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魔法の堕天使、降臨す  作者: 鹿磨
第1章 新世界と闇の産声
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第58話 かつての面影は その2


 ──ロエルの館一階「廊下」


 セファローズとフィーネはやはり駆けていた。

 大広間のメイド二十名を約二分で無力化した二人、いやセファローズはそこを飛び出して、景色は再び廊下に戻っている。

 ただ、先程と違うのは天井とガラス窓の背丈は大幅に縮んで、片方の壁面にはガラス窓の代わりに絵画が並べられていた。

 建物の外郭部から内部へ至り始めている証左だ。


 着実に目的地に近付いている。


 その事実に二人の間では余裕が生まれ始めていた。

 

 先の戦闘で【吸収(マナ・リザーブ)】を自動化したフィーネが【岩壁(ロック・ウォール)】【雷矢(サンダー・アロー)】の魔法を再習得したのも余裕の発端となっているだろう。


「悪シュミな絵ね」


 左側の壁面に等間隔で並べられた絵画を指してセファローズは言う。

 言葉だけでなく、表情でも最大限の嘲りを表していた。


 セファローズは自信が芸術的感性を高く持ち合わせていないことを自覚していたが、興味が無い、と吐き捨てられる程に敬意を持っていないわけではなかった。

 好きではないが関心はある、という程度だ。

 「不老」という種族の特性上、人生を歩んでいると自身の意思に限らず、絵に触れる機会が度々訪れる。

 

 命を助けた子供が謝礼として贈ってくれた稚拙だが温かみのある似顔絵から、魔王を倒した勇者パーティの一員として王宮に招かれた際、客間に飾られていた高名な宮廷画家の作品まで、そんな振れ幅を持った様々な絵を見てきた。

