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第42話 闇の中の便り


 物静かな夜だな、とモンクシュッド男爵は呟く。


 五年程前にアールディア正教団が宣言した「シャングリラ計画」の内「夜間外出禁止令」によって、近頃は日が沈めば大抵物静かになるのが常である。

 にも関わらず、彼がそう呟かざるを得なかったのは、一人の来訪者、もとい新たな家族のせいであった。


 淡々と紙面の上を走らせていた筆を止める。

 大きく深呼吸をしながら顔を上げてみれば、机上に出来た書類の山(査収済み)が目に入った。

 庶務の処理が夜までかかるなど何年振りだろうか。

 これもまた、"彼女"のせいだ。


 だが、悪い気はしない。

 むしろ心の底を満たすような充実感があった。


 椅子を引いて伸びをすると、骨身にこたえる痛みがあった。

 特に腰痛が酷く思わず顔を歪める。

 今日の午後は年甲斐も無く張り切ってしまったな、とモンクシュッド男爵は思わず苦笑した。


 まさか五十手前に差し掛かったこの老いぼれに、生を実感する程の指導欲と格好悪い所は見せたくないという自尊心が残っているとは思ってもみなかった。


 年齢からして薄々引退を考えていたが、まだまだやれる。

 「天使の為に死ぬ」という夢を完遂する為にも、引き続き研鑽と試行錯誤を重ねなければならない。


 とは言え、何をするにも身体が資本だ。


 もう少し自重すべきだ、と思う反面、あれ程の力──それも鉱脈をそのまま持ってきたような、全く手付かずの輝く才能を秘めた原石を目の前にしては、熱くなるのも必然だった。


 始天使を騙る百年前の魔法使い。

 

 【ルモス村】のイム・ラベンダーから報告を受けた際は作り話を疑い、続けて彼女の口から「救世主」という言葉が出てきた時にはとうとうボケてしまったかと落胆しかけた。


 だが、今は頷ける。

 フィーネ嬢は本物だ。


 昨日の夜、モンクシュッド男爵が遂に死を覚悟した日。

 数え切れない程の同胞を殺害してきた脅威の暗殺部隊を、彼女は単独で尚且つ事も無げに排除していった。

 

 あの時の爽快感は忘れられない。


 見慣れた庭で起こる奇跡の数々、従来の魔法とは一線を画する真の魔法の力が奴らを蹂躙していく様に、モンクシュッド男爵は歓喜に打ち震えた。

 冷や汗とも違う、武者震いからの汗が噴き出てきた程だ。


 だからこそ、そんか奇跡の存在が更なる高みへと至る手伝いが出来たことは至極光栄なことだった。

 

 フィーネ嬢はまだまだ伸びるぞ、とモンクシュッド男爵は含み笑いを浮かべていると、書斎のドアをノックする音が響いた。

 時計を見れば見覚えのある時刻。

 モンクシュッド男爵は慌てて表情を整えると入室を促した。


「失礼致します。お休みになる前の御用聞きに参りました」


 そう言って書斎に入ってきたのはメイドのルビネッタ。

 モンクシュッド男爵家のいつも通りの光景だ。

 彼女をメイドとして屋敷に迎え入れてから今日まで、一日も欠かすことなく同じ時刻に、こうして声をかけてくれている。


 ルビネッタは今日もまた、たった一人で雑務をこなしてくれたはずだが、その身の給仕服にはシワ一つ見られない。

 着替えている様子も無いし、どういう仕組みなのだろうか、とモンクシュッド男爵は常日頃から疑問に思っていた。


 しかし、その生真面目さに水を差すのも野暮だと判断するモンクシュッド男爵は今日も口を噤むのだった。


「もう下がって良いぞ。今日もご苦労であった」


 もはや定型文と化した言葉をモンクシュッド男爵は返す。

 何百回、何千回と繰り返されたやり取りだ。


 あまりに同じ言葉を繰り返すので、ルビネッタが扉を叩くと同時にモンクシュッド男爵の口は既に「もう」と言える形になっている。


 ルビネッタは実に優秀だ。

 仕事のミスもゼロに等しく、気遣いも完璧。

 モンクシュッド男爵家には欠かせない存在だと断言出来る。

 

