真のヒロイン
「……よし、終わり。
鏡さえ手に入れちまえば、早かったな。」
満足げにレインが言う。
草原に、ぽつりと落ちた手鏡を拾い上げると、レインはそこに手をかざした。
みるみるうちに手鏡が曇り、鏡面が真っ黒になる。
「レイン、アリスはどこに行ったの?」
「想像つくだろ、こん中だよ。
で、これを元の世界に送り返す。
美月がいた世界でなら、地獄の門は絶対開かないよ、条件が合わないから。
な、簡単だろ?
それで終わり。」
「………ちょっと、待っていただけませんか?」
ずっと黙って俯いていた魔女が顔を上げた。
「たまの鬱陶しい視線の元は、そこにいる魔女か。
お前が覗き見てるせいで、夜全然イチャイチャできなかったんだからな!」
八つ当たり気味にレインは、様子のおかしい魔女を睨みつけた。
「レイン、今はそんなこと言っている場合じゃないでしょう。
警戒して、何かしそうだわ。」
魔女はレインの軽口に反応しない。
ずっと何か呪文を唱えるように、注目を集めないようにしながら、ブツブツと呟いていたのだ。
魔女が完成した呪文に全身全霊の魔力を込めると、ダイヤモンドダストの光が、黒い鏡を包み込んだ。
すると、鏡から、螢のような淡い光の塊が、飛び出した。
淡い光は、薄っすらと青年の姿を形作る。
『随分と、待たせてしまったようだね、ティア』
「アリオスッ!
いいの、いいのよ。
また一目でも貴方に逢えたのだから!」
激しく首を振る魔女のフードがはらりと落ちた。
涙を流すその顔は、偶然なのか、どこか美月やアリスに似ていた。
淡い光の青年は、悲しそうに魔女に手を伸ばすが、触れることは叶わない。
『忘れないで、ティア。
どんなに時間がかかっても、
きっとまたいつか逢いに行くから。』
「えぇ!いつまでも待ちますわ、わたくしの貴方。」
「アリオス……初代教皇の名前だな。
なるほど、あれが地獄の門を封印していたのか。」
初代教皇の魂は輪廻の輪へ正しく取り込まれ、鏡の魔女は泣きながら姿を消した。
「どうやら俺たちは利用されてたってわけだな。
さて、もう邪魔は入らないだろう。
異界に送るぞ。」
レインは空中に向かって鏡をポイっと気軽に放り投げた。
黒く汚れた鏡は、満天の夜空に吸い込まれるように、掻き消えた。
長い歴史に埋もれた初代教皇の名はアリオスという。
アリオスと有栖。
真名が近いから、アリスは鏡の贄の交代用員として、都合が良かった。
鏡の魔女はずっと探していたのだ。
愛しい彼を解放する為の条件に適合する、異世界の稀少な魂を。
そして、アリスを見つけた。
皮肉なことに、アリスの言った通り、異世界召喚の主役、真のヒロインはアリスだったのだ。
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本作は短編「視線の行方」「視線の絡み合う先」「聖女の瞳は輝く」と登場人物が繋がっているので気が向いたらぜひご覧ください。




