雨の日に出逢ったから
通された古い一軒家の内装は、外装から想像する通りに年季が入っていた。
雨露はしのげるし、隙間風は塞いであるのか、雨が降っていても寒くはない。
そもそも 美月は贅沢が言える立場ではないので 暫定幽霊である影の主に感謝した。
「 改めて、自己紹介しようぜ。」
木製の古びたテーブルに、一脚しかない椅子をすすめられて、流石に美月は遠慮した。
すると、暫定幽霊な青年はふわりとあぐらをかいたまま宙に浮かび上がったではないか。
一応、会話しやすいように美月と顔の位置を揃えたかったらしい。
美月の中で、暫定幽霊から確定幽霊になった瞬間だった。
異世界の常識はわからないが、少なくとも美月の知る人間ではない。
いちいち驚いていたらキリがないので、美月は青年の行動はいったんそう言う物として受け入れることにした。
「私の名前は美月よ。」
「 ミズキ、……ミズキ!うん。覚えた!
なぁ、ミズキって名前はどう書くんだ?」
「え〜と、こう書くのよ。」
この世界の文字とは違うんだろうけども。
筆記用具なんてなさそうな環境に薄々気付いていた美月は立ち上がると、曇った窓ガラスに息を吹きかけて、キュッキュッとレインに自分の名前を書いて見せた。
「美月、か!見たこともない文字だけど、なんか綺麗だな。」
「そ、そう?えっと、ありがとう。」
レインはまるで、好奇心旺盛な子供のようだ。
裏表などなさそうな素直な賞賛に照れて、はにかむ美月に、にこにこと嬉しそうな笑顔を向けてくる。
「あなたの名前は?」
「それがだな、俺に名前はないんだ。」
「え、 名前はないってどういうこと?」
「 詳しいことは言えないけど、今までは名前がなくたってどうとでもなってたんだよ。
まあ、あだ名みたいなものはあったな。
そうだ!俺の名前を美月がつけてくれよ!」
一方的にまくし立てて、レインはわくわくと楽しみと言わんばかりな邪気のない表情で美月を見つめた。
尻尾はついていないが、あるすれば、ぶんぶんと振られているような幻視が見える。
「 ほら、これから一緒に住むんだから、名前がないと不便だろ?」
美月は驚いた。
良くて一泊ほど泊めてもらえると思っていたら、この青年はしばらく美月と一緒に暮らすつもりらしい。
美月にとって都合がいい話なので、突っ込まないで黙って置くこととする。
「うーん…… 雨、しずく……そうだわ!あなたの名前はレインにしましょう。
レイン、あなたとは雨の日に出会ったから、あなたの名前はレインよ。」
「レイン……レイン、俺の名前はレイン。
なぜだろう初めて聞く言葉なのにどこかしっくりくる。
気に入ったよ、ありがとうな、美月!」
「 どういたしまして。これからよろしくね、レイン。」
にかっと明るい笑顔を向けてくるレインに、美月の冷え切っていた心は照らされるようだった。
こんなに温かい気持ちになったのは、何時ぶりだろう。
美月は、無自覚に満面の笑みを浮かべていた。
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本作は短編「視線の行方」「聖女の瞳は輝く」と登場人物が繋がっているので気が向いたらぜひご覧ください。




