またここに帰ってこよう
「美月、どうしたい?」
「レイン……」
思わず助けを求めるように美月はレインの腕にすがった。
「レイン?!いま、彼をそう呼んだの???
まさか、名付けをしたんですか!!」
オーレイアは、ガタっと椅子を鳴らして立ち上がった。
立ちくらみを起こしたのか、倒れそうになりヒースクリフに抱き止められた。
顔色が紙のように白く、青ざめている。
「オーレイア?どうした?」
「ヒ、ヒースクリフ…… 後で説明するわ。」
怯えたように震えて、オーレイアはレインから 少しでも距離を取ろうとしていた。
尋常ではない様子に心配しながらも、ヒースクリフが場を引き継いだ。
「他に取れる方法は、あんたかあんたの妹のどちらかが死ぬことだ。
あんたが事故なんかで死ぬと大変だから、王国はあんたを探してる。
まあ、見つかったら死なない程度に幽閉コース、死ななきゃナニしてもイイ奴隷行きだな。
ああいうところは、クズの巣窟………っと、噂をすれば何とやらだな。
クズどもが来たぞ。」
複数の殺気立つ気配が、家屋を取り囲んでいた。
冒険者ギルドで目立ち過ぎてしまったのかもしれない。
誰かが、レイン達を尾行していた可能性がある。
「オレの出番だな。ちょちょっと掃除してくらぁ。」
「おい待て、俺が行く。
ヒースクリフは中で警護してくれ。
そういうのは得意だろ、元騎士団長サマ?」
「チッ」
露悪的なガラの悪い舌打ちをしたものの、ヒースクリフは何故か素直にレインに従った。
抜きかけていた剣を鞘に戻し、油断なくオーレイアと美月を警護する体制を取る。
馬鹿正直に、ドアから外に出る必要はない。
レインは半透明の身体になると、ふわりと浮き上がって天井近くの壁をすり抜けた。
「今更美月に何の用があるんだよ?
俺のもんに手を出したらどうなるか、思い知らせてやる。
クズ共め、まとめて地獄に落ちろ!」
狂犬が歯をむき出しにして威嚇するかのように、威圧的で嫌悪感たっぷりにレインは兵士を睨みつけた。
突き刺さる視線が、見えない衝撃波になって、兵士をまとめて吹き飛ばした。
「な、なんだこいつは!?」
「これは魔法じゃないのか!!
聞いてないぞ、魔法使いかいるなんて!!」
混乱と怒号が轟く。
世界に数人しかいない、魔法使いと思われる男を前に兵士たちは激しい緊張を感じて、冷や汗を流していた。
こんな男がいるとは、報告にない。
「ぎゃあ!」
また複数の兵士が見えない風の刃と思われる衝撃波によって、ズタズタに引き裂かれた。
辺り一面に、血花が咲く。
情けない悲鳴を上げて司令官と思われる兵士が逃げだし、その一団は瓦解して散らばるように逃げていく。
レインは無言でその後を追いかけた。
「片付けてきたぜ。」
すぅ、と壁を通り抜けてレインは屋内に戻った。
全滅したのは気配で分かっていたのであろう、ヒースクリフは顎をしゃくって今後の方針への返答を促した。
「で、どうする?
グスグスしてたら、また次の兵士が来るぞ。」
レインがいない間に、オーレイア達に説得された美月は落ち着きを取り戻していた。
眉の辺りに決意の色を浮かべて、ゆっくりと静かに答えた。
「……私はレインと一緒ならどこにだって行けるわ。
せっかく住み心地が良くなった私たちの家のことは残念だけど。」
「 そっか、じゃあいいか。
いつか、ここに戻ってこよう 。
ほら、とっとと行くぞ。
面倒なことは早く済ませてしまおう。」
相手が手を出してきたのだ、最早黙っているつもりはレインにもなかった。
美月との日常を脅かすのなら、容赦はしない。
行き先は王都だ。
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誤字報告ありがとうございます。
本作は短編「視線の行方」「視線の絡み合う先」「聖女の瞳は輝く」と登場人物が繋がっているので気が向いたらぜひご覧ください。




