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創る部屋

 キントさんとの話を終え迷いをなくした僕は、ホテルに戻り、これからすべきことに必要な材料の確認をしていた。


「ご主人様、お疲れ様でした」

「ありがとう、ファウンド」


 さりげなく紅茶を差し出してくるファウンドの気遣いが嬉しい。


「それで、平野はこれからどうするの? 魔族を倒したことで勇者の名誉は回復したし、目的は達成したんじゃない? ムッシュ・オーレなら私たちのために、学術都市への切符くらい用意してくれると思うけど」


 僕と同じく紅茶を嗜むエランスが、まるで全て終わったかのように告げてくる。


 学術都市は人間の最高機関のため、警備がかなり厳重なそうだ。この始まりの地から向かう方法は、途中下車できないモノレールのみで、その切符を手に入れるためには、ある程度身分のある方の証人が必要らしい。


「……まだこれからだよ。僕たちは、ここで一番大切なことをしないといけない」


 まだファウンドの家賃の件が解決していないじゃないか! ……ファウンドがいるから直接言えないけど。


「ふーん。それで、その書いてあるメモはなんなの?」


 エランスが僕の書いた材料リストを横から盗み見る。


「なになに……木材、照明、配線、音響設備、衣装……何これ?」


 僕の書いた字を読んだエランスは、意味不明な顔をする。ここ何週間かのエランス先生の指導のおかげで、この世界の文字の簡単な単語くらいなら書けるようになっていた。自分の成長が僅かだが嬉しくなる。