「承知致しました。旦那様、本日はまことにご苦労さまでした。おやすみなさいませ」


 やはり恒例の挨拶をするルビネッタ。

 普段であれば、それから礼に入った後に退室するのだが、その最中、普段通りではない仕草が含まれていた。

 モンクシュッド男爵の方を僅かに一瞥したのだ。


 そんな些細な変化を見逃さなかったモンクシュッド男爵は、相手に分からないように首を傾げた。

 これも恒例とまではいかないが、時折あるやりとりだ。

 モンクシュッド男爵は平静を装うメイドを見て、生真面目すぎるのも考えものだな、と内心で呟く。


 基本的に使用人が主人の許可無しに声を上げることは無い。

 それは上流階級における常識だろう。

 しかし、それはあくまで世間一般の話であり、ここモンクシュッド男爵家には当てはまらないものだった。


 領民は奴隷ではない。


 聞きたいことがあれば誰でも聞けば良いし、トラブルがあれば何時でも頼れば良い。

 

 それは柔軟且つ効率に重きを置くモンクシュッド男爵が、ルビネッタに対してだけでなく、領民にも口を酸っぱくして言っていることだった。


 その結果、モンクシュッド男爵は他の貴族と比べて遥かに気軽に話しかけられる事が多く、その分領地経営では類を見ない程の良好な結果を残し続けている。

 それでも尚、メイドとだけは距離が縮まらないので「ルビィ」と愛称を付けてみたが、遂に改善することは無かった。


 奴隷時代の精神が未だに根付いているのだろうか。

 いや、それも仕方がない。

 ルビネッタを売っていた奴隷商会は情報を抜き取る余裕すら残さず徹底的に壊滅させてしまったので、その実態は噂しか残っていないが、それでも相当酷かったことが窺える。


 フェゴール曰く、ルビネッタの身体には無数の傷跡があるそうだ。


「ルビィ、少しいいか」


 そうやって声を掛けると、ルビネッタはほんの一瞬だけ年相応の女の子らしい表情を見せた。

 

 思えば、彼女を招き入れた当初は声を掛けるたびに肩をビクつかせていたが、現在は少し驚く程度に収まっている。

 そう考えると、一向に距離が縮まらないというのも間違いなのかもしれない。


 それに、彼女の礼儀正しさはレヴィアの教育上においても良い見本になるだろう。


「フェゴールが焼いてくれたビスケットが余ってしまってな。良ければ共にお茶でもどうだろうか」


「ですが……奥様が旦那様の為に作られたお品物を私が頂くわけにはいきません」


「そうは言うが、このまま捨てるのも勿体ないだろう。そもそもこの甘過ぎるビスケットが善意から作られたものなのか怪しい。私が甘い物が苦手なことは知っているだろう? もしかしたら私を砂糖中毒にして殺すつもりかもしれない」


