確信犯のたぬき寝入り
レインが、すやすやとあどけない寝顔を晒して眠っていた。
ソファに寝転がり、美月の胸元に半ば顔を埋めているという、枕にする場所が場所だが、そこに目を瞑れば微笑ましいと言えないこともない光景。
最も、美月は緊張からか目を潤ませて赤面しており、石のように固まっていた。
気を利かせたつもりなのか、オーレイアがブランケットを片手に、そろそろと近づいてきた。
クッションを枕にした直立不動の美月は、視線だけでオーレイアに謝辞の気持ちを示し、毛布をかけてもらい、また視線を天井に戻した。
視線を下に向ければ、レインのつるっとした額が見えて、もっと下に向ければ、安心したように微笑む寝顔が見えるのである。
きゅんっと胸が高鳴る。
鼓動が早い、このままでは心臓が壊れる。
………
………でも、ちょっとだけいいかな。
先程からレインの髪に触れてみたくて、そっと手を伸ばしては引っ込めることを繰り返してきた美月。
レインはぐっすり規則正しい寝息を立てていて、まだまだ起きそうにない。
おそるおそる、手を伸ばす。
ふわっ、さらり
触ってみると見た目より案外柔らかい茶色の髪。
起こさない程度に、そっと、そっと優しく撫でる。
思わず美月の唇がふんわりと微笑みを形作っていたが、幸いなことに周囲には誰もおらず、気付かれはしない。
何故こんなことになったのか、美月は癒やしと現実逃避を求めて、レインの髪を撫で続けるのであった。
むにむに。
ふむ、柔らかい、更にいい匂いもする。
自我が薄かったころには味わえないような、穏やかな睡眠を得た気がする。
レインはうつらうつらした半覚醒の心地よさを味わうことにした。
この温かさは、どこかほっとする。
……ん?
柔らかくて温かい。…何が?
………
…………
……………
さて。さて、さーて。
だんだん目が覚めてきて状況を把握してきた訳だが、どうしようか、これ。
そ~と、薄目を開けて周囲を確認。
見覚えのある白いブラウスの生地が見えて、更に
気づかれないように視線だけを上に向ければ、真っ赤な首筋や顎が見える。
あ、細い首筋、噛みつきたい。
甘噛みならいけるだろうか。
もちろんキスマークはたっぷりつけて。
ああでも今やったら起きているのがバレてしまう。
…………
うん、我ながら脱線した現実逃避である。
隣の部屋にオーレリア達がいる、ここは王都に向かう途中の宿場町だ。
煩悩よ、去れ。
温かく血が通った柔らかさを手の平で確認したい気持ちをぐぐっと我慢して、目を閉じて規則正しい呼吸を意識しながら、必死に考える。
どうしてこうなったかは思い出してきたので、後はどうこの状況を軟着陸させるかだ。
とくとくとくとく。
おぉ、頬に感じる鼓動の早さから美月の緊張が伝わってきて、ちょっと可哀想になってきた。
大変と、そりゃあ大変と嬉しい状況ではあるが、ずっとこのままと言う訳にもいくまい。
くっ、惜しい。このソファがあの古びた我が家のものだったら、このままなだれ込むのに。
いやまあ、宿のベッドで昨日もしたのだが。
思うのはタダである。
さて、いつものようにからかい倒して有耶無耶にするかどうか悩んでいると、近づいてきた小さな足音。
ふわっと掛けられる手触りの良いブランケット。
甘い美月の匂い、頬に感じる柔らかさ。
人肌とブランケットの温もり。
昨夜は路銀を稼ぐ為に夜通し仕事があり完徹していたレインには、抗い難い二度寝への誘惑。
本来は睡眠は必要としない人外たるレインだが、美月を抱きしめて惰眠を貪るのは大好きだ。
ふわっ、さらり
更に、そっと優しく美月の手が頭を撫でてきて、寝たふりをしていたレインはうとうとしてきた。
まあ、いいや。
どうするかは、寝てから考えよう。
……うん、俺は悪くない。
悪いのは、この眠りへと誘う、泣きたくなるような温かさのせいだ。
レインの意識は再び幸せな眠りへと落ちて行ったのだった。
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本作は他の作品と登場人物が繋がっているので、気が向いたらぜひご覧ください。




