独房の部屋②
木の扉を開くと、そには洞窟のような構造をした一本道があった。
どうやらかなり奥まで続いていそうで、周りは岩肌が覆っているが、通路には転々と照明があり周囲はそれなりに見えた。しかし、滴り落ちる水の音が静かに響いてきて気味が悪い。
「なんで普通の校舎に紛れて、こんな場所があるんだろう?」
そういえば以前ファウンドは「ホールの地下に洞窟がある」と言ってたっけ? でも、地下に降りた感じはしないし、この場所とは関係なさそうだ。
「…………ま、まあまあな所ね。へ、平野? 怖かったら手を繋いであげなくもないわよ?」
「え? 大丈夫だよ」
僕はこの暗がりを特になんとも思っていないと素直にエランスに言う。最初にこの世界に来た時の真っ暗な洞窟と比べたらこの程度大したことはない。
……それに、僕の隣にはファウンドがいるから怖いものは何もない。
「……ふ、ふーん。あ、あとで後悔しても知らないわよ!」
なんだかよく分からないが、エランスはそっぽを向いて離れてしまった。と思ったら、すぐに僕の後ろに隠れてローブの袖を握りしめてくる。珍しく挙動不審だ。
「ご主人様。この空間には微量ですが、例のエネルギーがあります」
ファウンドは腕を前に出してぐるぐる回し始めた。どうやら、この空間には謎エネルギーがあるらしい。
「オッケー、ファウンド。根こそぎ吸い取っちゃって」
「かしこまりました。ご主人様」
ファウンドの現在の動力源になっている謎エネルギー。そういえば、この学術都市でその詳細を調べようとしていたな。でも、とりあえず優先すべき課題は部屋の家賃だ。
こちらの世界に来る前の預金残高的には、まだ家賃の支払いに余裕はあるはずだ。もうしばらくは緩くこの学校での生活を満喫していいだろう。ファウンドもそれを望んでいる。
僕はこれからの行動方針を心の中で整理して、隣で腕をぐるぐるさせているファウンドと、後ろでビクビクしているエランスを連れて、暗い洞窟を進んでいった。
――
しばらく三人で無言で歩いていると、遠くから何か話している声が聞こえてきた。震えてるローブの裾辺りから「きゃっ!」なんて可愛い声が聞こえたが、気のせいにしておこう。
「『錯乱魔法』!」
僕は念の為、錯乱魔法を使っておく。こんな不気味な場所での会話なんて、きっとロクなものではない。
僕はスリルを求め、隣にいるファウンドと後ろにいるエランスの手を引いて、ワクワクしながら先を急ぐ。
声が聞きとれてきたくらいのところで、僕達は一旦岩陰に隠れて身を潜める。
「……いい加減吐いたらどうだ。貴様と女神は、一体どういう関係なのだ! 天界への転送方法は、一体どういう原理なのだ!」
なんだか最近聞いたことのある声が響く。どこかで聞いた気がしなくもないが思い出せない。
「ちっ! 貴様はアルテミスで予言にあった転送者だろ! サンモータ以外の強力な勇者をせっかく『始まりの地』から捕らえたというのに、会話すらろくに出来なくては意味がないではないか!」
どうやら話してる男の方は誰かを尋問しているらしい。天界とか言ってるし、恐らく宗教の人だろう。
普段なら興味をなくして帰るところだが、こんないかにも隠された場所での会話の時点でスパイ気分になれて面白い。それに、尋問されてる側の反応がないことも気になる。
「魔王城から『魔造兵器を破壊した異質な勇者』がここを目指していると聞かされては、これ以上悠長に過ごせん。貴様の体力が尽き次第、すぐに洗脳魔法をかけて情報を洗いざらい吐かせてやる。それまではせいぜい、そこでじっとしてるんだな」
そう言い残して宗教の人は僕たちを通り過ぎて出口へと向かって行く。
「……ご主人様。通り過ぎた男から、バーバラスと同じ反応を感知しました。変装はしていますが、あれは魔族です」
「あー、やっぱりそうなのか」
僕は思わずため息をついてしまう。どうしてのんびり過ごそうとすると、宗教の人が厄介事を引き連れてくるのか。
尋問していた魔族が洞窟から出たことをファウンドに確認してもらい、僕は錯乱魔法を解除して独房で尋問されていた人の様子を見る。
「あのー、大丈夫ですか……?」
――それは、回っていた。
稚拙な表情になってしまうが、そうとしか言えない。恐らく人であろう頭を地面につけ、ヘッドスピンを永遠にしている。
例えるなら独楽だ。回転と言っても、普通のヘッドスピンなら姿な顔もそれなりに分かるのだろう。しかしその独楽は、手の補助すら使わないほどの激しいスピンをしていて、表情どころか体の輪郭すらぼやけていた。
「――、――」
ん? 回っている独楽が何か言った気がするが、回っているからよく聞こえなかった。
すると独楽は、どこからともなくスピーカーを取り出して、独房の端に置いた。
手を使って何かを地面に書いているようだが、線ばかりで意味が全くわからない。この世界の特有の表現かと思ってエランスを見るが、彼女は首を横振っているのでどうやら違うらしい。
僕たちが訳も分からず立ち尽くしていると、独楽はどこからともなく針を取り出して、彼の手と思われる部位で針を持った。
すると独楽は、持っている針を先ほど地面に作った線にそっと添えた。地面の傷に沿って動いていく針は、都度都度動いて振動している。それを感知したのか、先ほど独楽がおいたスピーカーから音が響き始めた。
『こんにちは、君たちは誰だい?』
…………独楽がしゃべった。