 慣れない冗談を言って何とかその場を和ませようとする。

 結果は全くウケていなかったが、椅子を出してルビネッタを再度お茶会に誘うと、戸惑いながらも受け入れてくれた。


 すかさずビスケットの入った皿を差し出す。


「やはり気になるか?」


「何のことでしょうか……?」


「いや、当てずっぽうで言ってみただけだ。何だか気がかりな表情をしていただろう。──いや、謝る必要は無い。的外れだったならば言わなくとも良い」


 両膝を綺麗に合わせた上で頭を下げようとするルビネッタをかろうじて制止する。

 おおよそ、心配させるような真似をしてすみませんでした、と謝罪しようとしたのだろう。


 彼女は何かにつけて頭を下げようとするきらいがある。


 決して悪いことではないのだが、そこまで恐れられているのだろうか、と少しだけ悲しく思うモンクシュッド男爵だった。


「お気遣いありがとうございます。このお屋敷に気がかりなことなどありません」


「そうか。私はある。ルビィはあの用心棒が気にならないか? 彼女がその気になればいつでも屋敷を乗っ取れるだろう。あの食欲は人を殺せる。我が家の危機だな」


 モンクシュッド男爵が頬を緩ませながらそう言うと、ルビネッタもだけ少し笑った。


「実は……少しだけ疑問に思っていたことがあります」


「存分に言うといい」


「その、フィーネ様は本当にヒューマンなのでしょうか」


 眉を落として後ろめたそうに言う割には、中々にして鋭いことを言うメイドにモンクシュッド男爵はニヤリと笑う。


 確かに、ルビネッタがそんな疑問を抱くのも当然だった。


 昨晩、屋敷にいたのはモンクシュッド男爵だけではない。

 ルビネッタも見ていたのだ。

 脅威だったはずの四人のヒューマンが、まるで蛆虫を踏み潰す程度の軽さで命を奪われていく様を、屍から溢れ出るマナの奔流を一人の魔法使いが捕食する姿を。


 あの時、モンクシュッド男爵が興奮を覚えて汗を流していたのに対してルビネッタは恐怖を感じていた。

 フェゴール夫人とレヴィア令嬢と共に避難することを拒み、身代わりの為に屋敷に残ったことをほんの一瞬後悔する程に。


 つい先日、屋敷にやって来た傲慢だが可愛げのある少女は、人知を超えた力を操る本物の魔法使いだったのだ。


「確かに……フィーネ嬢の強さは人のものとは思えない。共にハーピーを撃破したハゼランは『翼を見た』などとボヤいていたらしい。もしかすると……魔物という線もあるかもしれない」


「魔物……お言葉ですが、魔物の目は赤いそうです」


「ほう……詳しいな。ではやはり──アレか」


 モンクシュッド男爵はおもむろに立ち上がり、壁一面を埋め尽くす本棚の方へ歩いた。

 彼にはちょっとした心当たりがあったのだ。


 その隙にルビネッタがビスケットを摘む。

 硬い板を割るような音が鳴った後にルビネッタが瞳を潤ませたのを、不運なことに主人は気が付かない。


 モンクシュッド男爵は年季の入った本棚に綺麗に整頓された本の中から、"鍵"となる本を器用に見つけ出して押し込むと、中央の本棚が引き戸のように横に動くようになった。

 所謂隠し扉だ。

 スライドされた本棚の奥には更なる本棚。

 そこには二冊の本だけが表紙を見せるようにして置かれている。


 片方はモンクシュッド男爵家の家宝であり、領地発展に大きく貢献した生の始天使の遺物「マル秘・交配指南書」。

 そしてもう一つは偉大なる魔術師マギーネが著した「風の魔導書〜初級魔法〜上巻」だ。


 後者を手に取り、ルビネッタに手渡す。


 主人の書斎で大切に保管されていたものを突然手に持たされて身体を強張らせるメイドに、モンクシュッド男爵は本を開くことを促した。


「それは、遥か昔に遍く魔法を修めた者が書き記したとされる魔導書だ。その数は模造品も含めて数千冊にも及ぶと言う。現在は数冊しか確認されていないが──いや、そこまで丁寧に扱わなくてもいい。その本は特殊な素材が使われているようだ。汚れが付着しても瞬時に消え去る。原理は……おそらく魔法だろうな?」


「──これは……中々難しいですね」


 初めて見るルビネッタの渋い顔にモンクシュッド男爵は再び口元を綻ばせる。


「そうだろう。魔法を愛するフィーネ嬢には口が裂けても言えないが、書かれていることが全く理解出来ない。だが、堪えて読み進めていくと、心当たりがある文章も出てくる」


「確かに……『心が重要である』、『この私にかかれば天まで昇ることも可能だ』……フィーネ様ならば言いそうです」


「ああ。その本を手に入れた時は気が付かなかったが、マダム・ラベンダーがフィーネ嬢と似ていると言っていたのだ。読み返してみて思わず笑ってしまった。言われてみれば、昨晩の戦いでもフィーネ嬢は自身を『至高の魔術師』と言っていたような気がする。『偉大なる魔術師』ではないが、似たようなものだろう」


