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五分前仮説のブランニューワールド  作者: 幾楽あくた


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死ぬよりマシなゾンビズム 14

「ああよかった。このまま君が種を残さなかったどうしようかと思っていたんだ。君の子供達にも僕たちは期待しているんだぜ?」

「……」


 さては静夜の事を真剣に同性愛者と思ったか、恋愛的な物に対して意地になって拒んでいるとでも思ったか。

 自分たちが原因の一因だと知らされて、本当に驚きながらも納得したのだろう。少年の見た目をした存在は、複雑そうな顔をした静夜を尻目に笑顔を深める。


 それはさておきだ。


「言っとくがハーレムなんてやらねぇぜ?」

「……え?」

「惚けんじゃねぇよ。達ってなんだよ? そんなぽこぽこ一人から生まれたりする訳ねぇだろ」

「……そんな。最強遺伝子人類つよつよ底上げ計画は既に始まっているというのに!?」

「んなもんリスケしろよ。ばっかじゃねぇの? 一人作るにも悩んでんだぞ? 二人も三人も出来るかってんだ」


 第一、恋人作るからにはそれはその人物を大切にするという事だ。大切とは特別、特別が何人もいたら、それは特別ではないのである。

 どの面下げて、お前を愛していると言った口で他の女とキスをするというのか。


「いやいや、開き直って、皆大事で特別で、誰も泣かせたくないって言ってみせてよ。ハーレム許容の文化は育てておいたから」

「馬鹿だろテメェ」

「口だけで結局恋人作らない君に言われてもなぁ」

「……好きになれる奴がみつかりゃ俺も頑張るさ」

 

 そんな良い女はきっと静夜以外の素敵な誰かと幸せになっているだろうが。


「いやいや、そんな女の子いたよね。しかも積極的にハーレムを推奨してくれそうな子が」

「……誰の事言ってんでぇ?」

「僕が見ている事に気が付いた、あの子。君に憑いているどの精神体にも、どの呪いにも負けない、この世界の中では強いあの子だよ」

「あー……本当にデバガメ坊主だな。おいクソガキ、ヒカさんはそもそも俺の友達だ。勘違いとかじゃねぇぞ? あの人ぁ……男にゃ興味がねぇ」

「うん。あんまりね」


 ニヤリと笑って見せる当たり、人の心以外はかなりの精度で理解できているのだ。それがまた、腹が立つわけだが。


「彼女は僕達の改変をものともしないタイプだ。けれど、彼女自身はそもそも僕ら好みさ。実力があって、我を通せる。そして面白い事が好き。自分が好きと思う事をするのを是としている。彼女は僕たちの思い通りにならないだろう。君と同じようにね。だけど彼女と僕達の面白いと思う事には、共通点がある」


 もしや、今回この夢にこうして現れたのは、彼女に手を出すという宣言なのではないだろうか。

 小さな不安を覚えた静夜はすぐに釘を刺す。


「ヒカさんに変な事したら俺にも考えがあるぞ?」

「えー。大丈夫だけど? しないけど? その考えは実行されそうでやだなぁ」

「何でもかんでも好き放題になるって確信しているからお前は毎日が面白くねぇんだよ。たまにゃ出来る事もしねぇって事を楽しめよ」


 直ぐに脱線するからついつい冷めた目で呆れてしまう。


「ふぅん? あーあ、生意気だな。この世で僕に説教言えるのは。えーっと、多くても十人いないよ? 本当に気に食わない」


 声は乱暴に投げやりだが、笑みは変わらない。笑みと感情が一致しているかは知らないが、おそらく選択を誤ってはいない筈だ。


「それに出来ない事の第一歩として僕は君の思考をいじらない。説得して思い通りにしようと思っている。そこの所解っている?」

「説得しようとしている内容が頓珍漢なんだっつってんだよ」

「それは……無理だよ。僕君の気持ち解らないんだもの」

「開き直るなよ」

「他の皆はハーレムって言われたら男も女も結構喜ぶんだよ? 何が嫌なのさ」

「……」

「ご機嫌斜めに睨まれているのは解るよ?」

「……」

「わかったわかった。彼女をいじるのも絶対しない。約束するとも」


 よし勝った。言質を取った静夜はやり遂げた気分である。


「まったく、ハーレム作ったって別にそれがトリガーになって乗っ取られる。なんて事はないんだよ? そこに何も因果は用意していないからね」


 話が戻ってきてしまって静夜は内心舌打ちをする。いつもの会話だが、いつものように苛立ってしまう。


 このようにこの夢の中の存在は静夜にいろいろと要求してくるのだ。


 世界を相手取って喧嘩をしろ。

 五大禁忌の討伐を果たせ。

 転がり同盟と対立。もしくは協力関係を築け。

 グッバイワールドに対する愚痴を聞け。

 そして美女と美少女のハーレムを作れ。


 どれもこれも、普通の人間には不可能な、いわゆる無理難題であった。


『本当だったら君に入る予定だった子にやってもらおうと用意したイベントは山ほどあるんだ。でも別に君にやってもらっても良いんだ。僕達は君がどう困難に立ち向かうかを見てみたいんでね』


