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トラウマの部屋

 ……どうして、こんなことになっているのだろう。


 観光気分で学術都市にやって来たら、軍服の男達に銃を向けられ、モノレールから無理矢理降ろされ、背中から銃を突きつけられている。


「……ご主人様、排除しますか?」

「いや、だめだファウンド」


 僕はファウンドの意見を即否定する。確かに正当防衛シリーズはこういう時のために創ったけど、ファウンドには極力誰かを殺してほしくない。


「こちら『ナイン01』、対象者三名を確保。直ちに本部まで連行する」


 ……この人達は、何が目的なんだろう。モノレールで何か禁止事項でもあったのだろうか? 僕たちはトランプと着替え以外、大したことはしていないはずだけど。


「さて、お前たちには学術都市本部『アルテミス』まで来てもらうぞ。……その前に」


 先程通信していた軍隊の「ナインお椀」さんが僕の前に来る。何もしてないはずのモノレールで、何かしてしまっただろうか?


「……貴様、その服はどこで手に入れた?」


 真剣な表情のナインお椀さん。同性の僕から見ても美しく整った顔に迫られ、思わずたじろぎそうになる。


 ……でも、この人はセンスがいい。


「もちろん手作りさ。これをお披露目できるのを、ここに来るまでずっと楽しみにしていたんだ。全部『大富豪』のおかげだよ」


 僕の服の良さが分かるとは、ナインお椀さんはどうやら良き理解者だ。是非とも友達になりたい。


「大富豪……シヤベリ卿め、『神竜隊』を追加で招集したなら、連絡くらいしろというのに」


 ぶつぶつ言ってるナインお椀さんに、僕はなんとか「友達になりたいです」というアピールを送る。

 例え背中から銃を突きつけられていても、友達と親友が既にできた僕には、怖いものはないのだ!


「……よかろう。貴様達三人は異端者としてではなく、客人として迎え入れよう。……なんだその目は、気持ち悪い。はやく行け」


 僕たち三人は背中の銃を外される。ついでに僕の自信も外されてしまって、隣にいたファウンドの小さい肩によりかかった。



 ――



「平野! ファウンド様! 怪我はしていない!?」


 先に解放されて、駅の外にいたエランスと合流する。


「エランスも無事で良かった。それにしても、学術都市に来て早々物騒だね」


「ええ……警備が厳しいとは聞いていたけど、これはやりすぎよ。私たちを異端者扱いしていたのも気になるわ」


 エランスが「それに、神竜隊って……」とぶつぶつ独り言を呟いている間、僕は駅に出てからずっと気になっていた学園都市の街並みを眺めていた。


 僕は久々に都会を感じた。舗装された道路、自然を無理矢理加えたような樹木に、以前の世界にあった信号まである。


「……まさか、あれって車じゃないか?」


 始まりの地にはなかった文明の差に、思わず息を呑む。……少し以前の世界を思い出して辛い。


「勇者様の元の世界での知識を利用しているらしいわ。まだ一般の普及はしていないけど、ごく一部の富豪達は、みんなあれで移動しているのよ」


 考え事から帰ってきたエランスが僕に解説してくれる。

 ちなみに僕は、以前の世界では免許だけ持っていたが、肝心の車は持ってなかったペーパードライバーだ。

 車もそうだが、何よりも気になったのは……


「驚いた? 外から見えた『完全防壁』は内側から見ると景色の全てが透過されるのよ。だからここでは日の光と青空が見えるの。もちろん、ドーム自体は完全に遮断されてるから、ここで起こる雨や風には人工的なものしかないわ」


 モノレールから見えた大きなドームの中に本当にいるのか疑いたくなるくらい、天井には青空と白い雲が漂っていた。さすが、何種族もの知恵を集めただけある。


 ……いけない。以前の世界のトラウマのせいで呆けてしまったが、僕はファウンドの家賃を管理人さんに届けないといけないんだ。こんなところで立ち止まるわけにはいかない。


「エランス。例の勇者転送用の魔法陣を研究している所に早速行きたいんだけど、どうすればいい?」


 僕は努めてクールに、エランスに目的地を尋ねる。少しトラウマを思い出してしまったので、早めにここから出よう。


「そんなの、魔術学校に入学するに決まってるじゃない。」


 ………なん、だと………………???

 

 僕の以前の世界でのトラウマは、限界点に達した。友達0人の僕が生まれたきっかけである、三十半ばになった今でも忘れられないもの……


 ――

 

「……ご主人様。おはようございます」

「……おはよう。ファウンド」


 ファウンドにお姫様抱っこされているというのに、久々に最悪の寝起きだ。騒音撒き散らしてたティオ婆の時より酷い。まさかこの世界で、以前の世界でのトラウマを夢に見るとは思わなかった。


「寝てる間に着いたわよ、『魔術学校』に」


 エランスは回復し始めてきた僕のメンタルに追い打ちをかけて崩壊させる。


 学校の門が見える。きっとあの中には、日陰者には決して縁のない眩い世界があるのだろう。


「ほら、早く入学試験の受付に行きましょう」


 エランスが僕の手を引っ張り、魔術学校に連れて行こうとする。


「……いや、でも僕三十半ばだし、若者の知識の集いに参加するなんてありえないって」


 僕は自分の年齢を言い訳にして逃げることにした。家賃の支払方法は、別の方法を考えよう。


「何言ってるの? 学校は何歳でもいけるのよ? 本人に学ぶ意思があれば、誰でもね」


 ……こういう時だけ都合のいい展開はやめてほしい。僕がここにいたら、以前のストレスから禁断症状がでて、何をするか分からない。


「嫌だ……嫌だ……!」

「「学校なんて、絶対行かない!!」」


 心から出た叫びが全く同じ台詞で、高い声になって聞こえてくる。


「あ、あのっ! す、すみませんっ! 私、あなた方の会話をっ! じゃ、邪魔してしまいました!」


 僕の隣にいたサイズの合ってない服を着た子が既に土下座のポーズで地面に伏している。……何に謝られているのか、全く分からない。

 それにこの子、よく見たら頭に動物の耳のようなものが付いているし、お尻に小さい尾のようなものがある。


「……あ、あの、一体どうしたんですか? とりあえずこちらは全然怒っていないので、他の方の迷惑にならないためにも、こんな所で謝らなくていいですよ?」


 土下座のポーズのまま全く動かないその子は、学校の校門前で石のように固まっていたため、これから来る人たちの邪魔になりそうだった。


 とりあえずこの子の話を聞いてあげよう。……そうして話を有耶無耶にして学校から離れよう。


「は、はい。ありがとうごじゃいます……」


 ようやく顔を上げて立ち上がってくれたその子は、ファウンドより少し背が高く、サイズの合ってないぶかぶかの青いシャツのみで全身が覆われている。

 唯一見える足元は動物の毛で覆われていて、赤みがかった黄褐色の毛並みをしている。


 ようやく見れたその顔は、出張った黒い丸のような鼻が特徴的で、全体的に三角形な顔立ちだ。瞳に宿る空色は、この子の純粋な心を表しているようだ。僕は以前の世界にいた狐のような印象を受けた。


「初めまして、僕は平野頼来です。あなたは?」


 いい加減慣れてきた自己紹介をスムーズにこなしていく。友達百人のため、挨拶くらいはちゃんとしておきたい。


「わ、私はレーブン・アニマーです。……び、獣人(ビースト)です」


 恐る恐る答えてくれたレーブンさんは、手が出きっていない青い服の袖で口元を隠し、耳をぴょこぴょこして恥ずかしそうに頬を赤くしていた。

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