捨てる神あれば拾う神あり
しばらく川沿いに歩いていると、ぽつぽつと小雨が降ってきた。
どこか雨宿りするところがないかと探していると、古めかしい一軒家が見えてきた。
白っぽい 漆喰の壁は陽に焼けて黄ばんでいて、ボロボロだった。
もしかすると空き家かもしれないが、雨宿りはできるかもしれない。
ゆらり。
恐る恐る近づいた美月は、曇天の下、空き家の壁を通り抜けて半透明な黒っぽい影が、ゆらりと漂うように空中に出てきたのを見て
「でたぁ!」
と、叫んで、ふらりと気絶した。
美月はホラーが大の苦手であった。
「おーい、大丈夫かぁ?」
つんつんと何かでつつかれる感触がして、美月の意識はゆっくりと浮上した。
「う、うぅーん……」
仰向けになったまま目を見開くと、みずきの顔を覗き込むようにする、先ほどと同じ半透明の黒い影があった。
半透明の体越しに向こうの景色が透けて見える。
もう一度気絶しそうになる美月を見て、影の主は慌てて半透明の体を実体化させた。
「お、 おいこれでいいだろ?しっかりしろ。
なんたってこんな辺鄙なところに、一人でいるんだ?
それにその格好は何だ、見たことがない。
髪の色も目の色もここら辺じゃ見たことがない色だぞ?
なあ、名前は?」
「 そんなにいっぺんに質問しないで。
頭がこんがらがってしまうわ。
私だって今何が何だかよくわかっていないのよ。」
仰向けになった美月が起き上がろうとすると、 それを助けるように影の主はその背中に手を添えて 、支えてくれた。
血圧が下がったのか、美月はめまいがしてきて、目元をとっさに手で押さえた。
「大丈夫か?水なら用意できるけど飲むか?」
「あ、ありがとう。」
竹製の水筒を手渡されて、何の疑いもせずに美月はその中の水を口にした。
入れたてなのか、よく冷えたおいしい水 だ。
この世界に召喚されてから、ほぼ飲まず食わずだったことを思い出して、美月は夢中で喉の渇きを癒した。
「 よっぽど喉が渇いていたんだな、かわいそうに。」
暫定幽霊と思われる影の主に哀れまれて、美月は何だか自分が情けなくなった。
改めて影の主をまじまじよく見ると、若い青年であることに気づいた。
元の世界基準で考えるのならば、ケルト系だろうか、彫りの深い顔立ちは整っている。
黒く見えたのは、聖職者がよく着ている立襟の祭服であろう。
着古してボロボロだが、何故か青年にはよく似合っていて、しっくり来る。
「 めまいはどうだ?
もしかして 病弱なのか?
崩れそうな家だが、そこの俺の家に来るか?」
ずいぶんよくしゃべる男だ。
見た目は20代前半に見えるが、精神年齢か実年齢はもっと下なのかもしれない。
表情もどこか子供っぽくて、美月は思わずくすりと笑ってしまった。
そして気付く。
「 え?今なんて言ったの?」
「 いやだから、俺の家に来るかと聞いたんだよ。
雨ぐらいはしのげるし。」
「本当 ?助かるわ。ありがとう!」
思いがけず屋根のある建物に入ることができそうで美月は思わず、食いついた。
探していた話が通じる人か、は、まあ、分からないが、この機会を逃す手はなかった。
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本作は短編「視線の行方」「聖女の瞳は輝く」と登場人物が繋がっているので気が向いたらぜひご覧ください。