 そして、そのどれもが素敵なものだったと記憶している。

 絵というものは表面上に描かれたものだけでなく、作者の持つ知識や技術、気持ちといった内面的なものまで感じ取ることが出来る気がする。

 それは絵の上手い下手に限らず得られる心の栄養素だ。


 だからこそ、ロエルの館にある絵画全てが不快に感じた。


「多分これ自画像じゃなくて肖像画よね。普通、自分の家に自分の絵を飾る? それも何十枚もよ?」


 クドいくらいの自己愛が滲み出ていた。

 本来純潔さを感じさせるはずの白色をした壁面はロエルを際立たせるキャンバスに過ぎない、とでも言いたげだ。

 自画像や肖像画はその人を表すだけでなく、時代背景や生きた証を記録するという役割も果たすと聞いたことがある。


 彼は後世に残したいのだろう。

 ただの聖職者が何の因果か始天使の力を手にして世界の管理者まで成り上がった自身の姿を。


 ……というかよく見てみれば、肖像画のロエルは実在の彼と若干異なっている。

 補正が入っていると言うべきか。

 瞳は必要以上に大きくなってキリッとしているし、鼻筋は恐ろしい程に高く、顔の輪郭は……敢えて例えるならニンジンのように細く尖っていた。


「カッコいいつもりかしら? ここまで来たら逆に才能だわ。アホの才能よ。それかバカの才能ね」


 常に緊張感に曝される現状から募る鬱憤を晴らす。

 セファローズは心のどこかで感じている「不可能」という無情な現実を強い言葉で何とか紛らわせようとしていた。

 そうでもしなければ狂ってしまいそうだ。

 負けが確定している勝負の為に走っているのだから。


 また、フィーネの憂鬱を好転させるという狙いもあった。

 共通の敵に対する悪口は時に精神の薬となる。


 だが──振り向くとフィーネはお手本のような苦虫を噛み潰したような表情をしていた。


「あー……察したわ。アンタも多分あっち系だもんね……」


 声量を落として言ったセファローズはフィーネを参考にして苦虫を噛み潰したような表情をする。


 現状はともかく、かつてのフィーネは自身を「カッコいい」と評していた。

 それはまさしくロエルが持つものと同じ。

 そう、アホの才能とバカの才能だ。


「まさか……飾ってた?」


 傷口に塩を塗る行為だとは自覚しつつも好奇心には勝てずに訊ねてしまう。

 セファローズの後ろを息を切らして走るフィーネは、目に涙を溜めて首をブンブンと振っていた。


 そして、言う。


「私には……絵心が無かった」


「自分で書いたことはあるのね」


 その直後、廊下の先から向かってきた触角の生えたメイドをセファローズは絵画の額縁の角で撲殺した。



 ───ロエルの館一階「調理場」


 食事、ましてや具材の匂いすらしない面白味に欠けた、ただ広いだけの調理場の中を通り過ぎる。

 フィーネの懐中時計によれば時刻は深夜を回っている。

 夜食を作り終えて本日の役目を果たしたのだろう。


 室内にはやはり白色をした二十もある調理台が、まるで戦場で開戦の合図を待つ兵士団体のように整列して並んでいた。

 充実していると言うべきか、清潔で簡素な調理台には蛇口が三つにコンロが二つも備え付けられている。

 これも魔道具だとフィーネは舌打ちと共に言っていた。


 怒るような表情を浮かべたフィーネは魔道具の最悪な秘密を知ってしまったのだろうな、とセファローズは理解する。


 ちなみにこの調理場には百を超える家庭用魔道具があることになるのだが、一般的な家庭にはここまで普及していない。


 シャングリラ計画の中心である聖都【サイリス】を除いて、世界の家庭用魔道具の普及率は一割程度、しかも、その殆どがアールディア正教団関係者かしぶとく生き残る貴族だろう。

 普通の生まれならば火を起こすのは火打石。

 水を使うのならば川か井戸。

 肉を食うならば狩りだ。

 魔法が失われてから文明は(聖都を除き)酷く衰退している。


 特にアーリア地方の原子化は激しい上に理不尽な税収、確か聖徒からの距離の遠さから発生する高額な「信教税」が掛けられている為に餓死が相次いでいるそうだ。

 唯一財政が安定している南東の街【メリディ・リサ】の領主モンクシュッド男爵が個人事業とは思えぬ程に食糧を量産し、それをアーリア地方でのみ格安で売り捌いているおかげで、小さな村々は何とか食い繋げているのが現状だと聞いている。


