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天界の部屋


「はあ……今日も疲れたわ……」


 女神ダレーテルは業務を終え、ふかふかのベットに身を預ける。全く今日はどっと疲れる一日だった。


 神々は自身の世界の発展を目指すことが仕事だ。しかしそこには「自身の世界の生物に、神の力を授けてはいけない」という禁忌がある。


 しかし、私の世界である異界ダレーテルは他の世界と比べるとかなり発展が遅れている。それも、蔓延る魔族が人間を襲い続けているせいだ。


 どの時代のどの異界でも、世界の発展には何故か分からないが、人間という種族が必ず関わっている。彼ら無くして世界の発展はあり得ないのだ。


 ……私の世界なのに種族の管理が出来ていないのは、魔族や妖精族の上位種が、神である私からの干渉を絶っているからで、彼らが今、どこで何をしているのか検討もつかない。


 このままでは世界の発展はありえないと判断した私は、女神の権能に適合する人間を、知り合いの世界から秘密裏に譲り受けていた。

 私が持つ『スキル石』によって、別世界の人間に女神の権能を渡し、勇者として魔族の侵攻を食い止め、人間の数を維持することにした。これを私は強制転送と呼称している。

 強制転送も、天界的にはかなり禁忌寄りである。もし他の神に知られたら禁忌ほどではないが、懲罰を受けるだろう。


(しょうがないじゃない。このままじゃ私の世界が滅んで私自身の存在すら怪しくなるんだから)


 はあ、とまたため息をつき、今日の出来事を思い出す。


 強制転送は秘密裏に行なっているため、女神である私自身が必ずやり遂げねばならない。そのため、一日で転送する勇者は二人までにしている。関係を知られるとまずいため、アンミーンとは連絡をしばらくとっていない。

 しかし、彼女も神の禁忌のことは知っているし、とても冷静な女神だ。たとえ多くても、二人目以降の転送者は次の日に持ち越していた。


 ――しかし、今日来た転送者は三人もいた。


 しかもどの勇者も普段の転送者より扱いづらく、処理にも苦戦させられた。



 ――



 一人目は無口すぎる少女。こちらが何をしても返事がなかった。手を振っても、大声を出しても、神の威光を出しても驚きすらしなかった。元の世界に返すわけにもいかないので、不気味な雰囲気の少女の手を取り、事務的にスキル石へ触れさせると、少女は驚愕の潜在能力を秘めていた。

 私が与えた身体能力の強化はカンスト。こんな事転送をしてきて初めてのことだった。

 私はスキルとは別に、神からの強制転送の負荷に耐えられるよう、身体能力も以前と比べて強化している。与えられる強さには個人差があるが、これも魔族と戦うには必要最低限必要な能力なのだ。

 私が与えた身体能力のカンストとは、神と同等の力を得ているということになる。これなら魔族など一撃で葬り去るだろう。

 少女に疑念を抱いていた私の考えは一気に吹き飛び、魔族の侵攻が一番激しい人間の居住区の最北端へと転送した。是非とも魔族を一網打尽にしてほしい。



 ――



 二人目は高校生くらいの男子でずっとヘッドスピンをしていた。よくずっと回れるなというくらい頭を軸に回っていた。会話が聞こえたのか分からないが、親指を立ててグッジョブしていたので多分大丈夫だろう。

 ちなみに逆さまなのでこちらから見ると大分失礼なハンドサインになっていた。

 一応スキル石に触れさせると、身体能力の強化は標準だったが、スキルは脅威の三つ持ち、私が送るスキル三つ持ちはこれで二人目だった。ずっと回っていて顔すら見えないが、こちらもかなりの優秀な人材だ。

 しかし、スキルはあまりの強力さゆえに己の力を過信しすぎてしまうことがある。そのせいで勇者の職務を捨て、私の世界で悪行をしている輩が何人もいる。

 スキル一つだけでもここまで傲慢さが出てしまうのだから、スキル三つ持ちを雑に放置はできない。悪行に手を染められたら、上位種よりも先に、勇者たちが私の世界を滅ぼしてしまう。

 人間の愚かさを知っていた私は、彼にスキルの重要性を学んでもらうために学術都市へ向かわせることにした。今後の活躍が楽しみだ。……ずっと回ってたな。



 ――



 三人目は冴えない三十半ばくらいの男だった。今日見てきた二人と比べなくても、いつもの勇者達より存在感がなく、正直弱そうだった。


 ……アンミーンめ、在庫処理したな?


