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採取する部屋②


「ファウンド! その依頼にしよう!」

「かしこまりました。ご主人様」

 

 ファウンドの中にいる僕が窓越しに選んだ依頼書を手に取り、ギルドの受付員へと渡すファウンド。


 ナシストと親友になって数日が経ち、目的のために必要な材料はある程度揃って来たので、あとは肝心の稼ぐための材料を探すだけだった。


「来たわね。今度はどんな依頼なの?」


 ギルドの入り口にいたエランスと合流する。エランスは刃こぼれした二本の小刀を修繕し、鍛冶屋から受け取りに向かっていた。


「次は、前登った南の山にある鉱山での依頼だよ。なんでも、洞窟の中の生物が活性化していて、鉱物を採れないらしい」


 ……もっとも、僕はその鉱物目当てなんだけど。


「ふーん……言っとくけど、希少な鉱物は採ったらダメよ? ギルドは盗人集団じゃないんだから」


 僕の友達は、最近僕の考えを読むのが上手くなっている。流石は僕の赤ペン先生なだけある。


「分かってるよ。希少じゃない鉱物を少しだけ拝借するだけさ」


 この街での暮らしで、金属の価値は以前の世界とほとんど一緒なことは分かっているので、問題はないはずだ。




 ――




 ……もうすぐ、もうすぐだ。あの始まりの地に、人間共の悲鳴が鳴り響くのは。

 南の山鉱山の洞窟。その最深部で、魔族のナーナラスは密かに計画の準備を完了しようとしていた。


「ククク、『勇者が出現する始まりの地で勇者を捕らえ、女神の情報を引き出せ』。魔王城からの依頼は全て順調に進んだな。バーバラスが失踪し、氷足の勇者からの妨害はあったが、ようやく目的を達成できる」


 始まりの地は、勇者が最も多く誕生する土地だ。これまでも魔族に仇なす勇者は、数多くこの地から転送されている。


「魔王様から賜ったこの魔造兵器『スズメノテッポウ』があれば、始まりの地にいる勇者共など、恐るるに足らず」


 スズメノテッポウはこの鉱山の洞窟そのものだ。ここで採掘をする探鉱者から、少しずつ生贄となる生命力を奪い、秘密裏に起動の準備をしてきた。


 ナーナラスは慎重だった。慎重すぎるゆえ、同じ任務を賜ったはずのバーバラスは、私めを見限ったのか任務前に失踪。本来賜るはずだった「スズメノチャヒキ」もどこかへ消えてしまった。


 トラブルこそ多かったが、代替品である「スズメノテッポウ」はここまで誰にも気づかれることなく起動可能となった。


 あとは魔造兵器を起動してこの鉱山ごと砕き、始まりの地を消し去るだけだ。しかし、勇者は丈夫だ。その程度では死ぬまい。火に焼かれて出て来たところをこの爪で抉り、魔王城へ連れて帰るのだ。


 私めの何年にも及ぶ魔造兵器の中での滞在。ようやくこの苦労が報われる時が来たのだ!


「さあ、起動しろ! 『スズメノテッポウ』! 魔王様から承りし力、とくと見せるがいい!」


 洞窟にナーナラスの声が響き渡る。振動する私めの声は、何度もこだまして返ってくる。


 ……しかし何も起こらない。


「どうなっている!? 起動には十分なほどの生命エネルギーを集めたはずだ! ……まさか、エネルギー変換機能の故障か?」


 私めはエネルギー変換装置のある洞窟の中心部まで即座に移動し、エネルギーメーターを確認する。


「どういうことだ!? 変換されたエネルギーが、洞窟内に充満していないではないか!」


 ナーナラスはエネルギー変換装置のメーターが洞窟の入り口に向かうほど小さくなっているのを確認した。……一体入り口付近で、何が起こっている!?


 私めが入り口に向かおうとした時、正面から奇妙な二人組がやって来た。


 一人は白黒の奇妙なドレスを着た銀髪の人間の幼子。こんな鉱山に来れるはずもないような華奢な身体で、腕をぐるぐる回転させてはしゃいでいる。


 もう一人は全身黒服で痩せこけた、三十半ばくらいの人間の男だ。こちらもこんな場所で働くに相応しくない、やる気のない身体をしている。


「この魔造兵器の中で遠足気分とは……人間にもずいぶんと舐められたものですねえ!」


 ……この時、私めは気づくべきだった。入り口のエネルギーがなぜなくなっていたのか、どうして生命力を徐々に吸うこの洞窟で、あまりにも弱そうな二人組が元気に歩いているのかを……