 セファローズの生きてきた時代の中で過去最低だろう。


 数日前の変革、もといフィーネの復活から魔法は再び使えるようになったが、実際に百年前の魔法の使い方を知っているのはごく少数だ。

 再び世界に普及させるにしても、誰かが教える必要があり、その役目はセファローズですらままならないだろう。

 「日常魔法」も見かけによらずコツがいるのだ。


 このままでは本当にシャングリラ計画──アールディア正教団のアールディア正教団によるアールディア正教団の為の世界が完成してしまう。


 それをセファローズは絶対に阻止したかった。


 決意を改めて、調理台の引き出しから白いナイフを四本取り出す。

 そして、フィーネの方に向かってその四本を投げた。


「うわ!! うわ!?」


 豪速球のナイフが顔のすぐ横を過ぎて驚くフィーネ。

 一度目の「うわ!!」はそれに対するもの。

 二度目の「うわ!?」は背後にいたメイドに対するものだ。


「ナゼ……ワカッタ……」


 四つある単眼にそれぞれ同じ数のナイフが刺さったクモのメイドが青色の血を噴き出しながら倒れた。

 体躯の何処かから伸ばした糸を天井に貼り付けていたクモのメイドはフィーネの背後を取り、尚且つ宙吊り状態でいたので、頭頂から落下することになる。


 生々しさを持った鈍い音が調理場に響く。


 真っ白な髪をして、ヒューマンの身体をしていながらも腰付近から六つの節足を生やした彼女は暫くして絶命する。

 全ての足が縮こまり、鷲掴みの手の形のようになっていた。


 同時に天井から幾つものナイフ、フォーク、フライパン等々の調理器具が雨のように降って来る。

 だが、それらの殆どは地面に落下することはない。

 目を凝らして見れば、白みを帯びた半透明な糸が付着しており、主が死しても尚残る粘着力によって辛うじて天井との接続を保っているのが分かった。


「隠れて罠を敷くって作戦は悪くないんだけどね。個性も活かせてるし。でも、二番煎じだから。流石に警戒するわよ。残念だったわね」


 目前でフラフラと揺れるフォークを掴み、糸の弾力を味わいながらセファローズは弔いの言葉を送る。

 糸は中々の強度をしていた。

 これで捕らえられていたら抜け出すのは困難だっただろう。

 ロエルに追いつかれていた可能性もある。


 ビジュアルも悪くなかったし、惜しい存在だったな、とセファローズは言葉にはせずに胸の内で呟いた。


「ち、血迷ったのかと思ったぞ」


「そう? でも、アタシはフィーネに攻撃なんかしないわよ。血迷うことなんかない。信じていいわ」


「そ、そうか。なら良い」


 良いんかい。

 とセファローズはまた、胸の内で突っ込む。

 自身がやったことではあるが、前を歩く仲間におもむろにナイフを投げつけられたのだ、もう少し怒っても良いだろう。

 友人とは言うものの、同じ時を過ごすのは二日目なのだ。

 どんなに聖人であったとしても、露骨ではないにしろ、失望だとか幻滅だとか負の片鱗が見えてきそうなものである。


 これが天使という種族なのか。

 

 【アンハンゲル】率いるアールディア正教団に反旗を翻され、恩を仇で返すように世界中から「裏切り者」の烙印を押されても尚、決して怒らず、反論せず、無抵抗のままで蹂躙されていった種族の在り方なのだろうか。


 世界半壊の火付け役【アンハンゲル】の館で、理不尽な道楽に付き合わされている魔法の始天使は今、何を考えている?


