秘密の部屋
「ご主人様。やはりこの洞窟には、例のエネルギーが溢れています」
「よしファウンド、根こそぎ回収しちゃって」
ファウンドは僕の言葉に頷き、肘を前に出し、腕を交差させてぐるぐる回す。
僕は完璧な部屋であるファウンドの家賃を以前の世界の管理人さんに届ける為、学術都市にある魔術学校に在籍している。
この洞窟は、学術都市の巨大な公演ホールの地下にあったもので、入学式でファウンドが地下の空洞を検知した時から気になっていた場所だ。ちなみにエランスたちは、学校行事である『文化祭』がもうすぐ開かれるということで、その準備が忙しくてここにはいない。
魔術学校の文化祭は、今から大体一ヶ月後くらいに開催されるイベントだ。なんでもレーブン達のようなこの学校の生徒の親族をこの魔術学校に招待して色々もてなすらしい。
まあ、僕は文化祭が始まる前にファウンドの家賃を以前の世界に届けて、魔術学校を退学する予定だから関係ないけど。
皆やる気に溢れているが、特にやる気を出しているのがエランスだったことには一番驚いた。
どうやら、僕に内緒で生徒達を集めて秘密の会議をしているらしい。……もしかして、僕は既に学校で浮き始めている?
僕は学校が苦手だ。以前の世界でも学校では碌なことがなかった。ファウンドに最高の思い出を作って欲しいから入学したが、早速部屋友一号のエランスからハブられてしまって、三十半ばの僕のメンタルはズタズタになりかけている。
「ご主人様。前方に南の山の鉱山にあった装置と同一の物を確認しました。いかがされますか?」
僕にはまだ遠くて視認できないが、ファウンドは以前鉱山で宗教の人に襲われた時に隣にあった、スーパーコンピュータのような装置を見つけてくれた。ゲージは前と違い底を尽きておらず、六割くらい溜まっている。
「うーん。キントさんに装置は解析してもらってるし、宗教の人達が作った装置なら壊しちゃっていいかな。どうせ碌なものじゃないだろうし」
どうしてこんなところに宗教の人である魔族が作った装置が置いてあるのか分からないけど、カクレータ村でバーバラスがしたようなことを学術都市でもされたくはない。早めに処理しておこう。
「かしこまりました、ご主人様」
ファウンドは両手から機関銃を出して装置を破壊していく。
せっかく凄そうな装置を創っているのに、宗教のために利用するなんて勿体無いにも程がある。
どんな装置かは少し気になるが、宗教関連の物を分析するために完璧な部屋に入れるのは嫌だったので、ファウンドに排除を任せた。
装置から火が上がる中、僕たちは装置を通り過ぎてゆるりと探索を続けようとしたが、後ろからの声に思わず足を止める。
「な、何者だ貴様らは!? どうやってこの魔造兵器の中に入ってきた!?」
急に話しかけてきたのは、僕より年上に思える低い声をした男だった。暗がりで、その姿はよく見えない。
「えーっと、話せば長いんですが……」
この洞窟を見つけられたのは正直、運が良かっただけだ。
ファウンドと一緒に謎エネルギーを探して入学式で使った講演ホールに来たら、ファウンドはホールにあるお手洗いに入っていったのだ。
そこにあった蛇口に彫られた龍の造りがあまりにも美しくて感動して「リュリュリュ〜」なんてふざけながら撫でてたら、勝手に入り口が空いただけだ。
だんだん近づいてきた男の顔が見えてくる。どこかで見たことある顔だな? どこで見たんだっけ……?
「……ご主人様、あれはシヤベリ・ズーキ。魔術学校の理事長である魔族です」
ファウンドは機関銃をシヤベリと呼ばれた男に突きつける。え? あの人、エランス達が言ってた学校の偉い人なの?
