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第24話 はじまりの村 その2


「そういえば……何故【ルモス村】の人々は私を水晶と関連付けて呼ぶのだ?」


 足元に群生する有象無象の野草を掻き分けながら、ふと疑問に思っていたことを呟く。

 世界樹の剪定以来の単調な肉体労働を始めて半刻程経過し、早くも倦怠感を覚えてきた頃だった。


 私は今、【ルモス村】の狩人(ハンター)ハゼランと共に近隣の森に足を運んでいる。

 目的は近頃出現し始めたという魔物の調査だ。

 しかし、それだけでは採算性が低いということで、狩人の仕事「薬草採取」もついでに行っている最中だった。


 薬草に関しては自然の始天使アモルを通じて多少の心得はあったので、大した説明も無く始まったこの作業。

 ハゼランも「薬草の見分け方は知ってるよな」と社会常識を問うような言い方をしてきたことから察するに、下界において薬草は極めて身近な存在なのだろう。


 正直肩透かし感は否めない。

 狩人と名乗るからには魔物や動物を何匹も相手にするような、血湧き肉躍る「狩り(パーティ)」を手伝えるのではないか、と期待していたのだ。

 実際のところ、緑鮮やかな森には魔物の痕跡すら見られず、強いて動きがあるとすれば、時折小動物が木々の間を駆け抜ける程度の平和なものだった。


 とはいえ、薬草採取も生命を狩る行為に違いは無いわけで、回復魔法が主流ではない(と予想される)集落において薬草は生きる上での生命線と言えるだろう。

 こうした小さな積み重ねが知名度アップに繋がるはずだ、と私は自分自身を納得させて地面に膝を突いていた。


「嬢ちゃんを光苔の洞窟で見つけた時、水晶の中で眠ってたんだよ。最初は高く売れるかもと思ったんだがなあ……オレが手を触れた瞬間に水晶は跡形も無く砕け散ったんだ」


 背後の少し離れた場所で薬草採取に精を出すハゼランが、間延びした声で返答する。


「水晶の色は覚えているか?」


「綺麗なピンクだったぜ。なあ嬢ちゃん、また出せねえか?」


「……出せたとしても金にはならんぞ」

 

 何故ならそれは【回復晶(ヒール・クリスタ)】によって生み出された泡沫の輝きなのだから。


 光属性の中級回復魔法【回復晶】は聖なる治癒力を結晶化させて負傷はおろか欠損まで修復させる回復魔法だ。

 傷が完治するまで自身を結晶内に閉じ込める仕様である為、発動後は完全な行動不能に陥ってしまうのが弱点だが、その分強力な回復魔法となっている。


 また、水晶自体の耐久力は低く、下界で例えるならば窓ガラスと遜色無いほどに脆弱な所も弱点と言える。

 今回の場合は「手を触れた瞬間に」と言っていた為、破壊したのではなく丁度完治するタイミングだったのだろう。

 私が目覚めた時には傷一つ無かったのが何よりの証拠だ。


 しかし、それでも気になることがあるな。

 いや、見知らぬ天井から始まって終始一貫気になることだらけなのだがな。


 まず、【回復晶】は神聖なる治癒力を以て、外傷と共に消費したマナさえも同時進行で回復してくれるはずなのだが、見ての通り私のマナは空っぽだ。


 その他に、外傷の完治に百年以上要したというのも変だな。

 魔法の始天使である私ならば、選ばれし者のみが扱える光属性系統に頼らずとも水属性初級魔法の【治癒(リジェネ)】ですら瞬時に完治可能なはず。


 謎は深まるばかりだ……


 いち早く天界に帰還し、事の一部始終を見届け、既に解決しているであろう世界の管理者──天使たちに話を聞きたいところだが、今は翼も無く、魔法も使えない。

 とは言え、地の民と交流していく中で分かったこともある。

 それは私は確実に何者かによって攻撃されたということ。

 即ち、下界には敵が存在しているのだ。


 天使と同等の力を持ち、その矛先を世界の管理者、よりにもよって最強無敵であるこの私に向けた愚者。

 

 正直怒りは感じていない。

 始天使(オリジナル)とはいえ種族で括れば私とて一介の天使、大いなる力を持つが故に世界征服などの叛逆を企てぬよう多少薄情に創られている。


 しかし、だ。

 このまま敵を野放しにすれば私を含む天使たちや下界に住まう地の民、魔法を愛する全ての者たちに深淵の如く悲劇が起きかねない。

 

 世界の管理者としては勿論、魔法を奪われた被害者としても絶対に見つけ出さなければならない。


 そう決意を固めて、薬草を引っこ抜いた。


 一見何の変哲もない雑草のように見えるが、葉の付き方に注目すると、一本の細茎に丸く可愛らしい葉が等間隔に並んでいるのが特徴である薬草を左手に束ねようとする。

 しかし、作業開始から暫く経って、出立前には空を覆い尽くさんばかりだった暗雲がすっかり流れ去ってしまった今現在においては、薬草は片手では持ちきれない程に集まっていた。

 

