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雨の日には君を想う  作者: 柚月
本編
16/24

星降る夜に

 王都に到着すると、予め宿泊予定だった宿に、レーゲンからの言伝が残されていた。  

 オーレイアの導きで城下町にある小さな古本屋にたどり着いた。

 レーゲンという司教は気難しい性格らしく、大人数で押し掛けると話が進まないからと、小さい頃から知り合いのオーレイアがまずは1人で会いに行く。

 残りは近くの喫茶店で待機だ。



 古本屋に入ると、天井まで届く本棚がずらりと並び、ぎっしりと詰まった古本の独特の匂いがした。

 カウンターに座る青年にオーレイアは近づいた。


「ああ、オーレイア、お久しぶりですね。

無事に、かの方を連れてきてくださり、ありがとうございます。

( 遅い。どこをほっつきま回わってたんだ。)」

「……司教さま、わたしの聖女の能力知ってますよね? 」


 目を合わせた相手の心が読めるんですから、悪態がバレバレよ。

 オーレイアは内心呟く。


「それがなにか?

わたしに裏表などあるはずがないでしょう。

(それはそれ。建前大事。)」


 オーレイアは気の抜けた溜め息をついて、疲れたように本棚へもたれかかった。


「はぁ、……レーゲン様、いつの間に古本屋を始めたんですか?」

「知り合いが、稀少本の回収に行っている間の留守を任されているだけですよ。

身を隠すにはちょうどいいので。

手短に話しましょう。

(地獄の門についてだが、禁書を手に入れた。)」


 誰に盗み聞きをされても良いように、レーゲンはオーレイアに心の声を読ませることを徹底していた。


 まるで、いつでも誰かがレーゲンを覗き見出来ることを、知っているかのように。


(禁書によると、地獄の門は、銀色の薔薇が彫刻された手鏡の形をしているらしい。

神託が降りた。

地獄の門は、異世界から召喚された双子の妹が持っている。)


 え!?この間、すれ違ったあのアリスが?

 探していた門に、気付かない内に近付いていたことに、寒気が走った。


「でも、どうやって探せばいいんですか?」

「この城下町で、普段通りに過ごしていただいて構いませんよ。

(煽ってやれ。)」


 レーゲンは、腹黒く嗤った。




 アリスはすっかり気に入った手鏡を肌見離さず持ち歩いていた。

 手鏡でマスカラの乗り具合を確認しながら、使用人のように控える魔女に訊ねた。


「ねー、魔法でお姉ちゃんの姿をこれに映すことはできないの?」

「あまり遠くにいるとできませんが、最近すれ違ったとのことでしたね。

どれ、やってみましょう。」


 魔女がブツブツと呪文を唱えると、辺りの気温が下がり、キラキラしたダイヤモンドダストが鏡にまとわりついた。

 すると、鏡の表面が水鏡のように揺らめく。

 

 日本にいた頃には絶対着なかったような、スカートの裾に刺繍が入った可愛らしいワンピースを着た美月の姿が映しだされた。


「は?」


 アリスは低い呻き声を漏らした。

 

 顔やスタイルは美月のままだ。

 だが、雪の白さの髪とルビーみたいな目はなんなのだ、一瞬でも華やかに見えたなんて、巫山戯てる。


「しかも、なにこのイケメン。ビジュ強っ!」

「ビジュ?

……どれどれ、まあ、いい男。

ほほほ、目の保養ですわねえ。」


 引き締まった長身の、彫りの深い端正な顔立ちの美丈夫だ。

 美月を蕩けるような優しい微笑で見つめて、耳元に何かを囁いている。


 そういえば近々城下町で、星降る夜に、星に願い事をかける祭りがあると、メイドたちが話しているのを聞いたことがある。

 あちこちにいろんな屋台が出ていて賑わっている人混みの中、腕を組んでいる様子は、明らかにデートだ。

 アリスは美月の楽しそうな笑顔を鏡の中から見て、悔しそうに唇をかんだ 。


 更にアリスにとどめを刺すように。

 鏡は、満天の零れ落ちそうな星空の下。

 寄り添って深いキスをする2人を映している。


 何で聖女であるアリスより、お姉ちゃんの方が幸せそうなんだろう。

 ありえない!生意気!

 アリスの方が可愛いのに。

 あんな服、お姉ちゃんには似合わない。

 隣にいたイケメンもアリスの方がいいに決まってる!

 

 ギリッ

 アリスは無意識に長い親指の爪を齧った。


「 ふふ、待っててお姉ちゃん。

いつものように……全部アリスが貰ってあげる。」


よろしければ★を頂けると嬉しいです。


本作は短編「視線の行方」「視線の絡み合う先」「聖女の瞳は輝く」と登場人物が繋がっているので気が向いたらぜひご覧ください。

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