 そういう言葉からどうやらこの存在が静夜の境遇に大きく関わっているのだと悟るのである。


「けどよ、ハーレム作ったら俺の体が乗っ取られねぇ訳でもあるめぇし、そうしたら傷つく女が増えるかもしれねぇんだぜ?」

「えー、ネガティブだなぁ。がっかりだ。がっかりだよ。僕はとってもがっかりさんだ」


 静夜が乗っ取られないための努力を続ける限り、急遽仕様を変えて転生者になったりはしない。


 かつてそう断言したのはこの存在だ。


 口約束だが、信じない理由もない。書面に書き記したからと言ってこの存在が、だから何だと言ったらそれまでだ。そもそもこの超存在を信じられないのであるならば、静夜は自分が転生者の素体であるという事すら信じられなくなるだろう。


「じゃあせめて、存在っていう表現どうにかならない? 今は金髪美少年なんだしさ」

「あん?」

「僕の事を君は存在という名称で認識しているじゃないか」

「じゃあいい加減名前教えろよ」

「えー。やだよ。恥ずかしいじゃないか」

「……クソガキ」

「まだいいかな。とりあえずクソガキを認めるよ」


 うんうん。と腕組みをして頷いてみせる。

 別に、固有名詞としてクソガキではなくて悪態としてのクソガキなのだが、そもそもクソガキと呼ばれてそれを満足そうにする神経が解らない。が、指摘するのは、墓穴を掘るにも程があると流石に自重する。そもそもそんな世間話のような事をしていても埒が明かない。


「そんで、結局何しに来たんだ? 今んと世間話しかしてねぇぞ。まさかそんな事の為に来たのかい?」

「え? うん。そうだよ。だって君僕の言う事なんて全部聞き流すじゃん。だったら世間話以外にする事なんてないじゃないか?」


 それは自明の理を語るかのように。

 あまりに当然の事を聞かれて面を食らったような顔である。

 

「嘘だろ。暇なんかい?」

「なに言っているのさ。勿論暇だよ。僕たちより暇な奴なんてこの世に存在しない」


 そう言われたら、そうなのだろう。と、納得するしかない。

 今までの言動を鵜呑みにするのなら、世界を思い通りにつくりかえる事が出来ると嘯き、神と悪魔を作ったどころか、地球を支配する物理法則や科学法則などすら自分達が作り変えたというのだ。


