朝日浴びる部屋
……ものすごく長い間夢を見てた気がする。いや、夢じゃないんだっけ。
僕は完璧な部屋を完成させて眠りにつくと、光すら届かない洞窟で襲われていた。
しかし、僕の完璧な部屋「ファウンド」が獣を撃退してくれて、今は洞窟の中を二人で探索中だ。
ファウンドの大活躍によって、僕は自分の完璧な部屋を再び拝むことができ、普段の寝床で眠ることができている。
ゆっくりとその身を起こして、背伸びをしながらこれからの方針を思い出す。
とりあえず洞窟の脱出と、謎エネルギーの回収だ。窮屈で湿気の多いこんな洞窟で過ごしていては、僕の完璧な部屋にカビでも生えそうだ……生えないけど。
伸ばしきった背筋をピンとたて、いつもの習慣でカーテンを開けて思い出す。そうだった、外は洞窟だし、開けたところで真っ暗闇だった。
(それにしては眩しいな?)
僕の前に見える窓越しの景色は、朝日に照らされた、一面緑が広がる草原だった。
上には青空がびっしりと張り付いて、雲がふわふわ移動している。近くに見える草花の動きは生命にあふれていて、遠くに見える山々はその広大さを見せつけてくる。
そしてなにより、その全てを優しく力強く照らす朝を告げる日の光が、僕を出迎えてくれる。
唖然としていた僕に向けて、天井から音声機能の声が届く。
「おはようございます、ご主人様。一時間ほど前に洞窟の脱出に成功。洞窟内のエネルギーも八割以上回収し、今は待機状態となっています」
簡潔に告げるファウンドの声。……あれ? もしかして、僕が寝ていた間に全部終わってる?
僕の思考は、突如目の前に広がった草原を目撃した時よりもさらにフリーズして、ピンと立てた背筋を萎えさせ、もう一度最高のベットに倒れ込んだ。うん。いい寝心地。
――
「そりゃあ、僕はお願いしたさ。洞窟なんてずっと暮らせるところではないから、早めに脱出したいって。それにしたって、いくらなんでも早すぎるのよ」
僕は完璧な部屋で朝食を食べながら、ファウンドの仕事の速さについつい愚痴を漏らす。
この子は、僕が起きる一時間前、大体五時間の間に光すら届かなかった洞窟を踏破し、道中の謎エネルギーを腕をぐるぐるして吸い尽くしてしまったらしい。
確かに絶望的な状況だから、早めに脱出するのは最善なんだ。それはそれとして、僕とファウンドが洞窟で繰り広げたであろうラブロマンスは微塵もなく終わってしまい、僕としては悲しくもあった。
ちなみに今日の朝食は、冷蔵庫にあった牛乳とコーンフレークだ。腐ってないか確認はしたけど、匂いも特にしなかったので、冷蔵庫の期限が早い食品から早めにやっつけることにした。
どうやら洞窟に来てから、そんなに時間は経っていないらしい。
「申し訳ありません。ご主人様が起床されるまでに一刻も早く、ご主人様に朝日を見せたかったのです」
――もう、この部屋と一生一緒にいよう。
僕のために獅子奮迅の活躍をしてくれたファウンドに、僕はなんて酷いことを言ってしまったのか。コーンフレークを食べながら、ファウンドの優しさに思わず涙ぐむ。
「いや、いいんだ。僕のためにこんな素晴らしい景色を用意してくれてありがとう。ファウンドのおかげで、こうして清々しい朝を迎えられているよ」
僕は努めてクールに、ファウンドへの感謝の気持ちを伝えようとする。しかし、コーンフレークを食べながら泣きそうになってるから、僕からは威厳が微塵も出ていない。
部屋がほんのり暖かくなって、ファウンドが情けない表情で泣いてる僕を見守ってくれていることに気づいた。うん。めっちゃいい子《部屋》。
朝食を食べ終わり、僕は再び今後の方針について考えることにした。
ファウンドのおかげで洞窟の脱出とエネルギーの回収が成し遂げられた今、僕は何をするべきなのだろうか?
――
今までパジャマ姿だった服を、黒で揃えた普段着に着替え、玄関(ファウンドの中)から外に出る。
肌に触れる風が、届いてくる日の光が、揺れる草花の香りが、僕のことを歓迎してくれている。人間態のファウンドと一緒にいなければ、ここを天国と勘違いしそうだ。
――どうやら、本当に異世界に来てしまったらしい
薄々感じてはいた。見たこともない獣に襲われたり、部屋が美少女になったり、見えない謎エネルギーがふわふわ浮いてたり。ファウンドが僕にゆっくり考える時間を作ってくれたことで、この異常さを受け入れられた。
「ご主人様、目標を成し遂げられた今、次の方針はどのようにされますか?」
僕の完璧な部屋が、草原に吹く風で銀髪を揺らし、黄金の瞳を朝日でキラキラさせて、無表情のまま尋ねてくる。僕は、この美しい景色を見て思ったことを率直にファウンドに伝える。
「……前の世界では見られなかった面白いものを、ファウンドと一緒にこの世界で見てみたい。これからの余生を、誰からも羨ましがられるような最高な日々にしたい! そのための大前提がファウンド、君と一緒にいることだ」
僕は、ファウンドに向けて手を差し出して、内心ドキドキしながら言葉を続ける。
「これからもずっと、僕と一緒にいてください」
その言葉は、初めて最高の部屋の景観を見た時からずっと言いたかったことだった。
近寄りがたい雰囲気を纏った、誰にも頼られていないアパートの一室。僕が住むまで、人がどう生活するのか知らなかった空間。
この部屋に僕がしてあげられることは、一生一緒にいることだけだ。
だから、ファウンドにはいろんな景色を見て、いろんな思い出を作って、僕と一緒に幸せを得てほしい。
これが、僕の今までの。そして、これからの方針だった。
断られないか不安で、情けなく震える自分の手を必死で抑えつつ、努めてクールな表情をファウンドに向ける。
眩いほどの銀髪が朝日に照らされて眩しく輝いている。瞳の輝きは宝石のようだった。
一瞬、自分には釣り合わないのではないかと恐れてしまうが、僕の震えた手が、温もりに包みこまれる。
「慎んでお受けいたします、ご主人様。私は、誰よりもあなたの生活を優先し、これからこの世界で何が起きようとも共に生き、共に死ぬことを誓いましょう」
完璧な部屋のまっすぐで美しい黄金の眼差しは、僕の不安に支配されていた心を、一瞬で打ち消してくれた。
これから何があっても、この草原でのやり取りは僕たちにとって、かけがえのないものになるだろう。




