決意する部屋
「……それでこれが、その魔族が使おうとした装置なの?」
燃え尽きた何かの装置だったものを訝しげに見るエランス。
僕はエランスに、バーバラスによく似た通り魔が襲いかかって来たことを告げた。ファウンドの監視カメラにも映像は残っていたので、エランスも僕たちの行いを正当防衛として、すんなり受け入れてくれた。
「それにしても、相変わらずあなた達は規格外ね。魔族がこうも一方的にやられるだなんて」
エランスはやれやれといった表情で僕たちを見てくる。ファウンドはともかく、僕は魔族の爪を切って峰打ちしまくってただけで、自己防衛の延長みたいなものだ。……ファウンドを侮辱されて切り刻みに行こうとしかけたことは確かだけどさ。
「とりあえずこの装置は、ギルドマスターのオーレ氏に渡しましょう。彼なら、この装置が何か分かるかもしれない」
キント・オーレさんは、僕たちが所属している始まりの地のギルドマスターであり、機械人だ。あの筋骨隆々の金色のボディに、眉毛のつながった黒いサングラス姿は、今でも目に焼き付いている。
「そういえばキントさんて、前にギルドで鑑定石のことを『クリエイティブ』って言ってたけど、あれは彼が作ったものなの?」
エランスが破壊された装置を調べている間暇だったので、僕は以前から気になっていたギルドマスターについて尋ねた。
「そうよ。あのギルドだって彼が一から創り上げたもので、もし荒くれ者の冒険者が事務員に粗相をしたら、迎撃システムが作動して、冒険者を焼くわ」
……何そのおっかない施設。めっちゃかっこいい。
「他にも、彼は始まりの地で様々なインフラを創り上げてきた功労者よ。川の整備とか、街路路の舗装、街灯の設置とかもそう。その功績は計り知れないわ」
なんということだ。あんな大きなギルドだけでなく、あの街自体、キントさんによる魔改造で成り立っていたというのか……!
「…………エランス。その装置、キントさんの所に持っていくんだよね? 僕も一緒に連れて行ってくれないかな」
僕はどうしても聞かなくてはならなかった。何が彼をそこまでの頂へと登り詰めさせたのか。ギルドという一室で満足せず、そこからさらに街全てに手を伸ばしたわけを……!
「え? ……あなたが魔族討伐を達成したんだから別に構わないけど、……変なことしないでよ?」
相変わらずジト目で僕のことを見てくるエランス。安心して欲しい。今回は話を聞くだけだから。
僕の考えを読んだのか、ファウンドは僕の黒い服の端を摘む。
「……ご主人様。私ではお役に立てていませんか?」
涙を溢れさせそうな黄金の瞳は、まるで捨てられた子犬のような表情をしている。
「……ファウンド。君がいなかったら、僕は洞窟の暗闇の中で熊に襲われて死んでいるんだ。僕の命は、君と共にあるよ。少しキントさんの創る理由に興味が出ただけだ」
銀の長髪を撫でて、ファウンドの誤解を解く。涙目の彼女は満足してくれたのか、ニコリと優しく微笑んでいる。
「……もういいかしら? そろそろ洞窟から出たいんだけど?」
装置を調べ終わったエランスは、呆れた様子でこちらを眺めていた。
――
「ほう! 魔族が鉱山に潜伏していたのは! どうやら本当のようだな!」
壊れた装置を荷車で運んでギルドに引き渡した僕たちは、早速ギルドマスターであるキントさんと魔族出現の話をした。
「そうなのです。そこでムッシュ・オーレには、私たちが運んできた装置の解析をお願いしたいのです」
丁寧な口調でキントさんに説明するエランスは歳を偽ってるんじゃないかと思うくらい大人びていた。
「いいだろう! 魔族の企み! この私が解明してみせようではないか!」
宣言してソファから立ち上がるキントさん。僕の倍はある大きな体で立ち上がり、座っている僕は気圧されてしまう。
……しかし、今回ばかりは引き下がれない。
「あ、あのー……オ、オーレ、さん? 少しお話しを聞いてもいいですか?」
キントさんに比べたらか細い僕の声は届いたからすら怪しいが、しっかり僕の声を聞いたらしいキントさんが立ち上がりながら僕の方を向く。
「平野君! 魔族の爪すらものともしない! 全てを斬り裂く剣戟! 実に見事だった! さすが巷で悪魔の日を終わらせる者と言われているだけある! 実力を隠しているのは! 何か理由があるんだな!」
ファウンドの監視カメラに映っていた映像を見たキントさんが、僕を絶賛してくる。……いや、実力なんて隠してないです。というかその物騒な名前なんですか?
