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第1話 我が名はマギウェル・デア・フィーネ 天界崩壊まであと1000年


 ここは天界の片隅に佇む魔法管理局。

 別名──深淵黎明天衣団(ザ・カオス)


 仮初の現世に無限の可能性を秘めたる物質──「マナ」を接続する場所。

 全てが始まり、全てが終わりを迎える特異点。

 そして今、新たな可能性の扉が解き放たれようとしていた。


「マギウェル様、入りますよ」


 本棚ばかりが置かれた、暗く沈んだ部屋に光が差し込む。

 机上と睨み合いをしていた「マギウェル様」こと私は、呼びかけに反応して僅かに身体を震わせた。

 筆を走らせていた白い表紙の魔導書を閉じて後ろを振り返れば、見慣れた顔と目が合った。


 鮮やかな桃色に透き通るような金色のメッシュが入った頭髪を肩まで垂らし、眠気眼を隠そうともしない女。


 頭上には黄金の輝きを放つ光の輪があり、また、背中には世界各地を飛び回る為の双翼を携えていた。

 子猫のような顔立ちと琥珀にも例えられる金色の瞳。

 それらは天上に住まう者「天使」の特徴だ。


 同時に、彼女だけの特徴──身に纏った衣装に目をやる。

 黒い兎耳の髪飾りと豊満な胸元を露出した艶のある黒衣装、スラリと伸びたお御足に網タイツを履いた姿は、毎度のことながら妖艶的だ。


「……来たか……我が守護天使にして深淵黎明天衣団副団長、類稀なる才覚に埃を被し続けて早数千年、気が付けば下界の安酒を飲み尽くしていたという至高の遊び人、『バニー』よ」


 そして、物語の主人公である私もまた天使だ。


 勿論、ただの天使ではないぞ。

 スゴくて特別でカッコいい最強の天使なのだ。


「相変わらず長いですね、わたしの名乗り口上」


「クククッ、名乗り向上など長ければ長いほど良いからな! ちなみに私は崇高なる──」


「──待って下さい。マギウェル様の自己紹介は二日酔いに響きますから」


 苦言を呈すバニーに私は口を噤み、低く唸った。


 自己紹介したかったのに。

 せっかく良い口上を昨晩思い付いたのに。


「コホン……それで今日は何用だ? 貴様が素面(シラフ)で顔を見せるなど珍しい。普段ならば酒か葉巻に酔っているというのに」


「はあ……やっぱり何も知らないんですね。下界が大変なことになったんですよマギウェル様。魔法管理局宛に『光臨』命令が出ています。あと、葉巻は辞めました」


「降臨……だと!? 良いだろう……この私にかかれば屍を籠絡せし死霊王だろうが闇の炎に包まれた邪悪龍だろうが容易く呼び出せるぞ」


「『光臨』されるのはマギウェル様ですよ……まさか忘れたんですか? 天使業務の一つであり、わたしたちにとって──」


 とバニーはさぞ面倒くさそうに説明を続けた。

 世界の管理に託された我々天使にとって、最も重要とされる「世界の調和管理」における「下界への干渉」、以下──


 第一次干渉「恩恵」

 第二次干渉「神託」

 第三次干渉「光臨」

 最終干渉「終末」


 ──に分類される。


 下界の危険度に伴い、段階的に天使による手助けを施していくというシステムであり、第三階級の使徒天使や第二階級の守護天使の主な業務とされている。


 今回の「光臨」は滅多に発令されるものではなく、更には世界を一度やり直すという最悪のシナリオ「終末」の一歩手前。

 昨晩、全天使に天界への一時帰還と臨時対策委員会の設立が指示されたという。


 へー知らなかった。

 私が新たな名乗り口上を考えてる間にそんなことが。


「では頑張るのだぞ、バニー」


「いやいや、話聞いてなかったんですか。今回は魔法管理局宛に命令が出たんですって」


「うむ、それは先程も聞いたぞ」


「じゃあ分かりますよね」


「ああ、その『光臨』とやらは守護天使の仕事なのだろう? 私は新開発した魔法を適応させるのに忙しいのでな。貴様には副団長として我が管理局の名を更に広めるべく奮闘してもらおうか」


