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冒険者の部屋

 ホテルを後にして、朝食を摂るために近場の喫茶店に入った僕たち三人。


 早速学術都市に向かう……と思ったのだが、エランスから待ったがかかる。


「すみません……今回の宿代で私の手持ちがなくなりそうなので、学術都市に向かうために必要な交通費が払えそうにありません」


 どうやらこの世界にも貨幣制度はあったようだ。カクレータ村にいた時は支え合いだったし、鉱山の途中で休憩のために入った酒場でも、マスターからお代は要求されなかった。


「本当なら勇者様の特例制度が適用されるはずなんですが、最近の『堕ち勇者』の影響で勇者様に対して疑念の声が上がり、勇者様自体を受け入れないお店が多いらしいのです」

「そうだったのか……大変なことを任せていてごめん。エランス」


 申し訳なさそうにするエランスに、気づかなかった僕からも謝る。

 ちなみに昨日の傷は部屋で寝たら一日で治っていた。これもファウンドが回収した謎エネルギーの力なのだろうか?


 謎エネルギーの解明をするためにも、部屋友にこの世界での生活を全て任せっきりなのは良くない。

 とりあえず欲しいのはお金なのだ。早く仕事を見つけなければ。


「ところでエランスは、ファウンドが『勇者様』扱いされなくて、後腐れなく辞められる、稼ぎのいい職業って何か心当たりある?」


 とりあえず今の現状を打破できるうってつけの条件を言えるだけ言っていく。旅は長いんだ。ここから妥協していって、少しずつお金を稼いでいけばいいさ。


 すると、エランスは僕をじっと見つめて真剣な表情になる。


「あるわよ」


 うむ、やはりないか。じゃあまずは一番必要なさそうな「稼ぎのいい」条件を取って……


「……え? あるの?」

「あるわよ。ファウンド様が勇者様扱いされず、後腐れもなく、稼ぎがいい職業」



 ――



「おおー! これが冒険者ギルドってやつかー!」


 二階建てのレンガと石で作られた重厚感のある建物が僕たちを歓迎してくれている。流石異世界の始まりの地。冒険者のギルドもあるなんて。


 エランスがいうには、この世界には生態系の頂点に多種族が生きている影響で、以前の世界とは異なる多種多様な生物が生息しているらしい。大体の生物はよく知らなかったが、以前の世界でも有名なドラゴンとかも普通にいるそうだ。


「数多くの生物から人間を守る代表として、冒険者という職業はこの世界に必須よ。それに、最近強い生物の発生が確認されてるから、必死に冒険者を募っていると聞くわ」


 ギルドの中はとても繁盛しており、冒険者と事務員があちらこちらで話し合っている。大きな板がある場所では、依頼が書いてある紙が、貼られては剥がされてを繰り返している。


「ようこそ! 冒険者ギルドへ。新規の登録はこちらで承っております!」


 周囲の喧騒に負けないくらい通る声をした女性の職員さんの方へ向かう。


「おはよう。この二人を新規で冒険者として登録して欲しいんだけど、お願いできる?」


 やけに慣れた様子で手続き作業を進めていくエランス。そのうちこの世界の文字を教わっておこう。


「平野、ファウンド様。とりあえず事務手続きはこっちでやっておくから、能力値鑑定だけ済ませておいて」


 ……うわー、やっぱそういうのあるんだ。


「では、この鑑定石に手をかざしてください。筋力、体力、精神力、魔力の四つを鑑定します。それぞれ最大5の五段階評価から合計し、総合評価をA〜Eの順に定めていきます。覚えている魔法はその下に表示されます」


 白く濁った水晶はうっすらと僕の顔を映している。僕は恐る恐るその手を鑑定石にかざす。



……くるか? 俺TUEEE路線?



「えーっと、総合評価Eですね……精神力が4ですが、それ以外は最低値です……で、でも錯乱魔法が短時間使えるのはとてもすごいです! これから頑張ってください!」


 ……ありがとう、グラッドさん。やっぱり評価はボロボロだったけど、あの時の魔法の修行のおかげで、こうして励ましの言葉をもらえたよ……!


 僕はそそくさとファウンドに次を譲る。しかし、ファウンドは鑑定石を見つめているが、その手をかざそうとしない。


「……誰ですか? そこから見ているのは」


 ファウンドは水晶を見つめて言う。え? 水晶の中に誰かいるの?


