閑話 豆まきの部屋
節分なので書きました!
時間軸は少し先です。
穏やかに雲が流れ、学術都市には今日も平和が訪れる。
「平和だね、ファウンド」
「はい。ご主人様」
桜も散り、この魔術学校もだんだんと暖かくなってきたものだ。
グラウンドの隅にある芝生の上で横になる僕は、季節の移り変わりを感じながら、横で紅茶の準備をするファウンドを眺め、あることを思い出した。
「そうだ。豆まきしよう」
――
「――で、なんで私たちが呼ばれるわけ?」
「当然、一人より二人、二人より大勢でした方が楽しいからだよ」
僕は学術都市にいる知り合いに片っ端から声をかけた。以前の世界の節分がいつ頃か分からないけど、とっくに過ぎてるに違いない。今からでも完璧な部屋に福を呼び込まなくては。
「へ、平野さんからのお誘いを、断るわけにはいきません! せ、精一杯頑張ります!」
狐耳をした赤みがかった黄褐色の毛並みをした獣人のレーブンは僕の誘いに賛同してくれる。エランスと違って、とても頼りになる可愛い子だ。
「平野頼来! こんな小さいのを部屋にばら撒くことに、なんの意味があるんだよ!」
「コット。平野さんがこれからお話になるわ。最後まで聞きましょう?」
白い天使のような羽を背中に持つ翼人族のコットは背中の羽を荒ぶらせ、姉のウールさんが優しく宥めている。
僕はファウンドからメガホンを受け取り、クラスの皆んなに届くような声で説明を始める。
「はい、みなさん。この豆まきという行事は、僕の以前いた世界で毎年行われていた伝統行事です。不思議な霊力が宿ると言われる豆を部屋の中で投げることで、部屋の性能テストを出来るという神イベントです。皆さんも、今年を安心して健やかに過ごせるよう、部屋の性能チェックも兼ねて豆まきに参加して欲しいと考え、ここにお呼びしました」
僕の説明である程度納得してくれたのか、クラスの皆んなは僕の言葉に耳を傾けてくれている。
「平野。その行事って、絶対に部屋の性能チェックじゃないと思うわ……」
「そんなことはないよ。これは毎年やらないといけない大事なんだから」
エランスは頭を悩ませながら僕のことを見ている。これは僕の前いた世界ではずっと続いていたもので、部屋を大切にするための立派な行事だ。
「とりあえず、この世界の宗教には一切関係ないから、皆んな思い思いに豆まきを楽しんでほしいな」
僕はファウンドに合図を送り、撒く為の豆をグラウンドに置く。『探索者』に残っていた豆の成分記録を使い、大量生産したものだ。クラス分あるので、ずいぶんな量になってしまった。
「全員豆を希望分持って行って、それぞれの部屋で豆を撒いて欲しい。……ああ、そうそう! 豆を撒く時『鬼は〜そと! 福は〜うち』って言ってね」
「おに……? 平野、その鬼というのは、どんな存在なの?」
エランスが疑問符を浮かべて僕に尋ねてくる。この世界には、鬼の伝説はないようだ。
「ええっと。僕のいた世界での魔族みたいなものだね。実際に存在した訳じゃないけど、災いを運んでくる存在と言われていて、豆で追い払って福を呼び込むんだ」
「そういうものなのね。まあ、平野が提案したにしては害はなさそうな催しだし、ひとまずやってみるわ」
エランスが豆を持って部屋に向かったことを皮切りに、クラスの皆んなは次々と豆まきに参加し始めた。
「こ、こんなに小さな粒の力で、部屋の邪気を払うなんて……やっぱり、へ、平野さんはかっこいいです!」
遠くにいるレーブンさんは少量の豆を掴み、何故か僕に尊敬の眼差しを向けて自身部屋に向かう。
「姉さん! こんだけあれば足りるか!?」
「……コット。あんまり無理しないでね」
ウールさんたち翼人族姉弟は、コットが背中の羽も使ってありったけの豆を抱えている。相当福を呼び込みたいようだ。
その後も、続々と参加者は増えて豆は無くなっていき、ついには僕たちの分だけになった。
「ふう。咄嗟の思いつきで始めたけど、まさかここまで皆んな乗り気になってくれるとは思わなかったな」
「ご主人様が、クラスの皆さんと親密になった証拠です」
僕が言って欲しい言葉をファウンドが即答してくれる。
「そっか……なんだかんだ皆んなとも仲良くなれたんだなあ」
どうやら僕は、思っていた以上にこの魔術学校のクラスに馴染んでいたらしい。入学前のトラウマを掘り返していた過去の自分にこの光景を見せてあげたい。
「……さて、それじゃあ僕たちも豆まきしようか」
「かしこまりました。ご主人様」
僕はファウンドのお腹の中から完璧な部屋に入り、豆まきの準備をする。
僕の部屋は殺風景なほど何もなく、和風モチーフなアパートの一室には、ベットと座敷用テーブル、座布団が一つあるだけだ。……他のものは全部、壁やベランダに格納してあるだけなんだけど。
「それじゃあ、始めるよファウンド。『鬼は〜そと! 福は〜うち!』」
クラスの皆んなにも配ったものと同じ大豆を手にして、僕は完璧な部屋に豆を放り投げる。
――しかし、放り投げた豆は地面にたどり着くことはなく、空中で焼き消えた。
「ご主人様。対小型兵器専用レーザービームの正常稼働を確認しました。ご主人様が不要と判断したものは、私が即刻排除します」
天井から聞こえるファウンドの声と呼応するように、天井から現れた十個ほどの小型レーザー砲が、可愛く揺れて動いている。
「うんうん。正常に動いてよかった。豆まきは、完璧な部屋の性能テストに丁度いいね」
僕は部屋のいたる空間に豆をばら撒き、空中で焼き消えるのを確認して満足する。
きっと、この行事を考えた先人たちも部屋のことを大事に思っていたに違いない。その思いは代々受け継がれて現代まで残り、こうして異世界にまで繋げることができた。
「ファウンド。僕は、これからも一生君を大事にしていくからね。いつもありがとう!」
「……嬉しいです。私も、ご主人様の願いに生涯を尽くして応えていきます」
天井から響くファウンドの返答が嬉しくて、僕は完璧な部屋で横になる。
――色々と不安なことはあるけど、これからの行動に迷いはない。
この世界でも、こうして畳の上で横になれているのはファウンドのおかげだ。だから、僕は家主として、ファウンドのことを必ず守り抜かなければならない。
クラスの皆んなが部屋に戻って豆まきをしている間、僕は完璧な部屋の中で束の間に思える時間を過ごした。




