表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
44/80

煌めく部屋

 日が沈み、辺りにある街灯が灯る。その中でも一際目立つステージは、多くの照明器具に照らされて、始まりの地の広場でその存在感を放っていた。


「僕様の親友である『悪魔の日を(アクマ・デイ・)終わらせる者(ジ・エンド)』の催しがもうすぐ始まるぞー! この僕様が見に行くのだから、君たちも見に来てよねー!」


「あれって、一流冒険者のナシスト様じゃない?」


「あいつが見に行くってんなら行ってみるか」


 冒険者は実力主義だということは、低ランクの依頼をこなして実感した。だからこそ、この街で魔族を退けた実績のある僕の親友の言葉は、とても注目を浴びた。



 ――



 会場の座席に、だんだんと街の人たちが集まる。

 黒いマントで体を覆う僕、それにファウンド、エランスの三人は、ステージの舞台裏で開演の準備をしていた。


「なになに……『ファウンドお披露目ライブ! 〜完璧な部屋の展示会場はこちらです〜』……色々言いたいけど、あなたいつの間にこんなの作ったのよ……」

「そりゃあエランスの『読み書きテスト』に合格してすぐだよ。エランスのお陰で、こうして自分の文字をみんなに伝えられて僕は今、すごく嬉しい」


 僕はずっと指導してくれた赤ペン先生であるエランスに感謝の意を示す。早く作ってしまい、広告にエランスの名前を入れられなかったことは許して欲しい。


 ちなみに紙の印刷は、ファウンドの中にあるコピー機を使った。紙自体はこの世界でも流通していたので、難なく手に入った。


「どうせファウンド様の力を借りたんでしょ……まあ誤字はないし、合格よ。少しはやるじゃない」


 長い赤髪をくるりと靡かせて背中を向けるエランス。明らかに照れているその姿に、思わず笑みを浮かべてしまう。


「……待たせたな勇者様方」


 ステージ舞台裏にやって来たのは喫茶店のマスター、ファベルさんだ。どうやら衣装が完成したらしい。


「お疲れ様です! 大分負担の大きい仕事を任せてしまい申し訳ありません」


 衣装はステージに上がる彼女たちの一番の武器だ。ファベルさんには相当の負担をかけてしまった。


「……なに、毎日見に来てくれた平野様と、途中から手伝いに来てくれたファウンド様のお陰で、難なく仕上がったさ」


 ファベルさんは持って来た二つの衣装を、マネキンに着させて持って来てくれた。


 その衣装は、白ベースに銀を加えたレディースワンピースだった。ファウンドの髪の色をモチーフにした造りで、中心にある銀色のリボンが、ファウンドのかわいさを強調してくれるだろう。スカートにはフリルをふんだんにつけて、踊れる範囲での装飾をしている。


 もう一つの衣装は、ファウンドの衣装とは別カラー版で、双子コーデというやつだ。ピンクベースの赤を加えたその配色は、エランスの強さと優しさをうまく表現していた。


「さ〜て、アンタたち! 今までアタシが教えた振り付け、か〜んぺきにこなすのよ!」


 珍しく熱血モードのティオ婆が衣装へ袖を通しているファウンドとエランスを鼓舞している。


「踊りは問題ないわ……でも、歌だけはどうにかならない?」

「今更何恥ずかしがってるの〜! アナタたちは〜、この世界に平和をもたらす存在なのよ〜! ちゃ〜んとこなしなさい!」

「こんな格好で踊るだけで、世界が平和になるわけないでしょ!」


 エランスは喫茶店のマスターが持って来た衣装を身に纏っている。いつも巫女服だったので、素足の見えるスカート姿は新鮮で目が離せない。


「……案外、本当に平和になるかもな」

「平野まで何言ってるのよ!?」


 僕は二人を見て思わず呟いてしまった。それだけ二人と衣装の相性が完璧だったからだ。髪をモチーフにした衣装なだけあり、瞳の色がとてもいいアクセントになっている。


「……とにかく、ここまで来たからには覚悟を決めるしかない。頑張って行っておいで」


「かしこまりました。ご主人様」


「……ああもう! こうなりゃヤケよ!」


 ――これより、第一回『ファウンド&エランスお披露目ライブ! 〜完璧な部屋の展示会場はこちらです〜』を開催いたします。


 暗闇の中照らされたステージからアナウンスが流れる。周りの喧騒は静まり、主役の登場をみんなが待ち望んでいた。


 僕はステージ裏で彼女達の背中を押す。一度やってみたかったんだよね、これ。



 ――



 ……なんでこうなったのかしら。私は女神の巫女だというのに。今は巫女服を脱いで、少し肌寒い衣装を身に纏っている。隣にいる勇者様も私と似たような格好をしているけれど、全く動じていないようだった。


「ファウンド様……私たちは、どこに向かっているのでしょう?」


 私は最近常々思っていた言葉が溢れ出す。


 神殿で毎日祈りを捧げていたあの日、ついに女神様からの予言を聞けたあの時の感動から何ヶ月か経ち、今は慣れ親しんだ始まりの地で謎の衣装を着て、謎のステージに立とうとしている。全く訳がわからない。


「…………私は、いつも孤独でした」


 返事を期待していたわけではない呟きに、目の前の美しい姿の勇者様が応えてくれた。


「やってくる人全てが私を拒絶しました。いくら期待しても、誰も頼ってくれなかった。……もう自分の存在意義を諦めかけていた時、ご主人様はやって来てくれました」


 そういうと、勇者様は私に向き直った。


「私は見たいのです。彼の見る景色を一緒に。そして、ご主人様はあなたにも、その景色を見て欲しいと思っています」


 勇者様は私に手を差し出す。出会った当初は恐ろしく不気味で、触れたら撃ち殺されそうだったその手。

 でも、今はその手が、不安な私の全てを優しく包んでくれる手に見えた。


「……分かりました、ファウンド様。あなたと平野が見る景色、女神の巫女であるこのエランス。どこまでもお供いたします」


 差し伸べられた手を握り返すエランス。そうだ。今までの困難な壁を、勇者様達は何事もなかったかのように跳ね返して来た。そんな彼らについていけなくて何が巫女だろうか。


 私はここで誓った。彼らが勇者として歩んでいく道に、この生涯をかけて付き従っていくことを……!