 三人目が転送されてきたことは初めてだったので驚いたが、この男はあちらの世界でも、いらない存在だったのだろう。

 アンミーンは神の中でも気の知れた関係だが、どうもいらない者を押し付けてくる節がある。私の存在が消えそうなのにまるで気にしてない。まあ、だから信頼してるんだけどね。

 おっと、そうだった。今は仕事をしないと。たとえ冴えないおっさんだとしても私は女神。暖かく迎え入れようではありませんか。え? なんで急に泣き出してるの!? ちょっと、部屋をあんまり汚さないで!


 ……さて、男が落ち着いたところで状況説明をする。よくいるのよね、自分が死んだ自覚もなく以前の世界への後悔で悲しむ人間。

 でもある程度宥めて、こちらの世界で豪勢な生活ができると知ると、すぐに元気になってくれるから人間は扱いやすい。


 ……それにしても女神の私がここまで丁寧に説明してあげてるのに何の反応もないわね? もしかして女神の美貌に見惚れてるのかしら? まあ、幸が薄そうな人生を送ってそうだし私に見惚れるのくらいは許してあげましょう。今日は二人も有望な人材を送り出せて気分がいいのだ。仕事をさっさと済ませるとしましょう。


「…………あのー、いかがされました? もう話は全て済みましたが?」


 美しい女神直々の、下から見上げるような姿勢での問いかけ。体を傾け、胸元を見せつけていく。さらに頭も少し斜めにして、あくまで純粋な女神として目を潤ませておく。


 今までの勇者はこれをすれば途端に頷く機械になった。冴えないおっさんなんてすぐ従順になるわ。さっさと頷いて転送されなさい。


「もう帰っていいですか? 部屋が待ってるんで」


 ……は?


 何なのこの人間。部屋が待ってる? 私の予想していた言葉と違いすぎて驚愕する。

 何を思ったのか目の前の男は今更うんうん頷きはじめて、全て理解したという顔をしている。


 ……まあ、いいわ。とりあえず帰れないことは説明して、これからのことを伝えないと。これも女神の仕事。私の世界のためなんだから。



 ――



 一通り伝え終わると、男はスキルはいらないから部屋ごと連れて行けと言い出した。ふざけるのもいい加減にしてほしい。

 どうやらこの男は、異世界で活躍することに何の興味もないらしい。きちんと説明した分、全く聞いていなかったような態度に腹が立ってくる。


 ……いいわ。それならあなたは地中深くに転送してあげる。そのご自慢の部屋の中で苦しんで死になさい。そうすれば少しは反省するでしょう。今日は既に最前線で活躍できる勇者を二人も用意できたので普段以上の成果なのだ。こんな余り物に費やす時間はもうない。


 さっさと冴えない男と彼のアパートの一室をまとめて地中に転送する。……はあ、さっさと寝よう。



 ――



 こうして、私はようやくベットで横になれている。どうやらアンミーンから久々の連絡が来ているようだ。大方、冴えない男の在庫処理をさせた謝罪だろう。

 そんなもの別にどうでもいいし、無能な勇者のことなんか思い出したくはない。神々に気づかれないように注力していたせいでもうクタクタだ。寝よう。


 私は久方ぶりの睡眠で一日の疲れを癒すのだった。

ここまで読んでいただきありがとうございます!

とりあえず第一章はこれで終わりです。

次の章で置いてかれた子を登場させたいと思っています。お楽しみに!

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