 改めて表情を伺ってみるが、どこか途方に暮れたような、それでいて靄がかかったような暗い雰囲気を醸し出していた。

 それは何かに悩んでいる者が見せるものと似ている。


 そして、フィーネの悩みの種はおそらく現在置かれている状況──ロエルの館のことではないのだろう。

 もっと別の、得体の知れない"何か"だ。

 背後から忍び寄る敵と前方から投げ付けられるナイフのどちらにも反応出来なかった程の"何か"。

 それはセファローズがフィーネに対して感じた、「"何か"隠している」という予感に繋がるのではないか、と邪推する。


 思案を主としながら手に取ったままだったフォークを糸巻き代わりにして、靭やかなクモの糸をグルグルと巻き取る。

 暫く難しい事を考えていると然程時間を感じずにまん丸のクモ糸玉が出来上がり、それをフィーネに手渡した。


「鞄にしまっといてくれる? 横のポケットでいいわ」


「良かろう……ところで、この背負い鞄には何が入っているのだ? いやに重いが……武器や奥の手を秘めているのか?」


 クモ糸玉を受け取り、身体を後ろに捻りながら背負い鞄に触れたフィーネが思い出したように訊ねてくる。


 対してセファローズはやっときたか、とニヤけそうになるのを奥歯を噛み締めて必死に抑えた。


 実を言うと、戦闘の為に自身の鞄をフィーネに預けた瞬間からこの展開がやって来ることを密かに期待していた。

 いや、鞄を預けた瞬間からではない。

 もっと前からだ。

 八百年と百十八日前にエルフの里を飛び出して初めて"それ"を手にして鞄にしまい込んだ瞬間から、ずっと待ち望んでいた。


 八百年と百八日間も募らせた想いが、絶対に叶わないと思っていた瞬間が遂にやって来る。


 だが、完全に頬を緩ませることは出来ない。

 なぜなら……恥ずかしいからだ。


「……見ても良いわよ。アンタには権利がある」


 我ながらゴニョゴニョと強気なのが弱気なのか分からない口調で言って、フィーネに許可を与える。

 告白でもするのか、という程の緊張と期待の混じった声色だっただろう。

 その時ばかりは館とロエルに対する警戒は薄らいだ。


 動物の皮を継ぎ接いで作った手づくりの背負い鞄。

 その上蓋がフィーネによって開けられた。

 それから中を覗き込み──


「これは……私の魔導書か!」


 フィーネの瞳がキラキラと輝いた。

 久し振りに見た可愛らしい笑顔。

 空想で思い描いていた通りのありきたりな反応だ。

 別に嬉しくなんかない。

 だが、心の中で呟いた言い訳とは裏腹に、自身の尖った耳がその先端まで熱を持つのをセファローズは感じた。


「ま、まあ……たまたま拾っただけだけどね」


「十冊もか?」


 食い気味で言ったフィーネは更に「待てよ」と言葉を続ける。


「セファローズの背負い鞄に私の魔導書が入っていることに私は関与していない。いや、これは確かに天界にいた時の私が下界に生きる魔法使いと、彼らの魔導の発展の為に書き記した魔導書……の写本ではあるが──」


 いやに舌が回るフィーネ。

 それをセファローズは握り拳を震わせ、色白の顔を真っ赤にして聞いていた。


「私がセファローズに渡したわけでもなければ、読むように促したわけでもない。私は魔法の強制はしないからな。つまり、何が言いたいかというと……セファローズは私とここで再会する前から私の魔導書を集め、背負い鞄に入れていたということになる。貴様の冒険には常に我が魔導書が共にあったのだな」


「アンタねえ……恥ずかしくないわけ?」


 セファローズは自覚しながらも自身を高い高い棚に上げる。


「何を言う。私は嬉しいぞ。先程【旋風(デア・ウィンド)】を使っていたのはそういう訳だったか。綺麗に定石通りの構え方をしていると思ったが、我が魔導書に学んだというのならば納得だ」


「た、たくさん読んで、いっぱい練習したのよ」


「うむ! カッコよかったぞ!」


 セファローズは堪えきれず、フィーネに背を向けた。

 過剰摂取だ。

 何らかの成分を過剰摂取しすぎて胃もたれがする。


 至高の魔術師マギーネ、もとい魔法の始天使マギウェル・デア・フィーネが記した魔導書。

 何故か偽名を使っていたようだが、エルフの里の長老が持っていた「風の魔導書〜初級編〜」の一文を読んだ瞬間、すぐにフィーネのものだと分かった。

 

 セファローズは魔法の何たるかをフィーネの魔導書から学んだ。

 セファローズは魔法を次のように解釈している。



 魔法──各属性の基礎魔法から枝分かれ式にほぼ無数に等しい派生を見せ、その効能も攻撃、防御、補助に渡り、種々様々な特長を有している。

 更に魔法名称に関しては、魔法階級の上昇に比例して世界に流通している言葉とは異なる言語形式を呈する為、記憶に刻まれるまでに「解釈」というワンクッションを置く必要がある。

 例えば、魔法を知らぬ者が「ウォラーレ」とだけ聞いて、すぐに「飛翔する魔法」と理解出来るか、という話だ。


 詠唱──複雑で難解でありながら、偶然でも詠唱の開始句を言葉にしてしまえば本人の意思に限らずに術式を構築し始めてしまう程の容易さ、もとい危険性を孕んでいる。

 故に詠唱中は、難解な言葉の羅列を暗唱する、半自動的に構築されていく術式を制御する、という二つを同時進行で尚且つ魔法が顕現するまでに完遂しなければならない。

 「赤の魔導書〜魔法の常識〜」曰く、術式の制御が間に合わない若しくは失敗した場合、大抵はマナが霧散するだけに終わるが、タイミングが悪ければ暴発──発動させようとした魔法が術者にそのまま帰って来るらしい。

 それらを踏まえた上で、セファローズは学んだ。

 魔法は個人(ソロ)では主武器には成り得ない、と。

 魔法は連続して発動させるものではない、と。

 もし、その両方を実現させる者がいたならば、もはや人ではない別の何かだろう。


 マナ操作──元来目には見えないものを操る技術。

 著者、至高の魔術師マギーネですら安定して扱えるようになるまで二十年は掛かったというその技術は、天地開闢以来最高峰にして新たな地平を切り開いた革新的なものだと言う。