 そう言って、机上に置かれた白の魔導書(ホワイト・アルバム)に再び目をやる。

 世界に存在する全魔法が書かれた唯一無二の魔導書だ。

 魔法の管理者である私は、無限の根源「マナ」から「火を起こす」「水を出す」というような可能性を引き出し、現世に「魔法」として接続している。


 現在、新たに見出した夢と希望の結晶である魔法を誰でも利用可能にする「詠唱」を考えている最中だ。


「ああ、【豊胸】の魔法でしたっけ。マギウェル様は確かに小さめですが、それがいいんですよ。そんな魔法いりません」


 バニーがその豊かな胸を持ち上げながら言った。

 私にはそれが挑発にしか見えず、内心ムッとする。


「……いいかバニーよ。私が開発しているのは【巨大化(インジェンス)】の魔法だ。決して大きな胸が羨ましいだとか、己の乳を大きくすれば揉み放題なのではだとか、そんなやましいことは考えていない」


「へえ……」


「と、とにかく、唯一の団員にして唯一の守護天使バニーよ、下界の命運は貴様に託したぞ!! その厭らしい乳を存分に活かしてくるといい!!」


 私の一言で魔法管理局に静寂が訪れた。

 ただでさえ小さい部屋がより一層狭く感じられるようだ。


 私は若干の居心地悪さを感じながらも魔導書に向き直る。

 そして、バニーが退出してくれることを切に願った。

 

 わざとらしく息を吸い込むと、無限の可能性を秘めたる物質であり女神の意思片でもある「マナ」の作用と反作用、緻密に構築された詠唱を書き綴った頁に、再び筆を走らせんとする。


 だが、魔導書に向けられた視界の端にバニーが覗き込んできた。

 やがて、そっと耳元で囁いてくる。

 

「マギウェル様。現在、下界では魔王が暴れているそうです」


「……ほう……魔王か」


「はい。そんな魔王の手によって先日、ヒューマン族の希望の象徴である聖剣が折られてしまったそうです」


「聖剣が……? それは妙だな……」


「魔王の力は強大で、もはや立ち向かえる者は皆無。死者は十万人にも及び、地の民たちは朝日を恐れる毎日なのだとか」


「なんということだ……」


 本来朝日とは暗く静かな闇夜に訪れる光明。

 亡霊のような恐ろしさを持つ悪夢や心にこびり付いた憂鬱は、朝日を浴びればいつの間にか和らいで、人々は明日を迎えることが出来るのだ。


 光の使者である我々天使はそんな希望を守る義務がある。

 だが、先程も記述した通り、私はただの天使ではない。

 ヒューマン族、もとい地の民を守る以前に、魔法の管理者にしかできないことを成し遂げなければ。


 例えそれが【豊胸(ペクトゥス)】の開発であってもだ。


「……他人事ですね、マギウェル様。言っておきますけど、今回の魔王の強さは全ての守護天使が集まっても勝てない程だそうですよ」


 その言葉に私は手を止めた。

 白の魔導書から目を離し、兎耳に目を向ける。


「え、そんなに強いの?」


「ですから『始天使』であるマギウェル様の出番というわけです。下界とお酒の平和のためにお願いしますね」


 バニーはニッコリと笑う。

 そこで私は悟った。


 骨の髄までサボり癖が染み付いた彼女が、開口一番に仕事の話を始めた理由──奴は今、酒のために動いている。


「待て待て待て!! 始天使なら適任者が他にいるだろう。自然の始天使アモルならば下界に詳しいだろうし、捕食の始天使アヴァスちゃんは遥か昔下界に溢れた魔物どもを喰い散らかした功績がある」


 それから私は残り五つの名前を連ねた。

 他の始天使たちは下界との繋がりが強く、(私には遠く及ばないものの)世界を捻り潰せるほどの力を持ち合わせていると。


 しかし、バニーはため息を吐くだけであった。


 本日二度目の沈黙の後、バニーの酒気を帯びているかのように緩んだ顔はやがて、真剣な表情へ変貌した。

 

「此度の『光臨』は女神デア様の助言のもと可決されたそうですよ」


「なっ……デア様が?」


「コホン……『フィーネであれば世界の救世主となってくれるでしょう』と微笑んだそうです。感情の始天使アニウェル様が助言を求めてから寸刻経たずに仰ったと聞き入れましたよ」