 僕が水晶をジロジロ見ていると、ギルドの二階にある大きな扉が開く。扉から現れたのは、全身が金色の筋肉質な男だった。


「ハーッハッハツ! 鑑定石からの視線に気づくとは! 私のクリエイティブもまだまだだな!」


 何が愉快かわからないくらい高らかに笑うその男が階段を降りてくる。

 金色の体とは対照的につながった眉毛は燃えるような赤で、黒いサングラスをかけていた。間近で見ると分かったが、彼の全身は金属で出来ていた。


「自己紹介しないといけないな! 私はキント・オーレ! 「始まりの地」の創設者の一人にして、このギルドのマスターである機械人デウス・マキナだ!」


 堂々と僕たちの前に仁王立ちするキントさんは、僕の倍くらいの身長があり、僕の姿が見えてるのかどうかすら怪しい。


「この鑑定石からの投影機能を見破ったやつは久しぶりだ! あんた名前は!」


 機械音の混ざった声だが、とても張りのある声がギルドに響く。メガホンを使って叫んでいる様な声だ。


 ファウンドは僕より先に挨拶をしていいか伺っていたが、僕は頷いておいた。人の部屋をジロジロ見てくる不審な人だけど、挨拶されたら返すのが礼儀だ。


「……ファウンド」

「ほう! もしやお嬢さんは……!」


 キントさんは僕よりも小柄なファウンドのことをじっと見つめる。サングラス越しでも感じる視線は、責任者としての貫禄と不審人物の気味悪さを感じた。


「ご機嫌ようムッシュ・オーレ。早速()()勇者様がお眼鏡に叶いましたか?」


 ギルド入会の手続きを終えたエランスがやってくる。あれ? 勇者様扱いされない件はどうなったのだろうか。

 小柄な赤髪の女の子の声に気づいたキントさんは下からエランスを見下ろす。


「おう! 久しいなエランス! お前がいなくて! このギルドも寂しくしていたぞ!」


「ごめんなさい。しばらく巫女として活動していましたから」

 巫女服をひらひらさせるエランスと、張りのある声で旧友との再会を喜んでいるキントさん。どうやら、エランスはこのギルドで昔お世話になっていたらしい。


「巫女の活動ということは! お前! 勇者の護衛中か!」

「その通りです。その勇者様こそ、ここにいる二人です!」


 エランスは手をかざして僕とファウンドに視線を誘導する。集まってきた野次馬達も一斉に僕たちを見ている。


「なるほどなあ! 私のクリエイティブが意味をなさないわけだ! しかし! いくら勇者といえども! この鑑定石に気づいたのは! サンモータと旦須しかいない! こいつは相当手練れの勇者だぞ!」


 周りの野次馬も一斉に騒ぐ。「あのサンモータと並ぶ逸材だってよ!」とか、「まだ子どもなのに、将来の希望だ!」とか、「ロリっ子可愛い! 一生推す!」とか、ファウンドのことを評価してくれる意見がたくさんもらえて、僕は誇らしく頷く。 ……最後のやつは顔を覚えておこう。


「まあね。私の知る限りでは最強の勇者様よ。……ギルドの入会はこれでいいかしら?」


 満足げなエランスは、ファウンドのことをどんどん絶賛してくる。まさか僕の部屋のことをそこまで評価してくれていたとは、友達だがなんだか照れ臭い。


「ああ! 構わないぞ! エランスのお墨付きとあったら百人力だ! 鑑定する必要はない! どんどん仕事をこなしてくれ!」


 キントさんは満足してファウンドの鑑定をクリアしてくれる。野次馬達の大騒ぎもいまや最高潮だ。


「そういえば! 『二人』と言っていたな! もう一人はどこだ!」


 再び期待の視線がエランスに集まる。


 ……そういえば確かに、エランスは『二人』と言っていたな。


 ファウンド並の完璧な部屋を、この短時間でもう見つけたというのか。若い子の観察眼は素晴らしいな。


「最初からいるじゃない、そこの男『平野頼来』よ」


 エランスはファウンドの隣にいた僕を指差す。ギルドの視線が一斉にこちらを向く。


 ……ええっと、どちらの『平野頼来』さんでしょうか?


 辺りをキョロキョロ探し始める僕は、必死に『平野頼来』を探し始める。名前からしてきっと冴えない中年男性だろう。


「……そちらの方でしたら、既に鑑定を終えていますが?」


 先程鑑定してくれた事務員の方が、キントさんに印刷された鑑定書を手渡す。


「……総合評価E! 勇者! と呼べるのか!?」


 今までのはっきりした声に疑問符が混ざっている。野次馬も、先程までの盛り上がりが嘘の様なお通夜状態だった。


 僕は諦めず、ひたすら『平野頼来』を探し続けた。

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