 だからこそなのか、大抵は「強い心があれば何とかなる」というスタンスの著者が唯一「努力が必要だ」と言い切っていたのが印象的だった。

 世界の創造主の意思片にして世界と生命の根幹を成す要素であり、火にも水にも風にも土にも雷にも光にも闇にもなりながら、生命を傷付け、生命を癒すことの出来る根源「マナ」を広い世界の小さな命が操るというのだから難しいのも当然だ。

 魔導書の中でも事あるごとに懇切丁寧な説明があった程。

 その親切が無ければセファローズは今頃基礎魔法ですらまともに使えなかっただろう。


 未だセファローズはこれを完全には理解出来ていない。

 感覚の域を出ていないというのが正しいか。

 そもそもマナとその操作を完全に心得た者など、この世界にただ一人しか存在していないだろう。



 これがセファローズの持つ魔法の知識だ。

 冒険の傍らで趣味程度に、しかもマギーネの魔導書による机上の学びだけなので人様に教えられる程のレベルではない。

 実戦では使っても日常魔法か補助魔法くらいだ。

 レベル的には新米魔法使い程度であることが予想される。


 かつての魔法使い市場は感覚やイメージを頼りに作り出した魔法でやっていけるものではなかった。

 世間から需要のある職業としての「魔法使い」は、人生の殆どを魔法学習に費やすことで脳に皺と詠唱を刻み込み、口を開けば詠唱(のような文言)が飛び出して日常会話がままならない者、主に年配者を指す言葉だった。

 

 とは言え、有益で貴重な概念であることは間違いない。

 魔法は便利だ。

 使えれば使えるほど良い。

 火を起こすことの出来る日常魔法【着火魔法(チャッカ・ウマン)】ですら命を救う場面があるはずだ。


 だが──それだけでは熱心に魔導書を蒐集するには至らなかっただろう。


 世界半壊以前、至高の魔術師マギーネの魔導書は写本でもかなりの値を張っていた。

 世間的には魔導書の王道中の王道。

 これを買っておけば間違いはない、という風潮だった。

 あれだけ危険で難しい概念だ。

 絶対的な信頼のおける指南書に高い需要があるのは必定。

 それでいて、原本は当然一種類一冊ずつしか存在せず、写本に感じても文章が難解であった為に数も多くはなかった。


 更に世界半壊後には何故か至高の魔術師マギーネの魔導書は、アールディア正教団に目を付けられて歴史書と共に焼かれている為、新たに入手するのは非常に困難な状況だ。

 

 運悪く世界半壊以前に所持していた魔導書を自宅に保管していたセファローズもその殆どを消失してしまったが、現在に至るまでに何とか十一冊まで拾い集めて来ている。

 

 そこまでしたのはこの魔導書自体が好きだったからだ。

 

 フィーネには悪いが、魔法知識の習得は目的ではない。

 セファローズは閑話が好きだった。

 各本では魔法説明の途中に「抜群にカッコいい魔法の使い方」や「魔法名の由来とそのモデルとなった人物や物語」等々の決して実用的ではないにも関わらず、どうしても目で追ってしまう、クスッと笑ってしまうような小話が時折挟んであった。


 落ち込んだ時、子供の頃に描いた夢のような話に勇気付けられたこともあった。

 道に迷った時、どこまでも前向きなことしか書かれていない内容に励まされたこともあった。


 もし至高の魔術師マギーネの魔導書と出会っていなかったらここには立っていなかった、とセファローズは断言出来る。


 そして、そんな魔導書を書き記した者が目の前にいる。

 たくさん読んだことを伝えることが出来た。

 覚えた魔法を見せることが出来た。

 読者としてこれ程嬉しいことはない。

 遂に夢が叶った。


 はずだったのに──


「だが、あまり役に立たなかっただろう?」


 ──やはり現実はあまりにも非情だった。


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