星降る夜に
王都に到着すると、予め宿泊予定だった宿に、レーゲンからの言伝が残されていた。
オーレイアの導きで城下町にある小さな古本屋にたどり着いた。
レーゲンという司教は気難しい性格らしく、大人数で押し掛けると話が進まないからと、小さい頃から知り合いのオーレイアがまずは1人で会いに行く。
残りは近くの喫茶店で待機だ。
古本屋に入ると、天井まで届く本棚がずらりと並び、ぎっしりと詰まった古本の独特の匂いがした。
カウンターに座る青年にオーレイアは近づいた。
「ああ、オーレイア、お久しぶりですね。
無事に、かの方を連れてきてくださり、ありがとうございます。
( 遅い。どこをほっつきま回わってたんだ。)」
「……司教さま、わたしの聖女の能力知ってますよね? 」
目を合わせた相手の心が読めるんですから、悪態がバレバレよ。
オーレイアは内心呟く。
「それがなにか?
わたしに裏表などあるはずがないでしょう。
(それはそれ。建前大事。)」
オーレイアは気の抜けた溜め息をついて、疲れたように本棚へもたれかかった。
「はぁ、……レーゲン様、いつの間に古本屋を始めたんですか?」
「知り合いが、稀少本の回収に行っている間の留守を任されているだけですよ。
身を隠すにはちょうどいいので。
手短に話しましょう。
(地獄の門についてだが、禁書を手に入れた。)」
誰に盗み聞きをされても良いように、レーゲンはオーレイアに心の声を読ませることを徹底していた。
まるで、いつでも誰かがレーゲンを覗き見出来ることを、知っているかのように。
(禁書によると、地獄の門は、銀色の薔薇が彫刻された手鏡の形をしているらしい。
神託が降りた。
地獄の門は、異世界から召喚された双子の妹が持っている。)
え!?この間、すれ違ったあのアリスが?
探していた門に、気付かない内に近付いていたことに、寒気が走った。
「でも、どうやって探せばいいんですか?」
「この城下町で、普段通りに過ごしていただいて構いませんよ。
(煽ってやれ。)」
レーゲンは、腹黒く嗤った。
アリスはすっかり気に入った手鏡を肌見離さず持ち歩いていた。
手鏡でマスカラの乗り具合を確認しながら、使用人のように控える魔女に訊ねた。
「ねー、魔法でお姉ちゃんの姿をこれに映すことはできないの?」
「あまり遠くにいるとできませんが、最近すれ違ったとのことでしたね。
どれ、やってみましょう。」
魔女がブツブツと呪文を唱えると、辺りの気温が下がり、キラキラしたダイヤモンドダストが鏡にまとわりついた。
すると、鏡の表面が水鏡のように揺らめく。
日本にいた頃には絶対着なかったような、スカートの裾に刺繍が入った可愛らしいワンピースを着た美月の姿が映しだされた。
「は?」
アリスは低い呻き声を漏らした。
顔やスタイルは美月のままだ。
だが、雪の白さの髪とルビーみたいな目はなんなのだ、一瞬でも華やかに見えたなんて、巫山戯てる。
「しかも、なにこのイケメン。ビジュ強っ!」
「ビジュ?
……どれどれ、まあ、いい男。
ほほほ、目の保養ですわねえ。」
引き締まった長身の、彫りの深い端正な顔立ちの美丈夫だ。
美月を蕩けるような優しい微笑で見つめて、耳元に何かを囁いている。
そういえば近々城下町で、星降る夜に、星に願い事をかける祭りがあると、メイドたちが話しているのを聞いたことがある。
あちこちにいろんな屋台が出ていて賑わっている人混みの中、腕を組んでいる様子は、明らかにデートだ。
アリスは美月の楽しそうな笑顔を鏡の中から見て、悔しそうに唇をかんだ 。
更にアリスにとどめを刺すように。
鏡は、満天の零れ落ちそうな星空の下。
寄り添って深いキスをする2人を映している。
何で聖女であるアリスより、お姉ちゃんの方が幸せそうなんだろう。
ありえない!生意気!
アリスの方が可愛いのに。
あんな服、お姉ちゃんには似合わない。
隣にいたイケメンもアリスの方がいいに決まってる!
ギリッ
アリスは無意識に長い親指の爪を齧った。
「 ふふ、待っててお姉ちゃん。
いつものように……全部アリスが貰ってあげる。」
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本作は短編「視線の行方」「視線の絡み合う先」「聖女の瞳は輝く」と登場人物が繋がっているので気が向いたらぜひご覧ください。