 バニーは頬を緩ませて、私の背中に触れた。

 彼女の温もりが伝わってくる。

 それは彼女が生きている証、私が守るべき息吹であった。


 私は席を立ち、沈黙を破った。

 真っ白な四枚の翼を広げ、右手で虚空を掴む。


「……良いだろう。魔導書に封じられし我が真の力を見せる時が遂に来たというのだな」


「お」


「親愛なる女神デア様の箱庭を、傲慢にも掌中に治めんとする闇の帝王は、偉大なる魔法の始天使が深淵に沈めてくれる!」


「あ、数千年ぶりにやる気出してもらったところ悪いんですけど、マギウェル様が直接倒したらダメですよ」


「な、なぜだ!」


「一時的な解決にしかならないので。それにマギウェル様の魔法に地表が耐えられるのか分かりませんし」


 確かに。

 そういえば下界で魔法を使ったことは無かったな。

 開発した魔法の運用化は基本的に地の民に任せきりだし。


 それに聖剣でしか打ち破れないと語り継がれている魔王を、世界の管理者である始天使が無理やり倒すというのもロマンに欠けるだろう。


「しかし……どうしたものか。助言でもしてやるか?」


「あんまり効果無いと思いますよ。『神託』で既にやってるはずですから……あ、じゃあ勇者パーティに入るのはどうですか。一介の魔法使いとして」


「現世を忍ぶ仮の姿か……面白い! さすがは我が守護天使だ!」


 私は魔導書を広げ、咳払いをひとつ。

 身体に宿りしマナと無限の可能性を接続し、力を込めた。


「『世界に残された紛失物をここに、我が求めるは"星降る夜と漆黒の羽衣"──【招来(アトラクト)】』」


 魔導書から光が溢れ、魔法が世界に作用する。

 部屋の暗がりに眠っていた長箪笥が震えだし、臨界点まで到達すると持ち主に再び求められた装束が勢い良く飛び出す。


 そして、装束は彗星の如き光芒を描きながら私を包みこんだ。


「──我が纏いしは星々からの贈物『星屑宿りし三角帽子』と『闇夜を背負う外套』、崇高なる魔法を支配し、深淵に黎明を齎す者、我が名はマギウェル・デア・フィーネ! ここに降臨!!」

  

 渾身の決め台詞。

 脳内で天使見習いたちによるファンファーレが響く。


 よし、決まったぞ……!

 昨晩寝ないで考えた名乗り口上……やはり完璧だ……!


「じゃあそういうことでお願いします」


「む……貴様も行くのだろう?」


「いや、わたしはほら……」


 そう言って両手を見せつけてくる。

 彼女の指先がブルブルと小刻みに震えているのが分かった。

 これは──酒不足による禁断症状だ。


「よし……ここまでよく頑張ったな。そこの本棚の上にアモルが贈ってくれたエルフの美酒があるぞ」


「やったあ!!」


 こうして私の旅が始まった。

 ちなみに、外界に降りるのは天界創造以来ぶりである。

 脱・引きこもり!!


備考

【プロフィール】

名前:マギウェル・デア・フィーネ

種族:天使

年齢:???歳

身長:155cm 

体重:48kg 

スリーサイズ:B80・W57・H81

趣味:魔法探究、執筆

容姿:金髪、セミロングにウェーブ

   最強にカッコいい


注釈:これらは所詮、下界の基準による数値に過ぎん……

   本当の私はもっとスゴいぞ。

   胸も成長予定だ。


【プロフィール】

名前:どうも、バニーです。

種族:天使です。

年齢:憶えてませんが、マギウェル様よりだいぶ若いですよ。

身長:167cmくらいですかね。

体重:内緒です。

スリーサイズ:どりーむ・かおす・ふぁんたすてぃく。

趣味:お酒、魔物賭博、葉巻(禁煙中)

容姿:たぶんカワイイですよ。よくナンパされるので。

   ショートボブ、ピンクベースに金のメッシュ。

   もちろん地毛は金髪です(ピンク色はマギウェル様に染めてもらいました)。


注釈:バニー衣装はわたしの趣味ではありません。

   イロイロあって仕方がなく、です。


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