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雨の日には君を想う  作者: 柚月
本編
9/23

無意識の定め

「みーずきっ、ただいま!」


 日帰りで冒険者の依頼をこなしに出かけていたレインは、ずっしりと銀貨の入った革袋を腰に下げ、歩くのをサボってふよふよと半透明の姿で漂うように帰路についていた。

 家の前で掃き掃除をしていた美月の姿を見てパッと明るい表情を浮かべたレインは、素早く実体化すると、ボールを持って飼い主へ戻る犬のように急いで彼女のところへ駆け寄った。

 一回りも二回りも小柄な美月に甘えるように抱きつく。

 尻尾があればブンブンと振り回していることだろう。

 ぎゅーっと抱きついてくるレインの力は強く、冒険者をやっているだけあって筋肉が程よくついていた。


「お帰りなさい、レイン。

っん、もう、……ちょっと苦しいわ、加減して頂戴。」


 少し息苦しくなって、美月は苦笑しながらレインの腕を軽くタップした。


ーーあの妖しい雰囲気のレインは、美月が見た白昼夢であったのだろうか。


 あの時のことを話題に出すことは怖くて、美月は口をつぐんでいた。

 レインの確定幽霊説を、暫定幽霊説に戻すべきであろう。

 レイン自身が自分を幽霊と言ったことはないのだが 、幽霊にしては実体化することもできるし、実は結構高いランクの冒険者なんてやってる。

 もっとすごい何かなんじゃないだろうか。

 過去に思い切って聞いたことがあるが、幽霊なら幽霊と思ってくれていいと、上手にはぐらかされた。

 それ以上の力を持っているように見えて、隠されていることにもやもやする。

 別に、レインの全てを知りたいとか、傲慢な考えを持っている訳ではないはずなのに。


 無防備なことに、普段のレインのわんこというか、子供っぽい印象が強い為、美月は彼が危険な存在だとしても自分が害される可能性があるとは、欠片も思っていなかった。

 


 レインと暮らして数カ月が経つと、だんだん遠慮がなくなってきたのか、レインの甘えるような悪戯やスキンシップが増えてきた。


「おはよう、レイン。」

「……はよ。」


 寝ぼけ眼なレインは、美月の背にのっそりと寄りかかり、その肩に自分の顎を乗せて、頬と頬を寄せた。


「やだもうレイン、痛いわ。

顔を洗ったら目も覚めるでしょ。

剃ってきて。」


 朝の無精髭が生えた頬でスリスリとすり寄られて美月は、レインの顎に手を当てて押しやろうとするが、レインは微動だにしない。

 無精髭攻撃が、最近のブームの一つだ。

 毎朝のようにやられて、痛がった美月が最終的に怒るまでがお約束である。

 美月がさまざまな反応をすればするほど、大喜びで色々な悪戯を仕掛けてくる言動はまさに、好きな子をいじめるというアレである。


「もうっ、悪戯ばかりして!」

「いやぁ、なんか美月って、怒るのを無意識に我慢してるみたいだったから。

敢えてだよ、敢えて。

我慢は体に悪いんだぜ。」


 アリスが原因で怒るのを我慢するのが癖になっていたのは間違いではないので、善意だと言われると何とも言い難い気持ちになる。


「だからって、わざわざ怒らせなくたっていいでしょう?」

「怒る美月も可愛いんだから、これは不可抗力だよ。」

「か、可愛いとか、そんなことないから。

からかわないでよ。

さ、いい加減顔を洗ってきて。」


 かぁっと、耳まで真っ赤にして、いつの間にか腰に絡みついてくるレインの腕をつねる。


「今日の朝ご飯はあなたの好きな羊のハーブソーセージよ。

パンだって焼きたてなんだから、温かいうちに食べましょ?」


 ようやくしっかりと目が覚めてきたのか、レインは一つ伸びをして洗面台へ向かう。

 以前はなかった場所に、壁掛けの大きめの鏡が設置されている。


 そこには、 髭を剃るレインの姿がしっかりと映っていた。

 

 鏡には食卓に料理を並べる美月の後ろ姿が映っており、調理用に束ねた長いポニーテールが、ゆらゆらと揺れていた。

 混じり気のない雪白の、綺麗な長い髪だ。

 特にこれにしようと決めて、美月の髪色を変えたわけではないのだが、無意識の行動では、汚れのない純白が似合うと思ったのだろう。


 レインは時折、一瞬だけのことが多いのだが、記憶を失っていることがある。

 それを無意識の定めと呼んでいた。


 プラチナブロンドや象牙色、乳白色の髪の人間はいるが、ここまで純度の高い白い髪は、なかなかいないので、やりすぎた感は否めない。

 うん、美月には黙っておこう。


 髪と同じダークブロンドの髭を剃りながら、鏡越しにレインは美月に要望を出した。


「今朝は羊飼いのソーセージか。

なぁ、まだ羊肉が残ってるんだったら、昼はそれでシチューが食べたいな。じゃがいもと煮るやつ。」

「アイリッシュシチューね。いいわよ。」

「やった!」


 素直に喜ぶ声を聞いていると心が温かくなる。

 残りの料理を用意するために台所に引っ込みながら、レインには聞こえないように、ぽつりと呟く。


「………あなたといると毎日が楽しいわ。」


 あれが食べたい、これを作ろう、だなんて、ただの日常会話なのに、なんだか癒やされる。


 ーーここに来てから、いつも笑っているような気がする。


 本当に感謝しているけど、それを伝えると調子に乗ってますます悪戯をしてきそうなので、 内緒にしておくことにした美月なのであった。


よろしければ★を頂けると嬉しいです。


本作は短編「視線の行方」「視線の絡み合う先」「聖女の瞳は輝く」と登場人物が繋がっているので気が向いたらぜひご覧ください。

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