理人がいるんだとよ。市長とか、町長とか、そういうんじゃなくて、ああいう本物の支配者がよ」

「守り神か……聞いた事はある」

「ま、さっきのぁそういう奴等の一人よ」


 しかし実際は守っているなどとんでもない。奴らは思うままにゲーム感覚で街を作り、ゲーム感覚で人の生き死にを数える。目的さえ達成されればその過程は心底興味の外。つまり人の生は数字であり、その増減に満足する事ができるのであるならば過程はどうでもいい。この街にいたアイツは自殺者を減らそうと思い立った。その手段として大量虐殺を利用して自殺者を減らさなかった分、まだましな存在だと言えるのだ。善悪ではなく数字の大小をみる。大が良しとは限らず、小を悪ともしない、独自の感性で世の中を眺める存在。


 幸いな事に、たとえ戦争が起ころうとも、興味の外であるならば不干渉が基本なので奴等が歴史を刻むことはないらしい。


 そんなことを古御堂に説明すると、鬼の顔は深刻そうに顰められた。


「二度と会わない事を願うのはこっちの台詞だったな」

「まったくだ……ところで古御堂。お守り、なくしてねぇよな?」

「ああ、ここに入っているままだ……これは?」

「こっちは悪霊が憑りついていた指輪だ。雑魚だったから俺が付けている内に成仏しちまったけどな。んで、そっちが悪霊に憑りつかれやすくなる体質改悪の指輪だ」

「そんな気味の悪い物を俺に渡すなよ……」

「まぁ、見てろ。そんで聞けって」


 静夜の親指につけられていた髑髏の指輪は古御堂の大きな掌の上ではピンキーリングの様に小さく見えた。


 もはや除霊されて空っぽになった指輪を、古御堂の隣にいる少女に押し付ける。静夜にはまだ怯えているようだが、怯えているなら当然渡されたものを乱暴に投げ捨てたりはしはしない。


「うまい具合にパスがつながりゃ、このガキャ古御堂に憑りつくって寸法よ」



次エピローグ。僅かにでも楽しんでいただけたら嬉しいです。

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