「おのれえ! どこで計画がバレたか分からんが、この魔造兵器は作戦の要だ! 貴様らに壊させはせぬぞお!」
シヤベリさんは人間の体から口を裂き、黒い羽を伸ばして宗教の人へと変貌する。シヤベリさんの体格はもともと体が大きかったのもありそこまで変化がない。
しかし、彼から生えている爪は今までの魔族同様とても長く、身長が二メートルくらいある彼の身長ですらその爪は地面に掠っている。
「死ねえええ! 勇者共おおお!!!」
「大丈夫です、間に合ってます」
僕はファウンドからもらった振動剣のスイッチをすぐに入れてシヤベリさんの爪を切っていく。
最近爪を切ると褒められることが多いので、今回は魔族の爪を早めに切っておいた。
「バ、バカな……! こうもあっさりと魔族の爪を切るなど! 私めの手のひらの上で踊るしかない愚鈍な勇者共如きにいいい!」
「……は?」
こいつ、今ファウンドのことを馬鹿にしたか?
銀髪の長い髪を靡かせて、黄金に輝く瞳は洞窟でもその光を失わず、凛々しく僕の隣に佇み、メイド服を美しく着こなすその姿は世界すらも魅了するというのに。
……よし、こいつは殺そう。宗教の人だし。
僕は隣で既にレーザー収束砲を構えるファウンドに指示を出す。
「ファウンド、やっておしまい」
「かしこまりました。『異界レーザー収束砲』、発射します」
ファウンドが告げた言葉とともに、レーザー収束砲を放つ。
周りに遮蔽物となりそうなものはなく、洞窟内の澄んだ空気はすんなりとレーザー光線を受け入れ、目標に一直線に向かう。
光の進行を妨げたシヤベリは、その光の持つ全ての熱量を内部に強制的に取り込む。
「馬鹿な!? こんな、劣等種族どもにいいい!!」
なんだか二回くらい聞いたことがあるような断末魔をあげて、シヤベリはレーザーの熱で焼き消える。宗教の人の厄介さにも困ったものだ。
――
「ご主人様、洞窟内のエネルギー、全ての回収が終わりました」
腕をぐるぐるさせていたファウンドの動きが止まり、僕に成果を報告してくれる。無表情ながら得意げな声色の彼女が見上げてくるだけで、僕は昇天しそうになる。
「ありがとう、ファウンド。とても楽しい探検だったよ」
僕はファウンドに感謝を告げて、彼女の頭を撫でる。銀の髪は僕の手をすんなりと受け入れてくれて、撫でている僕の方が安心してしまう。
「それじゃ、そろそろ帰ろうか? ファウンド」
「かしこまりました、ご主人様」
僕たちは久しぶりに二人だけの時間をゆったりと過ごして、やって来た洞窟の入口に戻って来た。
再び蛇口の龍の彫刻を撫でて、洞窟の入り口を塞ぐ。久々にリフレッシュできた僕は、清々しい気持ちでファウンドと共に学校から帰るためにホテルへと歩を進める。
「……平野頼来さん? どこに行ったかと思えば……ファウンド様を連れて、一体何をしてたのですか?」
最近文化祭の準備で忙しくしていたせいで、久しぶりにエランスの姿を見た気がする。
しかし、久々にあった彼女はニコニコしているが、目が笑っていない。
「エランス、なんだか怒ってる?」
……そこで僕は気づいた。僕たちが入った洞窟の入り口。そこに描かれた、赤い女性マークを。どうやら僕は、エランスからとんでもない誤解をされているらしい。
「……違うんだエランス。僕はファウンドと楽しみにしていた新天地に行こうとしたら、思いがけない所にその入り口があっただけなんだ。ファウンドも楽しそうにしていたし、何も問題はないだろ?」
必死に言い訳しているのに、エランスの口角はどんどん上がっている。エランスの機嫌が悪い証拠だ。
「…………もしかして。僕たちと一緒に、探検したかった?」
その一言を口走った僕の目の前は真っ暗になり、いつの間にか探検した一日が終わっていた。




