水を飲み干す
夕暮れ時。
静寂の中、ステンドグラスの光が、色とりどりに床を染め上げていた。
城下町にある小さな教会の礼拝堂。
床に膝をついて祈るオーレイアの祈りに応えるように、彼はふわりと主祭壇の前に降臨した。
「唯一を見つけてしまったから……もうあなた様は、わたしに神託を授けてはくださらないのですね。」
「いやいや、お前が小さい頃からの付き合いだ。
必要ならまた頼ってもいいさ。
でも、お前にはもう神託は必要ないだろう?
曇りのない聖女の瞳で信じた、お前の伴侶である聖騎士と生きていけばいい。
お前はもう、自由なんだから。」
ステンドグラスの光が、彼の表情を隠している。
人間くさい口調や行動をしているが、その思惑は、人の物差しに収まるものではない。
「俺はあくまで分霊でしかない……いや、なかった。
今の俺には、レインって大事な名前があるんだ。
これからは、そう呼んでくれよ。」
「………名付けの意味を、美月さんに教えていないのはなぜですか?」
神の考えることなど、推し量ろうとすることすら、おこがましいのかもしれない。
理屈ではないのだ、理性的に見えても、実は何か違うコトワリを持っている。
レインの執着が、取り返しのつかない悲劇を生むことを、オーレイアは恐れている。
レインは、オーレイアがこっそりと美月に名付けの意味を教えていたことを知っていた。
だから何だというのだ。
こぼれてしまった水は、レインが全て飲み干してしまった。
所詮レインから神託を受けて、オーレイアが知り得ていたことは、彼の思惑のごく一部に過ぎないのだから。
「分かりきっているだろ?」
楽しそうに、愉快そうに、歓喜するように。
レインは邪悪に哄笑した。
ーーああ、狂っている。
オーレイアは、青褪めた。
神に思っていいことじゃない、でも、人からすれば、その愛は狂気だ。
「首輪っていうのは、そこにあっても、見えない方がいいからさ。」
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本作は短編「視線の行方」「視線の絡み合う先」「聖女の瞳は輝く」と登場人物が繋がっているので気が向いたらぜひご覧ください。




