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擬人化した部屋

「本当にこの部屋にするの?」


 404号室。その部屋は、今まで誰も暮らしたことのない一室らしかった。

 契約直前までいったことは何度もあったらしいが、ある人は別の部屋に、ある人は一軒家を買うことを急に決め、ある人は部屋を持つこと自体をやめたらしい。


 この部屋の設備に不備があるわけでもない。だが誰もいない。


 誰も住まないならと壊すにしても、アパートの真ん中にあるため壊すに壊せず、この部屋は創られてから一日も誰も住んだことはなく、今に至る。


 ――まるで、誰かが部屋へ侵入することを

           拒んでいるかのように――



「うん。ここがいい」



 この時の僕は、そのアパートが誰も住んだことのない部屋だと知らなかった。


 でも、僕は不思議とその部屋が自分にそっくりだと思った。

 今まで波風立てず愛想良くして、相手の困ってることを察して助けて、感謝されるのにそこで終わり。いつの間にか誰もいなくなってる。


 その孤独を、ほぼ満室のアパートの空白に感じた。ただそれだけ。

 人生を棒に振るような生活をしてきた自分にとって、これからの人生なんて価値がなかった。部屋なんてどこでもいい。テキトーに生きて、雑に余生を送れれば。



――



「……あれ? 寝てた」


 ……ものすごく長い間夢を見てた気がする。夢で見た最高の部屋を見つけたきっかけは、思い返すと情けないが、でも誇らしい。


 今となっては大事な思い出の一つだ。その前に変な信者に拉致された夢も見ていた気がするけど、内容がほとんど抜けている。まあ、夢なんてそんなものだろう。

 それよりも、完成まで辿り着いた我が城だ! 朝日に照らされた我が城はとても心地の良い朝を招いてくれるはずだと起きあがろうとするが、明らかな周囲の異常に気づいた。


「おかしい、何も見えない」


 朝日どころか夜の月明かりすらない空間に、自分の声が響いている。目を開いてるのかすら怪しくなるほどの暗闇はなかなか経験がない。


 それになんだか普段寝てるベットとは明らかに違う沈み込みの無さ。まるで石の上で寝てるみたいだ。


(いや、これ本当に石じゃないか?)


「お目覚めですか? ご主人様」


 唯一今までと変化がなかった枕に安心しきっていた僕の上から、安心感のあるその声は聞こえてくる。真っ暗で当然姿は見えない。


「おはよう。突然で申し訳ないんだけど、君は誰?」


 僕は大きな声はだせるが、会話が得意ではない。でも、なぜかこの声の主はどこか親しみがあり、何も繕わずに会話できる安心感があった。


「私は404号室。あなたの部屋です」


 ……そういえば部屋に音声認識機能を搭載していたな。


 僕の完璧な部屋はいつでも僕の声を認識して必要に応じた受け答えをするようになっている。普段会話をしない僕からしたらつけて良かった機能の一つだ。


(でも、部屋の方から挨拶してきたよな?)


 とりあえず部屋の音声認識機能が残っていたのはありがたい。まずは日差しすらないこの真っ暗な空間をどうにかしよう。


「そうだった。それじゃあ404、電気をつけてくれ」


 ふかふかの枕の上でリラックスした僕は、とりあえず灯りを求めるが反応がない。照明の寿命だろうか?


 ……早めに交換しておけば良かった。例え完璧な部屋でも、主人がこれじゃ意味がない。


 なら、とりあえず現状確認だ。何も見えない真っ暗闇の中、横になりながら部屋に質問していくことにした。


「真っ暗闇で何も見えないけど何かあった? あと、なんだか今日はベットが硬いね」


 深夜に起きることはよくあったが、ここまで光がないことはありえない。それに、冷静になって気づいたが妙に声が響く。


「申し訳ございません。録画映像へアクセスし、何が起きたのか調べましたが、詳しくは分かりませんでした」


 この部屋には不法侵入者対策として監視カメラが死角なしで置いてある。音声認識機能との併用で、気になる事柄を調べるときにうってつけの機能だ。

 だがその機能を持ってしても、この暗闇は何が起きたか分からないらしい。一体どういうことなんだ?


「ご主人様、ご質問のベットが硬いことに関しては、横になっているお身体がベットではなく、石の上にあるからだと思われます」


 なるほど。どおりで硬いし、冷たいし、寝心地が悪いわけだ。


「いや、そんなわけなくない!?」


 改めて床と思われる場所を手探りで探索していく。手から伝わってくるのはどう考えても石の感触でしかなく、音声の判断が正しいことを証明してくれる。


 普段の枕があったからさほど気にならなかったけど、頭以外は石の上で寝ていたらしい。

 

 それにしてもよく声が響くな。まるで何もない広い空間にいるみたいだ。


「何はともあれ、周囲の状況を確認しないと」


 せっかく完成した部屋がおかしくなってしまった原因は後々調べるとして、とりあえず部屋の状況を手探りで調べていこう。


 これからの方針を決めた僕が起きあがろうとしたところで、音声認識から反応があった。


「……ご主人様。周囲に敵影を察知しました。排除してもよろしいでしょうか?」


 ――まさか緊急の防衛機能が発動するとは。


 僕の部屋は侵入者の監視と迎撃をできるようになっている。特に迎撃に関しては対猛獣用に設定している。部屋にも自衛する権利は必要だ。


「ああ。頼んだよ」


 反応待ちの音声認識に許可を出す。僕が外出してる時にも侵入者迎撃システムは作動するようになっていたはずだが、許可を求めるあたり律儀な部屋だ。好き。


「ありがとうございます。ではご主人様。お身体失礼します」


 音声認識が言った言葉に疑問を抱いていると自分の体がふっと浮き上がった。それと同時に僕がいた場所から石を抉る音が聞こえてくる。どうやら熊のようだ。

 宙を浮く感覚はリフォームするために宙吊りになった時以来だが、以前に比べて断然居心地がいい。まるで誰かにお姫様抱っこされているようだ。


 ――なるほど、また夢か


 どうやら完璧な部屋が完成した満足感は、かなり脳に刺激的だったらしい。

 あれやこれやと夢の景色が切り替わるのもそのせいだろう。それなら話が早い。部屋の能力を存分に引き出せている今回の夢は居心地がいいし全力で楽しもう!

 宙を浮く貴重な体験を暗闇の中楽しみながら、再び上から声が聞こえる。


「ご主人様に害をなすとは許しがたい蛮行。排除します」


 音声認識がそう言った途端、近くから銃撃音が聞こえ始める。どうやら夢の中でも迎撃システムは健在のようだ。


 なんともカオスな夢だと思い声の方を見上げると、銃撃の火花で少しだけ周りが見える。


 ――そこにいたのは理想だった――


 夢だと思ってぼんやりしていた自分の意識が一気に目覚める。

 それほどまでに火花の光に一瞬映ったメイド服の女の子は、夢オチの諦観をしていた僕にとっての真実だった。


「404号室。お前なのか?」


 疑問系で質問したが、見間違えるはずがない。例え姿が部屋でない人間で、美少女の姿だったとしても、見間違えるはずがない。


「肯定します。私はご主人様の部屋404号室です」

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