 モンクシュッド男爵がそう言うと、昨晩その隣で同じ景色を見ていたルビネッタは小刻みに頷いた。


 【聖都】に潜り込んでいる同胞から戦利品としてそれを受け取った際は、言わば骨董品くらいに思っていた。

 魔導書を読めば魔法を習得出来るという話もあったが、当時の魔法は暴発ばかりで、実用性は皆無であったのだ。


 そもそも読んでみても、著者が何を言いたいのかよく分からなかったというのもある。


 だが、ここに来て、まるで運命にみちびかれるように自身の雇った用心棒の正体に繋がる品に成り得るとは思ってもみなかった。


「では、フィーネ様は『偉大なる魔術師マギーネ』なのですか?」


「さて、どうかな。そもそも著者『偉大なる魔術師マギーネ』は千年以上前から存在していたらしい。それでも尚、魔導書が発行され続けていたのは、その名が襲名となったからだそうだ」


「なるほど」


「私はフィーネ嬢を『偉大なる魔術師マギーネ』の弟子、若しくは熱狂的な信者と見ている。フィーネ嬢は古代の魔法を扱えるが、その全てを、というわけではなさそうだ。それに加えて彼女は他にも魔法の始天使を名乗っている」


「フィーネ様は、凄腕の魔法使いであることをとにかく主張したいだけで『至高の魔術師』は目的を果たす為の道具でしかないのかもしれませんね」


「……中々鋭いことを言う」


「ですが、そう考えるとフィーネ様は可愛いですね」


「そうだろうか?」


「はい。私たちとあまり変わらないと思うと、安心しました」


 そう言ってルビネッタは微笑んだ。

 その晴れやかな表情に、モンクシュッド男爵は「雪解け」の文字を脳裏に浮かべる。

 同時に、悩みの解決を手伝えたことを嬉しく思った。


 そして、新たな家族のおかげでモンクシュッド男爵家の結束が高まるのをお互いが感じていた。


「ひとまずフィーネ嬢の正体については、もう少し打ち解けてから本人に聞いてみるとしよう。百年前の時代に生まれた彼女にとっては辛い話になるかもしれない」


「はい、承知致しました。それと……旦那様、本日はありがとうございました。その、お話できて嬉しかったです」


「良いのだ。私も甘過ぎるビスケットが減って助かった。それから、何か不安があれば遠慮なく言ってくれ」


 それからルビネッタは以前よりも柔らかい表情で、ついでにビスケットを回収して書斎を後にした。


 仕事を終えたモンクシュッド男爵も実に満足そうな表情を浮かべて、寝室に向かう為に蝋燭の火をスナッファーで消す。

 

 書斎は暗闇に落ちて、終幕を迎えるのだった。

 