 ――




「それにしてもよかったね、ファウンド。こんなところに謎エネルギーがあって」

「はい。以前回収したエネルギーは全く減っていませんが、『取れるものは根こそぎ取る』。ご主人様のお言葉に倣います」


 鉱山で鉱石探しをしていたら、いつの間にかファウンドが腕をぐるぐるしていた。どうやら謎エネルギーは、洞窟に多いらしい。


「あなた達! 真面目に依頼こなしなさいよ!」


 エランスは遠くで大量発生した生物達を駆除していた。こんな鉱山で、よくあんなに生物が繁殖するものだ。


「ごめーん! もうちょっと頑張ってー!」


 僕はファウンドのお腹からピッケルを取り出して、ひたすら鉱石を探していた。


 金貨の価値が一番高いことからも、金属の希少価値は以前の世界とそこまで変わらないだろう。この鉱山には何種類もの金属が存在することは事前に調べていたので、目的の鉱石はすぐ見つけ出せるはずだ。


「お! これかな?」


 僕は目当てと思われる石を拾い上げる。以前の世界で最も多かった金属の元、『鉄鉱石』だ。

 僕は周辺をくまなく探してさらに鉄鉱石を掘り出す。なかなかの収穫だ。これだけあれば十分だろう。


「ご主人様、洞窟奥に奇妙な物体があります。確認しますか?」


 ファウンドが腕をぐるぐるしながら僕に尋ねてくる。こんな暗い中でも遠くまで見える僕の部屋は、やはり完璧だ。


「探鉱者さん達の忘れ物かな? とりあえず行ってみよう」


 ファウンドに鉄鉱石を預け、僕とファウンドはエランスをおいて、洞窟のさらに奥へと進んでいった。


「ちょっと! どこいくのよ!」



 ――



 洞窟の奥は探鉱者さん達が毎日仕事をしていたとは思えないほど妙に綺麗だった。まるで、最初からここは空洞だったみたいで、少し違和感がある。

 奥に見える奇妙な物体はスーパーコンピュータのような形で、何やら怪しげなメーターが見える。


「……ご主人様。正面より飛来してくる生物がいます。おそらく、バーバラスと同じ存在かと」

「えー……ってことは宗教の人かな?」


 僕はため息をつきながらファウンドから振動剣を受け取る。飛来して来たのは確かに、以前の口が裂けていたバーバラスによく似ていた。


「死ねえ! 劣等種族どもがあ!」


 勢いよく振りかざされた爪を振動剣でいなす。……この人も爪長いな。


「大丈夫です。間に合ってます」


 僕は振動剣で爪を受け流しながら、僕たちに勧誘は無駄だということをきちんと伝える。……まあそれも無駄なんだろうけど。


「ふざけるな! 神をも殺す魔造兵器の中で、貴様らのような人間共の中でも()()()のような存在がいてたまるかあ!」


「……は?」


 僕は振動剣のスイッチを入れて魔族の爪を切り刻む。


「な、なんだと…………!? 私の爪が、全て切られた?」

「……僕はゴミ屑かもしれないけど、僕の完璧な部屋をゴミ屑呼ばわりしたことは、万死に値するよ?」


 僕は魔族の身体を切り刻んでいく。魔族は何か変な構えをしようとしているが、その間斬ってくれと言わんばかりに隙だらけだ。


「くっ、洗脳魔法を発動する時間すら与えられないとは……仕方ない。奥の手を使うしか……!」


 魔族は大きく後方に飛び、ファウンドが発見した奇妙な物体に触れる。


「フフフ……ハハハ! 私めがこの洞窟と一体になれば、貴様らなどすぐに捻り潰せるわ! さっさと死ねい!」


 またこのパターンか……もうそれ見たんだよ。めっちゃキモイの。


 僕が呆れてやる気すら失った後ろで、ファウンドは銀髪を揺らし、一つの砲身を構えていた。どうやら彼女の方はまだ怒りが収まらないらしい。


 それは、高エネルギーの光を発生させ、レンズを用いて集束し、一筋の光の束にするファウンドの自己防衛シリーズの一つ。『レーザー収束砲』だ。


 ……もしこのまま宗教の人が洞窟と合体したら、ここで働く探鉱者さん達に迷惑がかかる。他所から来た頭のおかしいやつに職場を荒らされるのは、仕事において一番の妨害なのだ。相変わらず和解もできそうにないし、さっさと殺そう。


「……ファウンド、やっておしまい」

「かしこまりました。『異界レーザー収束砲』発射します」


 ファウンドが告げた言葉とともに、レーザー収束砲を放つ。


 周りに遮蔽物となりそうなものはなく、洞窟内の澄んだ空気はすんなりとレーザー光線を受け入れ、目標に一直線に向かう。

 レーザー光線の進行を妨げた装置と魔族は、その光の持つ全ての熱量を内部に強制的に取り込む。


「馬鹿な!? こんな、劣等種族どもにいいい!!」


 なんだか前にも聞いたことあるような断末魔をあげて、魔族が焼き消える。隣にあった装置も、レーザー光線の熱量に耐えきれずに、内部から破裂していた。


「全く、宗教の人はいつも難癖をつけてくるから嫌なんだ」


 僕は燃え上がる火を眺めながら、つい愚痴を呟いてしまった。

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