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駆ける部屋


――


 風が夜空を駆ける。ビルの乱立した学術都市に吹く風はその勢いを遮られ、隙間から更に威力を増して溢れ出す。

 どこに向かうのかすら分からない風は、ひたすら邪魔なビルの合間を縫っていく。


「邪魔っすよ、風さん達」


 風は一つの『紫の物体』に追い越される。

 風にとっては邪魔でしかないはずの『物体』から除け者にされたことは風にとって衝撃であり、屈辱だった。


 『紫の物体』に追いつこうとした風は、どれだけビルの合間を縫って空気圧を上げても、『紫の物体』に追いつくことはできなかった。


 風はついにビルを抜け切り霧散する。解放された喜びと、追いつけなかった屈辱を味わいながら、風は悔しさを含めた音を響かせ、大気へと溶け込んでいった。




 ――




「エランス、どうしてだ? どうして君は、僕を裏切ったんだ……!?」


「……平野。私はね、あなたが負けてくれた方が都合がいいの。ファウンド様。平野にトドメを」


「承知しました。……さようなら、ご主人様」


「ま、待て!やめろおおおお!!!」


 僕の悲痛な叫び虚しく、ファウンドはテーブルに二枚の紙を置く。

 描かれた二人の王の顔は、なんとも憎たらしかった。


「はい、平野の負け! これで都落ち。あなたが大貧民で、私たちの勝ちよ!」


 エランスは得意げにファウンドとハイタッチしている。……どうしてこうなってしまったのか。


 僕たちは、以前の世界にいる管理人さんに金貨を届けるため、学術都市で行われている実験に参加しようとしていた。これも全て、完璧な部屋の家賃滞納を阻止するためである。


 学術都市に向かうモノレールの中は暇だったので、ファウンドの中から取り出したトランプで遊んでいる。


「それじゃあ賭けの報酬よ! 平野、さっさと着替えて来なさい!」


 大貧民からの脱却で上機嫌なエランスは、ファウンドの魅力がわかる部屋友一号であり、僕の友達であり、赤ペン先生だ。


「……ご主人様。お願いします」


 手を合わせて懇願してくるのは、僕の完璧な部屋であるファウンドだ。何故か擬人化してしまったが、その完璧さは今でも健在だ。


「うーむ。絶対勝てると思ったんだけどなあ。仕方ない。この服は僕のオーダーメイドでもあるし、そろそろお披露目しちゃおうかな!」


 ただトランプをするだけなのも少しつまらなかったので、負けた人はファベルさんが作ってくれた衣装をこの場で着るという賭けをしていた。


 このモノレールは始まりの地から学術都市への一本道であり、途中で止まることはない。しかし、辿り着くまでに数時間かかるため、最低限の生活をここで出来るようになっている。そのためモノレールの中には、更衣室も存在する。


「それにしても、ファベルさんも気が利くわよね。私たちの衣装に加えて、平野の衣装まで専用で作ってくれたんだもの」

「ご主人様が考えた服。……とても興味があります」


 僕がモノレールにある更衣室で着替えている間、二人は雑談をしている。……それにしても、二人はいつの間にあんなに仲良くなったんだろう?


 二人の関係は最初は酷いものだった。ファウンドは機関銃を突きつけるし、エランスはずっと怯えていたし。それが、今ではこうして仲良くお喋りしている。


 ……幼い子達はすぐ仲良くなるっていうのは、本当のことかもしれない。


 僕は少し肌寒い半袖の黒い服に袖を通し、更衣室から出る。クールな僕に相性が良すぎて、思わず自分を褒めそうになる。


「さあ! 散々笑ってあげるわよ! へ、いや……」


「ご主人! さ、ま……」


 うん? なんだか反応が悪いな? 僕の完璧な服に惚れ惚れして、声も出せないのかな?


「……あなた、その真ん中で口を開けている竜は何?」


 エランスは僕の黒い服の中心で咆哮を上げる金の龍を指差す。

 この世界には西洋での伝説にあるドラゴンがいる。それならと思って、東洋の龍を選んでみたんだけど、どうやらエランスには伝わったらしい。ということは、本物の龍もこの世界の何処かにいるのかな?


「かっこいいでしょ? クールな内に秘めた獣って感じで! 龍の姿は、ファベルさんのイメージなんだよ!」


 僕が輝く視線を送るが、何故かエランスから目を逸らされる。何故だろうか?


「それに……なによその文字は。私が教えた文字とも違うし、なんかやたら尖ってるわね」


 今度は龍の下に書かれた謎の書体の謎の英語を指差す。クールさに秘めた獣に加え、知性を感じさせてくれる読めない英語は、僕の心を大きく揺さぶる!


 ちなみにまだ肌寒い季節にも関わらず服が半袖な理由は、龍と読めない英語を最大限目立たせるための僕からのアイデアだ。僕のオーダーメイドを忠実に再現してくれたファベルさんには、頭が上がらない。


「こんなのを、あのファベルさんに作らせたっていうの……」

「何を驚いているんだいエランス? 本番はこれからさ」


 僕はポケットに入れておいた金属を首にかける。缶バッジを作るために余ったスチールを利用して、ネックレスを作ったのだ。


 龍が剣の周りにとぐろを巻いているデザインが描かれたアクセサリーだ。とてもかっこいい。


「…………」


「…………素敵です。ご主人様」


「!?」


 そうだろう、そうだろう。さすが僕の完璧な部屋。以前の世界では理解されなかったこの服だが、どうやらこの世界なら通用しそうだ。


 僕は嬉しくなってきて、まだつけていないボロボロの手袋と、汚れた包帯を装備しようとしたが、その動きを友達から止められる。


「平野……もういい、もういいのよ……」


 先程までの盛り上がりはどこへいったのか、辺りには何故か静けさが漂っていた。


 

 ――

 


 ――まもなく、学術都市。学術都市に到着いたします。お忘れ物のないよう、お気をつけください。――


 モノレールのアナウンスから学術都市への到着を告げられる。窓の向こうを見ると、見えたのは大きなドームのようなものだった。学術都市は室内に存在するのだろうか?


「あのドームは完全防壁よ。魔族からの奇襲を防ぐために人間と機械人(デウス・マキナ)獣人(ビースト)、それに翼人族(フリューゲル)の共同作業で制作したものよ」

「あれ、種族間の争いしてるんじゃなかったっけ? 他種族も意外と協力的じゃない?」


 僕はこの世界にはキントさんやティオ婆のように、別の種族が人間と暮らしていることを理解していたが、バーバラスのように人間を滅ぼそうとする奴もいたことを思い出す。


「種族間の争いもあるけど、他種族から私たち人間に向けられるのは、一方的な軽蔑ね。他種族の使う魔法は、私たち人間を滅ぼせるけど、私たち人間は、多種族を攻撃する手段を持ち得ないから」


 荷物を下ろしながらエランスの話を聞く。


「でも、勇者様の登場で人間も交渉する力を持ち、他種族からの軽蔑の目もだいぶ減ったわ。あの完全防壁だって、勇者様たちの多種族への交渉の結果作られたものだもの」


 僕たちは荷物を下ろして再び椅子に座り直し、モノレールの停止を待つ。


「ただ、それでも私たち人間を蔑み続けている種族が上位種。エルフと魔族よ」


 ――学園都市。学園都市。終点です。――


 モノレールが止まり、扉が開く。

 

 しかし、立ちあがろうとした僕たちは、モノレールに乗って来た軍服を着た大勢の人たちに囲まれていた。


「伝令! 伝令! 異端者三名を確認! 直ちに本部へ連行する!」


四章始めました! 

これからも是非よろしくお願いします!

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