 ──そう思ったが、今度は窓を叩く音がモンクシュッド男爵を呼んでいた。


 まさか、気の所為だろう。

 そう願ったモンクシュッド男爵だが、コン、コンコンと妙なリズムで鳴るのを耳にして諦めた。

 先程までの晴れやかな顔つきはどこへやら。

 モンクシュッド男爵は眉に皺を寄せて、顔を鬼のように歪ませていた。


「今、一番会いたくなかったのは貴君だ、アガレス」


「旦那、そう言わないで下さいよ」


 窓の外で黒い影が揺れる。

 室内からは闇夜に溶け込む彼の姿を目視することは出来ないが、その軽々しい口調は間違いなく既知のものだった。


 アガレスはモンクシュッド男爵家のもう一人の家族。

 そして、アールディア正教団撲滅の為に【聖都】に送り込んでいる諜報員だ。


 昨晩に黒鴉(レイヴン)が暗殺に訪れると知らせてくれたのは彼であり、件の魔導書を持って帰ったのも彼だ。

 他にも"羽根を持つ者"の拡大やフィーネ嬢の早急保護を含めたモンクシュッド男爵の計画を順調に導いてきた影の功労者である。


 しかし、一つだけ問題があった。

 それはアガレスの持ち帰ってくる情報の殆どが、悲報か訃報であることだ。

 最近好調続きのモンクシュッド男爵は、流れ的に大丈夫だろうと高を括るが、窓の外でアガレスがわざわざ素顔を白日の下に晒したのを見て絶望する。


「何をしている。諜報員ならば安易に顔を晒すべきではない」


「旦那、心して聞いて下さい」


「おい、やめろ」


「【アンハンゲル】がこっちに来ています。狙いはモンクシュッド男爵家です」


 その冷酷な言葉に、途方も無い脱力感に襲われる。

 目眩すら覚え、立っていられなくなりそうだった。

 それも当然だ。

 これまで築き上げてきたものの全てが、突如として、しかも手の施しようが無い力によって崩れ去るのだから。


「…………馬車の手配は?」


「旦那、言いたくありませんが、逃げるのは不可能です。奴らの存在は人であり、国であり、世界でもあります。それは旦那もご存知でしょう」


「クソッ……何故今なのだ。それに私がいなければ我が領地の作物は長くは持たない。【聖都】からの需要も高いはずだ」


 モンクシュッド男爵は焦燥に支配されそうになる頭で、必死に思考を巡らせる。


 アガレスにはああ言ったが、リサウェルの作物が狙われない理由には成り得ないことは理解していた。

 作物の需要など奴らにとってはどうでも良いことだ。


 だが、だからこそ、何故私を狙うのか。

 我々の存在(プエル)についてもまだ眼中に無かったはず。

 黒鴉を撃退したからか?

 いや、黒鴉はアールディア正教団直属の暗殺部隊であるが、その中枢に至る程の存在ではないはずだ。


「たぶん……最近雇った用心棒に目をつけられたんじゃないですかね。【ルモス村】の司教から魔法発現の話が行った途端、奴らは急に動き始めました」


「ッ……フィーネ嬢か……!」


 わざとらしく舌打ちをするモンクシュッド男爵。

 邪険な態度ではあったものの、それはアガレスの意見を認めざるを得なかったことを意味していた。


 確かに、世界に魔法が再発現してからアールディア正教団が魔法禁止の託宣を出すまで、あまりにも早かった。

 

 その早さに比べて、託宣に記載されていた「『原罪』に及びかねない禁忌の力」という禁止理由は重すぎるように思える。


 アールディア正教団は魔法の再発現を予期していたのか?

 その上で、魔法を脅威に感じているのか?

 いや、違うな。

 魔法を取り締まるだけなら、わざわざ【アンハンゲル】がアーリア地方まで来る必要は無い。


 奴らが恐れているのは──フィーネ嬢だ。


 それらの考察を踏まえて、モンクシュッド男爵は意を決したように眼光を鋭くした。


「【アンハンゲル】は一人か? 今どこにいる?」


「馬車に乗り込んだのは二人、一人は『重力の幹部』、もう一人は守護騎士のようです。未だ【聖都】付近ですが、明日の朝には到着するでしょう」


「よし……周囲の様子は? 既に囲まれているのか?」


「いえ、こちらに向かっているのは二人のみです。ですが、各地に現れた魔物の件もあります。避難するならば明け方の方が良いかと」


 優秀な諜報員の助言を聞いて、モンクシュッド男爵は暫く考え込んだ後に大きく息を吸った。


「アガレス、遂に終わりの時がやって来た。後は手筈通りに頼む。マダムとハゼランにもよろしく伝えてくれ。今までありがとう」


「……はい。旦那と戦えて光栄でした」


「私もだ。貴君に光の祝福あれ」


 そう言って無理やりに笑顔を作ったモンクシュッド男爵は書斎を後にした。


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