 望めばそのようになり。

 願えば叶い。

 そうであれと決めればそうとなる。

 そうして何百年も自分の思い通りになる世界で遊んだのなら、最早暇つぶしの方法を考え付く事が一番の難題になっているらろう。


 その難題に巻き込まれている結果が、まさにこの現状訳であるが。


「暇だから結構面白い事を思いついているつもりなんだけどさ……あー、思い出したぞ。あの鬼の人さ」


 ぎゅるん。と見開いた目が静夜を見る。

 少し慄きつつも静夜は何とか応じる。


「……古御堂がどうかしたかい?」

「なんなの?」

「はぁ?」

「僕たちが作ったルールを誇張している。おかしいじゃないか」

「意味が解らねぇけどよ、気に入らねぇなら何とかしたらどうだよ」

「出来る訳ないじゃないか。そんな事をしたらちっとも面白くない!」

「なんなんだよその変な拘り……」


 憤慨する少年に、静夜は殆ど独り言の様に呆れた。


「なんでぇ。するってぇとなにかい? 古御堂はお前らの大好きな想定外かい?」

「想定内さ。想定内だとも。けど……上振れだね。あの土建屋は良い事を言ったと思うよ」

「……ズームォか?」

「これ以上のヒントはあげないよ。十分すぎるでしょ?」

「意味が解らねぇ。もっとまともな事教えろよ」

「まともな事のつもりだけどね?」


 これだから見た目だけを静夜達に似せた超常的存在は困る。意味が解らない。

 そんなことを考えると、実に仏頂面をしていた少年は唐突に機嫌をリセットしたように笑顔を作った。


「でもまぁ、じゃあ、せっかくのリクエストに応えてあげるよ。そう、助言って奴だ」


 その顔は嬉しそうに。こいつの情緒どうなっているんだ。

 いつかやってみたかった事がついにできる喜びに満ちている。


「あー。でもなぁ。言う通りにしないんだよなぁ。んー。よし決めたぞ。僕は閃いたぞ」

「うるせぇぞクソガキ。言うなら早く言え」


 そもそも言わなくてもいいのだが。

 こほん。あーあー。うん。そんな事をわざとらしくやってみせる当たり、本当に腹が立つ。


「――結果は何も変わらない。でも不幸すら受け止めたければ正面からいこう。気休め程度の希望がほしければ裏口がおすすめだ」


 目を閉じて、ふふんと誇らしげに神託する。


「そりゃ何の話でぇ?」


 対する静夜は懐疑的な目で横目にクソガキ――少年をとらえる。


「その時がくれば自ずと解るさ」

「有難くて涙出てくるぜ」


 このタイミングの話なら、六反園ビルに乗り込む時の手順の話だろう。とりあえずはそう思う事にした。

 あそこに裏口があったとは知らなかった。そっちが楽なら選びたいところだが、結果は変わらないというからにはどっちでも同じなのだろう。益体もないとはまさにこの事だ。


「僕の言葉なんてさ、まぁ投げ銭みたいなもんだよ。推しを応援する手段の一つだね。それで受け取った側の人生が変わったりはしないのさ」


 推されている。の、かもしれない。そう思うと複雑な心境で、口元がひん曲がる。


「うっわ嫌そうな顔」


 満足そうに喜色満面で少年は笑う。


「安心しなよ。僕は口を出しても助けは出さないからさ。たとえ殺されようとも指を咥えてみていてあげるよ」

「そりゃ安心にゃならねぇだろうが」

「ふふ、でも僕が助けてあげるって言ったら君は首を振るよ」

「俺ァ生き残る為にゃ靴でも舐める質だぜ?」

「あーあこの嘘吐き」


 嘘なんか言っていない。後から何を言われるか分かったものではないのだから、先に条件を提示するのは当然の事なのだ。


 もっとも、『映画のストーリーに文句は言うけど監督を殴ったりしないよ。できるだけね』という事を以前言っていたので、そもそも靴をなめても助けてくれたりはしないだろうが。


「とっても気分がいいから、そんな嘘吐きな君にいい事を教えて上げようじゃないか」

「随分サービスがいいじゃねぇか」

「僕等が作ったこの世界でね、転生を拒めているのは、ついに君独りになった。お陰で僕等は君に大注目だ。そうでなくてもイカレているキャラ設定は人気があるのに、いつ終わるかも判らないその抵抗に手を出すのにはあまりにも勿体ないと思っているのは僕だけじゃない。僕等だよ。折角僕等は見た事もない奇跡を目の当たりにしているんだからね」


 初めて聞かされる話だ。

 特別視されているのではないかという予感は感じ取っていたが、言葉として聞かされると奇妙な安心感が生まれる物だが、しかし静夜は敢えて斜に構える。


「随分口が軽いじゃねぇか」

「不味かったら記憶をいじるだけだしね。あ、ちなみに君の心が折れるのに後十年、僕はそこに全チップをかけているよ」

「本当にクソガキだな」

「だから良いって言ったじゃん。僕は君にとってのクソガキさ」


 ケタケタと、絵に描いた様な笑い方をして、目だけが本当に嬉しそうな三日月型になっていた。


「帰れクソガキ」

「うんうん。そのつもりだとも」


 おそらく、どんな罵詈雑言を浴びせても、こいつは一切気にしない。なぜならば生きている次元が文字通り違うからだ。


 規模は想像もつかないが、最低でも人と神程度の差ではない筈だ。そんな近い物ではない。神以上の存在を想像できないので自分の規模を下げるしかない。その場合、単細胞生物や細菌くらいが妥当だろうか? 意思疎通ができたって、きっと心に届く罵倒など存在しないだろう。

 その癖に自分から歩み寄ってきているからこそこのアンバランスな関係が成り立っているのだ。


「それじゃ、君の元気な姿を見れて僕は嬉しかったよ」

「……ま、いい話を聞けて俺もよかったぜ」

「嘘しか言わないね」

「実は嘘しか言ってないかもしれねぇな」

「そうだろうね。そうだろうとも。それでもいい。それでいい。君がそのままであるように僕は願いつつ、僕はお暇するよ……。それじゃまたね」


 そう言って、まず先に気配が消えて、その事に気が付くと同時に姿がない事に意識が追い付く。


 きっと、現実で邂逅しても、別れはこのような不思議な物になるのだろう。

『主人公は夢で超存在に会うのがお決まりだからね』そう言って夢にしか現れないあの少年の姿をした化け物が、もしも現実に現れたらと思うとゾッとしないのだが。


 そんな事を考えている内に、静夜の意識も浮上していく。再び鳴り響く泣き声を置き去りに、静夜の夢は覚めていく。



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