 うむ、これだけあれば充分だろう。


 世界の管理者としての観点からしても、更なる採取はこの辺一帯の薬草種の絶滅に抵触しかねないと検討がついた。


 私は立ち上がって、大木の傍に蹲るハゼランの方へ向かう。

 森林の中で見る戦斧を担いだ大男の背中は、泰然自若とする大岩のような静けさと餌を探し求める大熊が放つような野性を感じさせた。


 実際は手の平程しかない草をちまちまと選り分けているだけなのだがな。


 ハゼランは近付いてくる私の足音に気が付いたらしく、こちらが声を掛ける前に背後を振り返った。

 

「おお、結構集まったな」


 と感嘆の声を上げる彼の手には端金にもならぬであろう粗末な薬草が三、四本だけ握られていた。

 狩人であり発起人でもある割には残念な有り様だ。

 背中の戦斧に使い古された痕跡が垣間見えることから、採取作業は彼の本分ではないのかも知れない、と分析しながら薬草を手渡す。


 礼を述べながら本日の成果を腰のポーチに仕舞うハゼラン。

 その際、同じく腰に付けられた灰色の羽根のアクセサリーが目に留まった。


「出立前にも思ったが、意外と少女趣味があるのだな」


「あーこれか?」


 私が指差す方を目で追ったハゼランが静かに言う。

 手作り感満載というか、失礼を承知で書き記させてもらうが、決して良質とは言えぬ色合いと造形だ。

 時折守護天使バニーが土産と称して持ってくる、格安のアクセサリー店で売られている剣や竜を模ったアクセサリーの方がまだ飾りとしての存在意義を果たしているように思える。


 それを何個も重ねて身に着けているのだから不思議だった。

 よほど好きなのか、それとも下界の流行り物なのだろうか。


 私が観察していると、持ち主であるハゼランは「あー」とか「んー」とか声を漏らしながら考え倦ねる様子を見せた後に、ふと閃いたように言葉を続けた。


「これは仲間の証ってやつだ」


「ほう……良い言葉だな……だが、いやに仲間の数が多いのだな?」


 そう訊ねると、ハゼランは寂しそうに笑った。

 眉を八の字に曲げ、手の平に乗せた羽根のアクセサリーを遠い目で眺める姿はさながら恋する乙女のようである。

 何でも、その腰に束ねられた装飾品を集めることも狩人の仕事だと言う。

 彼は「羽根拾い」と称していた。


 何が起こるか分からないこの世界。

 傍から見れば輝かしい程の栄華を誇る都も、ふと路地裏を覗けば蛆虫の如く悪意が蔓延っているように、人は予想だにしない角度から死の歓迎を受けるものだ。

 

 大半は呆気なく、時には劇的に人生は幕を下ろして、悲しむ者がいれば悲しまれ、喜ぶ者がいれば喜ばれ、最終的に生前の所有物だけが現世に遺される。

 人の目がある死に場所ならば遺品は遺族若しくは相応の知人の元へ引き継がれるが、洞窟や森林、山岳などの人知れぬ場所で命を落とした者はそうもいかない。

 

 最悪の場合、魔物の巣窟(ダンジョン)が死に場所となることもあるだろう。

 しかし、どんな状況や死に方であれ遺族の殆どは大切な人が大切にしていた物を回収して欲しいと願うものだ。

 現世に遺る唯一の繋がりだからな。

 骨の欠片や指一本でさえ残っているだけマシな状況だってあるのだから。


 そこで遺品回収人として抜擢されたのが、死地を仕事場とする「狩人」だった。

 誰に定められた訳でも無いが、ある日を境に狩人協会に遺品回収依頼が舞い込むようになり、小遣い稼ぎに承諾しているうちにそれが定石化したのだとハゼランは語った。


 そして、お察しの通り、彼が持つ羽根のアクセサリーは彼の仲間が遺した品なのだそうだ。


 気軽に触れて良い話題では無かったか、と私は若干後悔するが、興味深い話を聞くことが出来た充実感の方が心を占めていた。


 "仲間の証"が羽根の形をしているのは、それが【ルモス村】を象徴する紋章だからなのだろう。

 振り返ってみれば確かにマダム・ラベンダーの首元には銀色のネックレスがぶら下がっており、その飾りは羽根のような形をしていた。

  

「ちょっと前までは魔物なんか全く出なかったんだけどなあ」


 ため息混じりの声に、私は当調査の重要性を察した。

 ハゼランの腰に束ねられた幾つもの羽根の中には、今回の調査対象によって殺されてしまった者たちの遺品も含まれているのだ。

 

 私の中で決意が漲るのを感じる。


 「魔物が全く出ない」という発言が世界の管理者としては少々気になるが、今はそれよりも大事なことがある。


「ハゼランよ……その仇討ち、私も力添えさせてもらうぞ……!」


 内なる衝動を現すように勇ましく片手を前に押し出す。

 すると、ハゼランの表情が緊迫したものに一変した。

 ようやく私のカッコよさに気が付いたか、と笑みを浮かべそうになったが、次に続けられた言葉によってその笑みは消え去るのだった。


「悲鳴だ。嬢ちゃん、今すぐ村へ戻れ!」


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