「……どうやら誤字ってわけではなさそうね。それ、一体何をするつもりなのよ」


 怪しんだ表情のエランスは、僕の持つ材料リストを眺める。


「言ったじゃないかエランス。『ファウンドを再び目立たせ、この街を賑やかにしてかつ、僕自身も稼ぐ方法』だよ」


 僕はリストの紙をひらひらさせて、ファウンドに材料リストを渡した。



 ――



「ほう! 始まりの地にある公共広場を! 何日か使いたいんだな!」


 初めに僕は、ギルドマスター室にいたキントさんに、見晴らしのいい広場を数日貸してくれるようお願いした。


「はい! それとキントさんに、このリストに書かれた機材の製作をお願いしたいのですが」


 僕は必要な機材の設計図と手順の書いた書類を渡す。エランスから教わった文字で、なんとか書き上げきったものだ。

 拙い部分もあるだろうが、彼のこれまでのインフラ整備してきた実績からして、僕の設計図の意図は容易に理解してくれるはずだ。


「いいだろう! 他ならぬ平野君のためだ! 広場を好きに使っていいぞ! 私のクリエイティブにも、期待してくれたまえ!」

「ありがとうございます! キントさん!」


 僕はキントさんに頭を下げて、感謝の意を伝えた。



 ――



「やあ、頼来! 僕様に用とは一体何かな?」


 次に声をかけたのは銀のスーツとレインボーのネクタイを靡かせる僕の親友ナシストだ。彼は以前と比べて、更に輝きが増している。


「始まりの地で一流冒険者として有名な君に、これを出来るだけ多くの人に配って欲しくて……頼めるかい?」


 僕はナシストにギルドの端に積まれた紙の束を見せる。


「お安いご用さ! 僕様の華麗な氷足の滑りで、皆を魅了してあげよう!」


 ナシストはバチンと重いウインクをして、山積みになった紙を取る。滑り出して行ったナシストには、早速ギルドの人々が集まっていた。


 このギルドは実力主義だ。仮に僕が紙を配っても、見向きすらされないだろう。これはここで名の知れたナシストにしか任せられないことだった。


 みんなからチヤホヤされている僕の頼れる親友は、いつにも増して輝いて見えた。



 ――



「待ってたわよ〜少年! ついにアタシの魅力に気づいちゃった〜!?」

「大丈夫です。間に合ってます」


 扉を開けた途端、抱きつこうとして来たティオ婆を避ける。


「ちょっと平野! こんなエルフの家になんで戻って来たのよ!」


 僕がファウンドを連れてティオ婆の所に向かうと言ったら、エランスも怒りながらついて来た。ファウンドの心配をするその優しさ、それでこそ部屋友第一号だ。


「仕方ないんだ。この街で一番得意そうなのが、彼女なんだから」


 僕は彼女を初めて見た時から、今回の計画に必ず必要な存在だと思っていた。中身はアレだけど、今の所他に候補がいない。


 地面とのキスを終えたティオ婆は、僕に後ろから抱きついてくる。相変わらず酒臭い。


「ツレないんだから〜。それじゃあ〜、アタシにナ・ニ・ヲ、して欲しいの?」


 僕の頬を指で突きながら、桜色の髪を僕の首元に擽らせて耳元で囁いてくるティオ婆。この復活している汚部屋がなければ、少しは緊張してたかもしれない。


「ファウンドに、ダンスの指導をして欲しいんだ」


「!? 平野! 何言ってるの!?」


 僕は最初の依頼でここに訪れ、部屋の騒音で後ろにぶっ倒れる直前に見た、ティオ婆の華麗なタップダンスに目を奪われた。彼女なら、人を惹きつける踊りをファウンドに教えてくれるだろう。


「いいわよ〜! アタシのダンスを〜! この子にミ〜ッチリ教えてア・ゲ・ル」


 ティオ婆は今度はファウンドを抱きしめる。節操ないなこのエルフ。


「私は反対よ平野! もしもファウンド様に何かあったら……!!」

「それじゃあ〜、アナタにもダンス教えちゃう〜!」


 ティオ婆はファウンドとエランスの腕を取り部屋へと引き込んでいく。


「あら……アナタ、面白いわね!」

「ちょっと待って! 私はダンスなんて教わらなくても!」


 ……なるほど、ソロよりデュオの方が盛り上がるか。


「ファウンドー! エランスー! ダンスを頑張って覚えてくるんだぞー!」


「かしこまりました。ご主人様」


「……後で覚えてなさいよ! へいやー!」


 エランスの断末魔を最後にティオ婆の部屋の扉が閉じる。さて、僕たちも準備に取り掛かるか。



 ――



 数日借りた広場には、ファウンドが用意してくれた切り倒した木から作られた木材、照らすための照明、配線器具、音響機材が区分けされていた。

 いずれも依頼で行った場所で、ちまちまと素材を見つけて回収してきたものから作った。


 それでも、僕たちだけだと機材の製作が間に合いそうになかったが、キントさんが作ってくれる追加の機材で十分足りるだろう。


 僕はメガホンをとり、集まった南の山の探鉱者さん達に向けて話す。


「えー、それでは皆さん。これから数日で、ステージの作成を行います。ご協力のほど、よろしくお願いします」


 洞窟から魔族が出現し、彼らはしばらく鉱山に近づけなかった。この始まりの地に何日か滞在する予定らしいので、試しに力仕事をお願いしてみたら、彼らはあっさり協力してくれた。


「勇者様のために粉骨砕身働きますぞおお!」


「うおおお! 暇つぶしにはちょうどいいぜええ!」


「この上腕二頭筋が久しぶりに負荷を欲している!」


「宝石を掘れないなら……宝石を作るってなあ!」


 ……なんだかやたらと探鉱者さん達の元気がいい。みんなそこまで元気な奴らではないって鉱山にあった喫茶店のマスターから聞いてたんだけどな?


「ファベルさん。聞いてた探鉱者さん達の印象と大分違うんですけど……?」


 僕は隣にいる喫茶店のマスター、ファベルさんに話しかける。彼も探鉱者さん達がここにいるため、喫茶店を休業中だ。


「ふん……大方魔族がなにかしていたんだろう。……こんなこと、魔族を倒した『悪魔の日を(アクマ・デイ・)終わらせる者(ジ・エンド)』に言うほどでもないがな」


 ああ、みんな宗教の人の勧誘に当てられちゃってたのか。当てられすぎて、ファベルさんまでキントさんのように、僕のことを物騒な名前で呼んでるし。


「それで、ファベルさんには例の衣装作りを二人分お願いしたいんですが……よろしいですか?」


 僕は裁縫があまり得意ではないので、衣装作りが出来る人を募ったところ、丁度ファベルさんが以前服屋を営んでいたそうなので、是非ともお願いする。


「……任せな。あの時同行していたお二方分の衣装を、この依頼書通りに作ればいいんだな?」

「はい。よろしくお願いします!」


 僕はファベルさんに感謝を込めたお辞儀をする。二人の衣装の完成が楽しみだ。

 

 ――これは、僕がこの世界で初めて『創る』ものだ。お披露目するのは少し緊張するが、みんなから背中を押してもらったからには、気を引き締めていこう。

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