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作戦会議の部屋


「え、えっと……み、皆さんご無事ですか?」

「ああ、レーブン。僕たちは何も問題なく無事だよ」

 

 偶然近くを通りかかっていたレーブンは銃声と悲鳴の中から僕たちの声を聞き取ってくれたらしく、食堂にやって来てくれる。


 学校の食堂には食事処にあってはならない砂埃が舞っていて、ファウンドに排除された全員が床に倒れ伏していた。


「全く。あんた達は純真な乙女心をなんだと思ってるんだい! さっさと出ていきな!」


 ファウンドの料理の先生であるレシピーナさんは、箒で倒れ伏した人達をゴミのように掃いて、隅に追い払って行く。とんでもない力だ。


「……ご主人様を驚かせたかったのに」


 静まり返った食堂で、ファウンドは一人呟く。やっぱり、この天井に届きそうなケーキはファウンドからのサプライズのようだ。


 ちなみにケーキには傷一つついておらず、何事もなかったかのようにそこに佇んでいた。ファウンドがあくまで自衛ゴム弾の軌道を上手く調整したのだろう。


「申し訳ございません、ご主人様。このケーキはこちらで排除しますので、お気になさらないでください」

「待ってファウンド」


 ケーキを片付けようと服からお腹を出すファウンドを制止する。こんなに高く聳え立つ美味しそうなケーキを排除するなんて勿体無い。


「……どうしてですか、ご主人様? 失敗した今の私は完璧ではありません。すぐに不要な物は排除しなければ」


 ファウンドは僕を見上げて、その黄金の瞳を潤ませている。僕はファウンドの両方に手を乗せて、首を横に振り、ファウンドの言葉を否定する。


「ファウンド。君が完璧なのは、変えようのない事実だ。君の作り出したものに、不要なものなんて一つもない」


 僕は高く聳え立つケーキを一口頬張る。なんとも優しい味だ。作ってくれたファウンドの温もりを感じる。


「ファウンド様。私もこのケーキを頂いても宜しいでしょうか?」


「わ、私もファウンドさんのケーキ、た、食べたいです!」


「……ええ。構いません」


 僕が美味しくケーキを堪能する中、隣でエランスとレーブンはケーキを食べて良い許可をファウンドからもらって、喜んでフォークを取りに行く。僕も、このケーキ美味しさを友達に堪能してほしい。


「……ですが、こんなに荒らしてしまった場所で食べるケーキなんて、ご主人様の意向に背きます」


 ……ああ、そうか。ファウンドは僕が前に言ったことを、ずっと気にしていたのか。


 たしかに周囲には未だに砂埃が舞い、倒れ伏した人達は呻き声をあげていて、景色としてはかなり悪い。僕がファウンドに言った『いろんな景色』に、この場所はなんとも不釣り合いではある。


「ファウンド、カメラを貸して」

「……かしこまりました、ご主人様」


 僕はファウンドからカメラを受け取り、荒らされきった食堂を写真に収める。


 写真にはケーキを美味しそうに食べるレーブン、レシピーナさん、見切れているエランスがいて、後ろには闇鍋婆さんにコット、筋肉ダルマ先生が一箇所に積まれて倒れていた。


 僕の行動を疑問に思っているファウンドが首を傾ける。不思議そうにしている表情も可愛い。


「ファウンド。あの夜、僕は君に言い忘れてしまったことがあるんだ。確かに周りの景色は大事だ。特に最高の景色は、見た人の心を癒してくれるし、一生の思い出に残る」


 ファウンドは僕を見上げて静かに頷く。可愛い、結婚してくれ。


「でも、そこには例外があるんだ。どんなに周りの景色が汚くても、こうして誰かと一緒に何かをすること。それも大事な景色の一つなんだ」


 僕は、今まで誰かを頼ろうとしてこなかった。一人で完璧な部屋を創り上げ、夢を果たしたと思っていた。


 でも、この世界でファウンドと出会って、色んな所を一緒に巡る中で、もっと完璧な部屋と過ごしたいと思った。この気持ちを、ファウンドにも分かって欲しい。


「それは、以前ご主人様が仰られた、『誰からも羨ましがられるような最高な日々』に相応しいのですか?」


 ファウンドが食堂の悲惨な光景を見ながら、悲しそうに言う。


「ファウンド、口を開けて」

「え? ……かしこまりました、ご主人様」


 ファウンドは素直に小さな口を開けてくれる。僕はケーキを一口分掬い取り、ファウンドの小さな口に差し出す。


「ファウンド、このケーキは美味しい?」

「……はい。とっても美味しいです」


 ケーキを素直に受け入れてくれたファウンドは、小さな女の子らしい笑顔で、とても明るい表情をしている。


「僕はいかなる場所や時間でも、君の笑顔が見られれば十分だ。ファウンドはどうかな……?」


 僕の言葉に、ファウンドは下を向く。


「私も、ご主人様の笑顔が見られれば、十分……です」


 僕は思わずファウンドを抱きしめる。僕の愛がファウンドに十分伝わったようだ……!


