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感謝する部屋


 ――


 夢を見ていた。目の前にいるのは、黒髪の長い髪をした金色に光る目の女の子。

 最近何かと付き合いのある人種に、僕は同じ空間にいることに違和感を無くし始めていたが、不思議と彼女の前だと懐かしくて、ずっと一緒にいたいと何故か思えた。


「僕と一緒に暮らしてください」


 何を言っているんだろう僕は。僕には既に、ファウンドという存在がいるではないか。


 でも、言わないといけない気がした。


 一目見た瞬間に、言わなきゃいけないと思ったのだ。


「」

「」


 黒髪の女の子は何か言っている。靄がかかって、表情は見えないが、黄金の瞳だけは何かを訴えてるようにも見える。


 しかし、距離が離れている訳でもないのに、その声は決して僕には届かなかった。

 


 ――

 


「おはようございます。ご主人様」


 ファウンドの声が天井から聞こえる。僕はいつの間にか朝まで寝ていたらしい。


「おはよ……痛っ…………!」


 挨拶しようとして起き上がった僕を激痛が襲う。どうやら派手に転んだらしい。


「昨晩エランスが運んできてくれました。『数日平野の顔を見たくないので外出する』だそうです」


 ……あれ? もしかしてめっちゃ粗相した?


 たしかに昨日は展示会も終わって、目的も達成したから浮かれていた。きっと彼女の部屋への提案に、相当なダメ出しをしてしまったのだろう。

 それでも派手に転んだ僕を介抱してくれるのだからエランスは面倒見がいい。


「分かった。エランスには申し訳ないことをしてしまったみたいだね……」


 悔やんでも仕方ない。エランスが機嫌を直すまではそっとしておこう。


「……ファウンド、君は僕の最高の部屋だ」


 何か変な夢でも見たのだろうか? 当たり前のことを突然ファウンドに口走る。


「? 存じております。ご主人様」


 僕の完璧な部屋の温もりを感じて、とても嬉しくなった。



 ――



「あれだけの規模のステージを! 数日で創るとは! 平野君もなかなかやるではないか!」


 買い出しに出かけたファウンドと別れ、僕はギルドマスター室に行き、広場の使用許可をくれたキントさんを訪ねた。


「キントさんが追加の機材の作製と、広場を使わせてくれたお陰です。おかげであんなに大規模なステージを創れました」


 僕は改めてキントさんに感謝の意を示す。


「なあに! あの催しで! 街が賑やかになったのだ! いくらでもして欲しいくらいさ!」


 ハッハッハッ!と笑いながら去っていくキントさん。彼には今後もお世話になりそうだ。



 ――



「頼来! ()()のお陰で、宣伝は上手くいったようだね!」


 ギルドマスター室から出ると、氷の上を滑りながら自慢げにやって来たナシスト。彼にも大分お世話になった。


「お礼を言いに行こうとしてたんだ、僕の親友! 君がいてくれたから、冒険者のみんなも興味を持ってくれたんだ!」

「お安いご用さ! 僕は親友のためなら何だってするからね!」


 ナシストは氷を滑りながらギルドの階段を降りて行った。……どうやってるんだあれ?



 ――



「おかえり少年! お迎えのチューだよ!」

「大丈夫です。間に合ってます」


 再び地面とキスするティオ婆。悔しいが、彼女がいなければ展示会の成功はあり得なかった。


「ありがとうございました。ティオ婆のレッスンのお陰で、二人ともとても煌めいていました」


 僕は道路のレンガに顔から埋まったティオ婆に感謝の意を示す。


「いいのよ気にしないで。二人とも覚えが良かったし、アタシも教え甲斐があったわ」


 既に僕に抱きついてきていたティオ婆は僕を部屋へと引き込んだ。


「それにしても、お部屋。ずいぶんと綺麗になりましたね」


 ファウンド達に踊りを教えて欲しくて連れて来た時は、復活していた汚部屋に飽き飽きしたが、今では見る影もなく、酒瓶すら転がっていない、以前掃除した時よりも綺麗な状態になっていた。


「毎日ウチで練習してたから、エランスちゃんに部屋を掃除されちゃってさ〜。そのせいでアタシの財産はすっからかんなのよ」


 ……何がそのせいなのか分からないが、全く反省していないらしいことだけは分かった。


 しかし、部屋が綺麗なことはいいことだ。若干部屋が暗くてどんよりしてるのは気のせいだろう。


「ティオ婆はダンスで稼げると思いますよ。あの時のタップダンスは、今でも忘れられません」


 失神しかけた大騒音の中逃げ出さなかったのは、彼女のダンスがそれだけ魅力的だったからだ。その道でも十分やっていけるだろう。


「えへへ〜。そこまで言われると照れちゃうぜ〜。これも全部、旦須ちゃんのおかげだわ」


 座りながらクネクネしているティオ婆は、大人なお姉さんの見た目のせいで妙に色気があった、かもしれない。



 ――



「え? ファベルならとっくに鉱山に帰りましたよ? なんでも食材調達があるとかで」


 僕は一番の功労者である喫茶店のマスター、ファベルさんを探して、探鉱者さん達の宿に来ていた。しかし、肝心の人は既にこの地を後にしていた。


「ああ、でも手紙と荷物を預かってますよ」


 宿の入り口に立っていた男が手紙と衣服を三着差し出してくる。


 僕は手紙を受け取り、お礼を言って宿から去り、近くのベンチに腰掛けて手紙の内容を早速確認する。



 ――



 拝啓

  おだやかな小春日和が続いております。皆様には

 ますますご清祥のことと存じます。

  このたびは、勇者様御一行の舞台にお招きくださ

 り、まことに有り難うございました。勇者様御一行

 の民達へのお心遣いあふれるおもてなしに、感謝の

 気持ちでいっぱいでございます。衣装作りのお話を

 いただいた時には、とても緊張してお伺いいたしま

 したが、皆様が温かな笑顔でもてなしてくださった

 おかげで、少しずつほぐれていきました。

  この度のご厚情にお応えするために、道は違いま

 すが、皆様方との貴重な経験を糧として精進してい

 く所存でございます。

  これからも、勇者様御一行のますますのご発展を

 お祈りいたします。

  末筆ながら、ご自愛のほどお祈り申し上げます。

                      敬具



 ――



 手紙の最後には、書いた日付とファベルさんの名前、僕たちの名前が書かれていた。……それにしても。


「これ『日本語』だあ……」


 あまりにも整った日本語で書かれた手紙で、思わずびっくりした。一体ファベルさんは何者なのだろうか。



 ――



 お世話になった方々への挨拶巡りを終え、僕はギルドの受付に来ていた。


「ようこそ! 冒険者ギルドへ。新規の登録はこちらで承っております!」


 ファウンドの窓からでも聞こえて来た元気のある声の事務員。多分顔を忘れられているだろう。僕はその人に聞きたいことがあった。


「すみません、ずっと探しているものがあるんですけど、聞いていいですか?」

「はい! 依頼の受付もこちらで承っております」


 彼女は依頼書を取り出し、依頼を書く準備を始める。依頼金も払える今、僕に怖いものはない。


「お願いします……どうしても『ATM』が見つからないんです。このままじゃ、家賃が払えない……」


 僕は神に祈りを捧げながら、ギルドにATM捜索を依頼した。

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