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授業の部屋②


「ええ!? シヤベリ学園長を倒した!?」

「うん、通り魔みたいに襲ってきたから、つい」

「す、すごいです! 平野さん!」


 魔術学校に入学してからおよそ二週間ほど経ち、僕たちは慣れ親しんできた通学路を歩いている。


 いつの間にか意識を失ってしまい、昨日伝えられなかった洞窟での出来事を話すと、エランスはやれやれと首を横に振った。


「あなたねえ……私がずっと考えていた『偽竜教』殲滅計画の根本から崩すんじゃないわよ……」

「え? どういうこと?」


 そんな話はエランスから聞いたことがなかったので、つい驚いてしまう。最近エランスは僕を無視して文化祭の準備をしていたから、そこまで話していなかったんだけど。


「エ、エランスさんはこ、これまでずっと、クラスの皆さんを集めて、ぎ、偽竜教の計画を打ち砕こうとしてました!……へ、『平野さんの力になりたい』って」

「こら、レーブン! 余計なこと言わないの!」


 エランスは顔を真っ赤にしてレーブンを怒鳴りつけている。「ご、ごめんなさい」と謝るレーブンも満更でもなさそうだ。


「なんだ、エランスは僕を除け者扱いしていたわけではないんだね。てっきりに何か変な事をして怒らせてしまったかと思ったよ」

「……あなたの変な行動はいつものことだし、もう慣れたわよ」


 エランスは一人でなにか呟いているが、僕とは反対を向いていたのでよく聞こえなかった。


「それより、シヤベリ学園長がいなくなったのはかなり大問題よ。正体が魔族だったとはいえ、偽竜教の創設者で学術都市を牛耳っていたことには変わりないわ。このことが公になったら、それこそ魔術学校の存続自体も危うくなるわ」

「え!? それは困る。まだ転送装置の実験に参加してないのに!」


 僕たちが学術都市にやってきた一番の目的は当然、ファウンドの家賃を以前の世界にいるアパートの管理人さんに届ける事だった。


 前に行こうとした時は実験室のある三階が封鎖されていたので、今までファウンドと一緒に学校生活をのんびり過ごしてきた。でも、この学校自体がなくなってしまっては話にならない。


「……当分は問題ないはずよ。偽竜教に支配されていたとはいえ、学術都市は他種族の知識が集った人間の研究機関。魔術学校だってそう簡単には潰れないはず。おそらく、臨時でシヤベリ学園長の代わりになる方が来るはずよ」


 良かった。とりあえずまだ魔術学校は存続するらしい。でも、そろそろ転送装置の実験をしている研究室には向かった方が良さそうだ。


 それにしても、シヤベリ学園長の代理には一体誰が来るんだろうか……?



 ――



「……おはよう。シヤベリ学園長とテラファネア・ルミナス先生が消息不明のため、本日からお前たちの授業を担当することになった理事長代理の『ナイン01』だ。よろしく頼む」


 ナインお椀さんが僕たちに丁寧な挨拶をしてくれる。どうやら色々あって、この学校の理事長になってしまったらしい。


 さらに、テラファネア・ルミナスこと闇鍋婆さんはこの二週間学校に姿を現さず、僕たちは入学して早々自習ばかりしていた。魔術学校の逼迫した人手不足のせいで、理事長代理としての職務もあるはずのナインお椀さんが僕たちのクラスを受け持つことになった。


 僕が龍になって喋った言いつけ通り、闇鍋婆さんは魔術学校周辺にいた『偽竜教』の信者を一網打尽にして、始まりの地に向かって行った。闇鍋婆さんの指導で、ティオ婆の生活習慣が改善されることを祈ろう。


「君たちも分かっていると思うが、学校の文化祭は今からちょうど一ヶ月後に開かれる。各種族の長所を存分に活かした催しをすること。以上だ。それではこれから授業に入る」


 淡々と事務内容を告げたナインお椀先生は、魔術学校の授業を始めていくのだった。



 ――



「それでは、今日はここまでだ。明日もよろしく頼む」

「「ありがとうございました!」」


 ナインお椀さんの授業はとても分かりやすかった。聴いてるこっちの理解ペースに合わせた説明を細かく、時には大雑把に説明してくれて、内容がすんなりと頭に入ってきた。


「平野頼来、お前はここに残れ。……聞きたいことがある」


 教室から出ようと荷物を纏めていた僕は、ナインお椀先生から居残りを告げられる。


 クラスのみんなが居なくなり、僕はナインお椀先生の立つ教壇の前に立つ。

 武装を解除したナインお椀先生は意外と背が低く、教壇の高さを合わせても、僕と同じくらいの身長になっている。

 しかし、誰がみても美形と言うだろう顔と、ずっと聴いていられる落ち着いた声は、戦士の目をしたナインお椀さんのかっこよさをより引き立てている。


「あ、あのー……ナインお椀先生。何か御用でしょうか?」

「……貴様、シヤベリ卿が何処にいったか知っているか?」


 至近距離にいた僕にしか聞き取れないくらいの声で囁いてくるナインお椀先生。囁く声すらかっこいいのはずるいと思う。


「シヤベリ卿? あの人なら、僕とファウンドで倒しましたよ」

「…………は!?」


 何故かナインお椀さんが素っ頓狂な声を上げて驚いている。……エランスも驚いた顔をしていたけど、やっぱりあの宗教の人は倒しちゃいけなかったのかな?


 僕は申し訳ない気持ちになって、教壇に立つナインお椀さんに思わず頭を下げた。

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