カクレータ村でも宗教の人の爪を切った話をすると、みんな驚いていた。僕って爪切る才能があるのかな?
「すみません、ムッシュ・オーレ。彼は全てを語ることを嫌がります。どうか詮索はしないで頂きたいです」
ソファから降りてキントさんに跪くエランス。
……いや、だから何も秘密にしてないってば。
とにかく、僕がここにいる理由を、キントさんに言わないと。
「……あなたに、どうしても聞きたいことがあるんです」
キントさんとエランスは僕の声を聞くと、神妙な顔でソファに座り直す。対面のキントさんの金ピカな顔が正面を向き、つながった眉毛とサングラスが間近にきて笑いかけるのを堪える。
「どうしてあなたは、ギルドを設立したのですか? そして、この街をこんなにも発展させたのですか?」
僕が聞きたかった質問に、キントさんは声の音量を下げて語ってくれた。
「……ここは昔、小さい人間の村があってね。魔族の襲撃から命辛々逃れた我々機械人は、『神の壁』を越えて、この地を無理矢理占領してしまった。彼らの苦労など知る由もなくね」
天井を仰ぎ見る彼は、昔の話をぽつぽつと語っている。
「機械人は創作を得意とする。自分たちの種族を守るために、この地を機械人が住みやすい街に変えていた。……だが、魔族はこの地にすらやってきたのだ。そんな時にこの地に現れたのが、人間の勇敢な勇者だった。君のようなね」
僕を見つめるキントさんの目がサングラス越しから伝わる。
「私たちは魔族の脅威を退けた勇者を讃えた。勇者は私たちに告げた『人間と共存して欲しい』と」
懐かしむような表情の彼には懺悔と後悔の念を感じた。
「あの時の私たちは魔族から逃げるのに必死で、何も見えていなかった。贖罪、という言い方しかできないが、人間の勇者に助けられた私たちは各地に散らばり、人間のために生きると決めた。そのきっかけとなった地こそ、この『始まりの地』だ」
キントさんはサングラス越しでも分かる熱い眼差しをこちらに向けていた。
「私たちはやってくる勇者を、そして何よりも、この世界に生きる人間を守るために生きる。それが、あの時人間の住処を奪った挙句に、無様に死んでいたはずの我々が出来る、最大限の罪の清算と結論だ」
……なるほど、罪を背負い、恩人に報いたいという意志を持ったからこそ、この街の発展に大きく貢献してこれたのか。
「……僕では、とてもできそうにありません」
一つの部屋を完璧にすることを追求して創り上げてきた僕と異なり、彼は誰かから期待されて、罪を背負いながらも創り上げて来たのだ。同じ『創る』でも重みが違う。
「……いいや、平野頼来。君は既にできている。その力を、誰かのために使いこなせているではないか!」
キントさんは僕の落ち込む姿を叱咤する。
「そうよ、平野。確かにあなたは勝手だし、何を言ってるのか分からない時はあるけど、その力で、カクレータ村のみんなを守ったじゃない」
……そうだ。当初の僕はファウンドを自慢したくてカクレータ村のみんなにお披露目していたけど、何故か結果的に感謝されていた。なんだかエランスの言い方に棘がある気がするけど。
「……君はそのままでいいんだ。その力を磨き上げていけば、みんなから慕われる素晴らしい存在になるだろう」
優しい口調で言ってくるキントさん。
……つまり、友達百人も夢ではないってことか!?
僕の完璧な部屋を更に磨き上げたら友達が増えるなんて、そんな都合のいいことがあっていいのだろうか!?
しかし、キントさんとエランスの僕を見る目に嘘偽りはない。なんなら期待しているような視線すら感じる。
「……分かりました。僕は自分の夢に向かって進み続けます! もう迷いません!」
正直、街を丸ごと魔改造したキントさんに劣等感が無いわけではなかった。
でも、そのキントさんからそのままでいいと背中を押されては、ファウンドの更なる完璧な部屋への追求を続けるしかない。何よりも僕が、それを望んでいる。
……友達百人、出来るかな?
何故だか分からないが涙を拭くエランスは、静かに紙を取り出して、丁寧な字を綴っていくのだった。




