唄う神託
美月とレインが冒険者ギルドで用事を済ませて帰ろうとすると、 長身のレインよりさらに背の高い、がっしりとした鋼のような体躯の男が立ちはだかった。
艶のない漆黒のライトアーマーを着て腰に剣を差しているところを見ると、剣士として活動している冒険者だろう。
知り合いなのか嫌そうな顔をするレインの背後から、小鳥のような可愛らしい声がした。
「いたいた、こんなところにいた!
尊いお方が探してましたよ !
レーゲン様ったら、奥方様と離れたくないからって、あなたの捜索を私に押し付けたんですから。
さあ、帰りましょう。
尊いお方が大変なことが起こってると言ってました。
あなたの協力が必要だそうですよ。」
早口でまくし立てるように言いながら、少女は遠慮なくレインの腕をぐいぐいと引っ張った。
突然のことに、みずきは目を白黒させた。
レインは事情をある程度、理解しているのか、迷惑そうな雰囲気を隠さない。
しっしっ、と雑な扱いで手を振るレインに少女は頬を膨らませた。
少女とレインは気安い関係であるのだろう。
妖精のように儚げで小柄な少女は、オーレイアと名乗った。
少女を守るように横に立つ大柄な剣士は、ヒースクリフというらしい。
冒険者ギルドの真ん中で騒ぐわけにもいかないので4人は速やかに、レインの家に移動することにした。
移動中もオーレイアは、レインを説得しようとする。
「えーー!いやだ!
俺は美月と一緒にいたいんだ。
あっちのヤツのことより、俺はこっちの美月の方が大事だ。」
胸を張ってきっぱり言い切るレイン。
なんだこいつという顔をしてヒースクリフがオーレイアと視線を合わせると、オーレイアはこういう人なのと言わんばかりに肩をすくめた。
蚊帳の外に置かれた美月は、黙って会話を聞いていた。
「困りましたね。
私で判断ができることじゃないんですよ。
とりあえず美月さんも一緒に、レーゲン様のところへ行きましょう。
美月さんも無関係じゃないと言うか、 関係者なんですから。
それからこれからのことを考えたっていいじゃないですか。」
「 ちょっと待って。私が関係者ってどういうこと?」
「美月さん、貴女は異世界から召喚されて、こちらの世界に来たんですよね。」
「ど、どうしてそのことを……」
「神託ですよ。」
ひらりとスカートを翻して、オーレイアは歌うように答える。
ヒースクリフが自分のことのように誇らしげに言う。
「オーレイアは聖女なんだ。」
2人に入れるためのお茶を用意する為に、美月はケトルでお湯を沸かしていた。
彼らと一緒にいたくないのか、レインも台所についてきていた。
「オーレイアさんと、随分気安いのね?」
「え、やきもちか?
オーレイアとはあいつが6歳になった時からの付き合いだからな 。
やきもち焼かれるような関係じゃないぜ。」
茶化すレインだが、美月が本当に聞きたいことはオーレイアとの関係ではない。
こくりと、緊張から喉がなった。
「レイン、あなた一体何者なの?
聞きたいけれど、聞いたらあなたの傍にいられなさそうで、怖いわ。」
「……いつか必ず話すよ。少し待っててくれないか?」
「うん、分かった。……必ずよ。」
「あぁ、必ず。」
大人びた男の顔つきで、レインはじっと美月を見つめると、彼女の緊張から白くなるほど握られた手を解いて、優しく握りしめた。
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本作は短編「視線の行方」「視線の絡み合う先」「聖女の瞳は輝く」と登場人物が繋がっているので気が向いたらぜひご覧ください。




