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授業の部屋

 魔術学校に向かう途中の通学路で、僕はレーブンと友達になった。

 より一層仲を深めた僕たちはファウンドとエランスと合流して、魔術学校の教室へと入る。

 教室の中は大学の講義ホールみたいになっており、席は階段状に上へ連なり一番下の教壇に向かって扇形で並んでいる。最前席は教壇が目と鼻の先だった。


「じゃあ、僕はここら辺で……」


 僕が近くにあった教壇から最も離れた一番上の最後列端っこに座ろうとするが、エランスは僕の腕を引っ張って下に降り、最前席のど真ん中に座らせてくる。 

「授業はここで受けましょう。魔術学校の教育内容、とことん調べ尽くしてやろうじゃない!」


 エランスはものすごくやる気があるようだが、僕としてはこんな目立つところは嫌だったので、彼女に精一杯の抵抗としてジト目を向けておく。


 最前席はちょうど四席あり、僕とエランスが中央。僕の隣にレーブン、エランスの隣にファウンドが座っている。


「た、楽しみですね! 平野さん!」

「ああ……うん、そうだね……」


 最前席だというのに、レーブンは全く緊張していないようだ。もしかして、この子は僕のような陰キャじゃないのか?


 一応レーブンには通学途中に「さん付けはいらない」と言ったが、「いえ! 是非付けさせてください!」なんて言われた。年上ということで、一応敬ってくれているのだろう。


 周囲にはだんだんと、授業を受けにきた生徒たちが集まっている。後ろをチラリと見ると、レーブンのようなフサフサの毛並みをした獣人(ビースト)、コットたちのような翼人族(フリューゲル)、中には全身が機械で出来ている機械人(デウス・マキナ)の姿も見えた。


 以前の世界では決して座ることのなかった先生の視界にずっと入る逃げ場のない最前席。緊張して固まっていた僕を置きざりにして、授業は始まってしまった。


 教壇に上がったのは、胸元がはち切れそうなOLスーツを着てモノクルをつけた、見た目二十代後半のキャリアウーマンだった。

 頭の上にはとんがり帽子、背中には作り物のコウモリの羽みたいなものを二枚つけている。正直言って変質者だった。


「皆さん、ご機嫌よう。この魔術学校であなた達の指導をする『テラファネア・ルミナス』です。見ての通り、私は上位種であるエルフです」


 そういうとテラファネア先生はとんがり帽子を上にあげて、耳にかかった薄い桃色の髪をどかして、エルフ特有の尖った耳を見せてくる。顔立ちはいかにも仕事のできる人という雰囲気で、真っ直ぐに生徒達を見つめる緑の瞳は美しく輝いている。


「他種族の叡智の結晶であるこの魔術学校で、皆さんには更なる魔術の発展を目標に基本を歴史から忠実に学び、互いに切磋琢磨することを期待します。それでは、早速授業を始めていきます」


 ……見た目の癖は強いエルフだけど、ティオ婆よりはまともそうでひとまず安心した。



 ――



「この世界には、様々な魔法が存在します。魔法というのは、空気中に充満する『魔素』というエネルギーが元です。各々が持つ魔力を使い魔素を操作することで、『魔法』という特有の事象として発生します。魔力の強さは、その空間に魔法を発動させる個人の事象干渉力の高さで決まります。これは、鑑定石を用いることで測定可能です」


 ……うっすらとだが、今まで魔法が使えた原理がわかった気がする。


 どうやら空気の中に存在する魔素というやつが、僕の錯乱魔法を発動させているらしい。前に鑑定石で僕の魔力を見てもらった時は精神力以外最低値だと言われた。つまり、僕がファウンドとエランスに魔法をかけるので精一杯な今の状況が、魔法の最低ラインのようだ。


 カクレータ村全域に一人で錯乱魔法をかけてたテテュスさん達って、すごい魔力量だったんだな。


「……そして、この魔力の使い方には種族によって違いがある。現段階でこれを説明出来る者はいるかしら?」


 みんなが顔を見合わせて困惑する中、僕はテラファネア先生からずっとガン見されている気がした。教壇と間近ということもあり、テラファネア先生から漂う花々のいい香りが鼻口にまで届く。