「エ、エランスさん! へ、平野さんと! ファ、ファウンドさんが!」

「やらせときなさい。いつものことよ」


 僕たちの愛を傍観していた人達は、聳え立ったひたすらに甘いケーキを、黙々と食べ続けていた。



 ――



「さあ、あなた達! いい加減二人だけの世界から帰って来なさい! 作戦会議を始めるわよ!」


 僕たちはいつの間にか学校の食堂からホテルまで帰って来ていた。ファウンドのことをずっと抱きしめていたから、ここまでどうやって帰って来たのか記憶が薄い。


「安心しなさい。ファウンド様がお作りになられたケーキは、私たちと食堂の料理人達とで全て頂いたわ!」

「と、とても美味しかったです!」


 ……どうやら、エランス達には気を使わせてしまったようだ。ファウンドもそろそろケーキを台無しにされた怒りが収まったかな?


「ご、ご主人様……部屋の耐熱限界を超えそうなので、強制スリープさせてください……」


 僕が強く抱きしめ続けたせいで、完璧な部屋の排熱機関を塞いでしまったようだ。


「あ、うん。『ゆっくりおやすみ、ファウンド』」

「おやすみなさい、ご主人様」


 僕の気のない返事でも律儀に受け取り、ファウンドはスリープ状態になる。落ち着いたら、排熱機関を塞いでいたことを謝っておこう。


「ファウンド様にはゆっくり休んで頂きましょう。それじゃ、私達だけで『偽竜教』殲滅作戦の会議をするわよ!」


「ぎ、偽竜教!?」


「何それ?」


 レーブンと僕は驚きの表情でエランスを見つめる。


「平野は聞いてたでしょ……レーブンにはこれから教えるわね。『偽竜教』は、翼人族たちが信仰する『神竜教』を、この学術都市にいる魔族の学園長が都合のいいように書き換えたものの通称よ」


 ……ああ、確かに保健室でウールさんとそんな会話をしていたような気もする。あの後、闇鍋婆さんの乱入やらファウンドのケーキの件ができて、すっかり忘れていた。


「や、やっぱり。ここの学園長はま、魔族だったんですね」


 おや? どうやらレーブンは、学園長が宗教の人だと気づいていたらしい。


「……そう。あなたも魔族の誘いにあえて乗って、ここに来たのね。ということは、あなたも王族か何か?」


 僕はエランスの言葉に、思わずレーブンの方を見る。こんな幼い狐耳フサフサの男の娘が、王族!?


「は、はい! わ、私は獣族の王都『楽園(シャバ)』からやって来たレーブン・アニマー・アリステア……第三王子です」


 レーブンの名前に、すごくかっこいい名前がついた。王族だと知らなかったとはいえ、彼のことを軽くペット扱いしていた今までの自分を殴ってやりたい。


「獣人は大地を『癒す』ことを生業としているわね? もしかして、最近魔族が所有している魔造兵器の調査?」


 エランスの言葉に、レーブンは頷く。


「あ、あの兵器はだ、大地を汚します。学術都市から届いたパンフレットにま、魔族の匂いがあったので、この地を荒らす魔族とケ、ケジメをつけてこいと王から言われて、こ、ここにいます」


 レーブンの言葉を静聴していた僕に、エランスは声をかけてくる。


「平野、状況はかなり深刻よ。ここまで他種族の次期王族候補が揃っているとなると、魔族の思い通りに計画は進んでいると考えていいわね。でも、シヤベリ達が何かする前に行動目的や作戦を予測出来たのは大きいわ

……私たちはこれから先、何をすればいいと思う?」


 エランスとレーブンは、ベットで眠るファウンドの髪を撫でていた僕を見つめる。


「優先事項? そんなの最初から決まっているよ」


 僕は立ち上がり、二人の前に勇みでる。二人は緊張した面持ちで僕を見つめている。その期待に応えるかのように僕は言葉を続けた。


「僕たちがやるべきことはただ一つ……ファウンドの家賃を払うことだ」


 この世界に来ておよそ四ヶ月。そろそろ季節も変わるくらいの時期に差し掛かり、ファウンドの残機は残り二つとなっていた。

 これまで呑気に学生生活を過ごして来たが、これ以上うかうかしていられない。さっさと金貨を以前の世界に送っておこう。


「…………あなたに聞いた私がバカだったわ」


 それからエランスは、僕に興味がなくなったように紙を取り出して、レーブンとともに綺麗な字を書き始めた。

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