銀色の薔薇
アリスは、ふと誰かに呼ばれた気がして振り返った。
「おねぇちゃん?」
双子だからだろうか、直感で気づく。
美月が、近くにいた。
「すぐに見つけ出さなくちゃ……」
アリスは歪んだ笑みを浮かべた。
数カ月前。
自分から聖女と名乗って城に残ったアリスのそれからは、全てが思うがままであった。
ドレス、宝石、王子様!
望んだものは、全て与えられた。
聖女とは、ただそこにいるだけで国が栄えるような存在だ。
アリスが読んだ漫画はそんな内容で、それをアリスは鵜呑みにしていた。
だから、アリスは王に告げた。
「わたくしは、愛を与えられれば与えられるほど、 聖女としての祈りの力が増すのです。
もし、望まれる能力が使えないのなら、それはわたくしへの愛が足りないということですわ。」
国王は半信半疑な内心を隠して、召喚に関わった魔法使いにアリスの望みを全て叶えるように命じた。
その裏では、召喚を行った女性の魔法使い……つまり魔女によるアリスの能力の調査が始まった。
アリスの世話係兼教育係となった魔女は常に黒いローブのフードを目深に被っており、俯きがちに話すので顔はよくわからない。
声からすると若いの女性のようだが、顔を隠すんだからきっとブスだ。
後の魔女の印象は、アリスには興味がないのでよく覚えていない。
ただ、根暗そうな魔女はアリスの中で侮っていい存在になったから、早々に猫を脱いだ。
「アリス様。」
「え、なぁにぃ〜、見てわかんないの?
アリス今、忙しいんだけど」
お茶菓子を長い爪でつまむアリスに、魔女は機嫌を取るように、猫なで声で話しかけた。
「ちょっとしたお手伝いをして頂きたいのです。
難しいことではないですよ。
この手鏡を持ち歩いてくださるだけでいいのです。」
渡されたのは、銀色のバラの彫刻が一面に刻まれた手鏡だった。
繊細な彫刻が、美しい。
「なにこれ、アンティークの手鏡?
まあ、これなら使ってあげてもいいけどぉ。」
アリスが小さな手鏡に触れれば、自分の中から何か力が吸い取られていくのを感じる。
たが、それだけだ。
魔女は、アリスの力の使い方を説明した。
曰く、この手鏡には、この世界を救うとある宗教国の初代の教皇の魂が封じられている。
神に愛された教皇を目覚めさせれば、この世界は救われ、ひいてはアリスの名声は地に轟くであろう、と。
暫くして魔女はアリスに疲れていないか聞いたが、何ともない。
「ちょっと気の流れを調べさせてくださいましね。」
魔女は目を閉じて呪文を唱えると、アリスの背後を別の鏡に映した。
そこから伸びる縁の糸を探っているのだ。
「まぁ、面白い。」
魔女は忍ぶように笑って、アリスの力の供給源は双子の姉にあると伝えた。
大事にしなきゃだめですよ、と言われてアリスは美月を探させることにした。
美月はアリスのために存在しているから、美月から奪うことは、アリスにとって息を吸うように簡単なことだった。
「お姉ちゃん、帰ってきて。」
そろそろ贅沢な暮らしにも飽きてきた。
美月の悔しそうな顔、悲しそうな顔、それを見ないと退屈が紛れない。
捨てたはずのおもちゃが案外大事なものだったと気づいて、アリスは取り戻すことにした。
手鏡を弄ぶアリスの背後で、魔女の紅い唇がいびつに歪んだ。
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本作は短編「視線の行方」「視線の絡み合う先」「聖女の瞳は輝く」と登場人物が繋がっているので気が向いたらぜひご覧ください。