 

 ――



 

「みんなー!〔・:*+.\(( °ω° ))/.:+〕

 今日は展示会に来てくれてありがとー☆

 たくさん楽しんで行ってねー〔( ^_^)/~~~〕」


 

 『はーーい!!』


 

「ファ!? ファウンド様あ!?」

 

「あっれぇ〜?〔(・_・?)〕

 エランスちゃんどうしたの〜?(#^_^#)

 みんなが心配してるよ〜?\(~o~)/」


 

 『大丈夫〜〜??』


 

「……だ、大丈夫に決まってるじゃない!あんたたちに心配なんてされたくないっての!」


 

 『ごめんなさ〜〜い!』


 

「よ〜し!( ๑>ω•́ )۶

 エランスちゃんも元気になったし☆

 盛り上がっていこうね〜!٩(`・ω・´)و 」


 

 『うおおおおお!!!』



 ――



 会場から音楽の反響が響く。僕の音楽プレーヤーにあった曲のカラオケバージョンをいくつか作詞した後、ティオ婆先生に渡しただけでなので、こうして踊る二人を見るのは初めてだ。


 僕が見ていないところで頑張って来たであろう彼女達の努力が心を揺さぶり、思わず着ていた黒のマントを脱ぐ。


 そこから出て来たのは、無数のファウンドだった。

  


 ――時は少し遡り、二日前。


「ご主人様、『例のもの』が完成しました」

「おお! ありがとうファウンド!」


 ダンスの練習を終えたファウンドは僕の会場準備を補佐してくれている。エランスはティオ婆からの居残り特訓中だ。


 ファウンドが僕に平べったい円状の物体を差し出す。それは今回のイベントの金稼ぎ枠であり、鉄鉱石を加工してスチールにし、その上からファウンドとエランスの写真を貼りつけた推し活アイテム。

 以前の世界にいた人間達を、数多く奈落へと落とし込んだとされる、『缶バッジ』だ。



 ――



 僕が脱いだマントの下からは、無数のファウンドの顔が現れた。笑顔のファウンド、ウインクしてるファウンド、恥ずかしそうなファウンドが連続して全身に付けられている。どの表情も完璧だ。


 ちなみに缶バッジは、ファウンドとエランスでそれぞれ三種ずつあり、全六種類のランダムである。


 二人の名前は元からかなり有名だったので、ライブ応援用の缶バッジを宣伝すると、会場には沢山の人が購入しに来てくれた。

 街の子どもたちには無償でいくつか配っていたのだが、機材の材料費や土地の利用料がないので、実は既に金貨山積みのボロ儲けだったりする。缶バッジ、恐るべし。

 

 

 ――



「みんなー!٩( 'ω' )و

 盛り上がってるー?(ω・ )ゝ」


 

 『イェーーイ!』


 

「それじゃいくよ〜(๑و•̀ω•́)و✧

〈私はいつも迷子なの 私を見つけて〉」


 

 『ファウンドちゃーん!』


 

「……え? わ、わたし!? ええっと……

〈偉そうなんて言わないで ホントは寂しい〉」


 

 『エランスちゃーん!』


 

「平野あ! 後で覚えておきなさいよ!!」




 最高に煌めいている主役の二人を見て涙を流していた僕には、エランスの声は届かなかった。


 

 ――



 

 会場の熱気冷めやらぬ中、住宅展示会は幕を閉じた。終了後に押し寄せて来た追加のグッズ注文を捌き切り、僕はようやくホテルで一息ついた。


「お疲れ様ファウンド。最高のステージだったよ」


 住宅展示にはイベントはつきものだ。ファウンドの宣伝として、定期的にしてもいいだろう。


「お疲れ様でした。ご主人様」


 ファウンドは元のメイド服に着替え、僕に紅茶を手渡してくる。疲れを全く見せない彼女は、実に完璧だった。


 ――コン、コン、コン


 ドアからノックする音が聞こえた。こんな時間に一体誰だろう?


「…………平野頼来さん。少しお話しがあるので、私のお部屋までいらしてくださるかしら?」


 珍しく丁寧口調のエランスは僕を自室へと案内する。……もしかして、新しい部屋の着想が湧いたのかな!?


 なんだかんだ数ヶ月一緒に行動していたんだ。僕たちから学んだことも多いはずだし、住宅展示会も先導して頑張っていた。もしかしたらすごいアイデアを聞けるかもしれない。


 それに僕個人としても、今回の展示会の成功によって、『ファウンドを再び目立たせ、この街を賑やかにしてかつ、僕自身も稼ぐ方法』を成し遂げられた。


 当面の不安が払拭されて肩の荷が降りた僕は、意気揚々とエランスの意見を聞きにいくのだった。



 ……まあ、僕の完璧な部屋には及ばないだろうけどね!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