 テラファネア先生が僕に何か言おうとした時、同時に隣の赤ペン先生の手が上がった。


「……ミスエランス。どうぞ」


 エランスは立ち上がり、演説するかのように語り始めた。


「この世界ダレーテルには、生物の頂点に七つの種族が存在します。そしていずれの種族も、魔素を用いて魔法を行使することができます。しかし、他種族の使う魔法を覚えることは出来ません。そのため、我々人間は『補助魔法』という一見すると地味な能力しか持ち得ないのです」


 エランスが最前席で堂々と直立して発言をしている。今更ながら、僕の部屋友は学校では委員長気質のようだ。


「……少し人間に偏っていますが、いいでしょう。()()私の求めた回答通りと言えます」


 ん? なんだかテラファネア先生はまだ不満そうな表情をしている。


「……先生。私の発言には、何か矛盾がありましたでしょうか? 我々七つの種族はそれぞれが異なる魔法を行使することしかできない結果、現在のような冷戦に近い状況に至っているという結論なのですが、何かご不満な点がありましたか?」


 エランスが食い気味にテラファネア先生に詰問している。これじゃあどっちが先生かわかったものではない。


「……あなたが考える種族間での争いの歴史には、同意見です。ですが……」


 テラファネア先生は、なぜか僕を見据えて真剣な表情になる。


「あなたの『生物の頂点』という発言は否定せざるを得ません。生物の頂点は! この世界で唯一無二の生物なのだから!」


 周りの生徒達がどよめく。「獣人であろう!」とか、「いいや、機械人だ!」とか、「やはり我ら翼人族だ!」とかいって姉にヨシヨシされてる弟とか、様々な意見が混ざり合っている。


 エランスはやれやれといった表情でテラファネア先生を見つめる。なにか思い当たる点があるらしい。


「まさか、『神竜教』というのはそこまで烏滸がましい教えなのですか? 女神の存在すら根本から否定しうる発言は、巫女として看過できません」


 エランスの発言は騒ついていたみんなを静寂で包む。その『神竜教』というのはなんだろうか? いや、宗教の香りがするから聞きたくない。


「……エランスさん。私たち神竜教の行動理念は、この世界で単独顕現する唯一の生物である竜、『主』こそが世界の創造主であることが教えの入門です。世界は『主』がいるからこそ存在し、我々は『生態系』という狭い領域の中で、主の創り上げた世界を守護しなければならないのです」


 なんだか長々と語り始めたテラファネア先生はいつの間にかティオ婆のような暗い濁った緑の瞳になっている。


 ……世界を創り上げた『主』ね。キントさんは街一つを創り上げていたが、もし先生の言うことが真実だとしたら、とてつもない労力がかかったに違いない。……宗教っぽいからあんまり信用してないけど。


「はあ……その教えは、根本的に世界の創造主である女神の存在を否定している。通りで、私たちが学術都市に来た時に異端扱いされたわけだわ……」


 呆れたようにやれやれと首を振るエランスは、机の荷物をまとめ始める。


「待ちなさい! まだ授業中ですよ!」

「もう結構です。あなたの授業には興味がありませんので、これで失礼します」


 そう言うとエランスは、一人で階段を登って教室から出て行ってしまった。まさかの委員長即グレルートになるとは。最初の授業から大波乱だな。


「……ちっ、これだから『偽りの神』の巫女は……本日の授業はここまでです。明日は外での実技訓練を行います。それぞれ校庭で動きやすい格好に着替えて、準備しておくように」


 テラファネア先生は苛ついたように教壇から降りる。まだほとんど授業していないのに、エランスと先生の退場で授業は終了した。


 後半の宗教っぽい話は何を言っていたのか分からなくて退屈だったから、中断してくれてよかった。帰りに学食でおやつでも食べてみよう。


 ……それに、勇者転送の実験をしている場所もそろそろ探さないと。


 僕はファウンドとレーブンを連れて、学食のスイーツを求めて走り出した。

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