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市街地の部屋

 日が沈み、西洋風の住居にランプの明かりが灯る。暗闇を紛れさせるその光は、人間の創り出したもの中で頂点と言っていいだろう。


 光に照らされる先には、レンガや漆喰で出来た建物が整列されて並び、その中には多くの部屋が存在する。


 僕たちは「南の山」の鉱山を最速で下り、近くにあった市街地「始まりの地」に来ている。

 

 エランスが言うには、ここで多くの転送者たちが女神によって転送されて来るらしい。

 ファウンドが「勇者様」と呼ばれている理由がその人たちにあるとしたら、是非とも会ってみたいものだ。


「しょりぇにひても、おみしぇがほほうへにひやかだね」


「……ファウンド様、平野はなんて言ったのかしら?」

「ご主人様は『それにしても、お店が多くて賑やかだね』と申しています」


 僕は顔を包帯でぐるぐる巻きにされていてうまく話せないため、ファウンドが通訳をしてくれている。


 鉱山を下った後、荷台に固定されたエランスを助け出した僕は気がつくとボコボコに殴られていた。

 顔面の被害度的に盗賊と戦うよりも被害があったので、不運なことこの上ない。


 一方のエランスは息が上がっていたが意識ははっきりしており、妙にスッキリした顔をしていた。


「ササミー肉を頂いた後だし、さっさと宿を捜しちゃいましょうか」


 市街地で僕たちの先頭を歩くエランスはこの「始まりの地」に慣れているようで、目的地を難なく見つけている。


「ほへふあひやあ。ほふうひふあふぁふんふぉはひる。ひゃほおなんへいふあふあひ」

「『それは嫌だ。僕にはファウンドがいる。宿なんていらない』……ご主人様は私のものです」


 後ろに続く僕たち二人の猛烈な抗議の声が溢れる。


「あのね、平野は大丈夫でもファウンド様はこんな街中で一人にできないでしょ? ファウンド様も宿で寝るべきよ」


 ……それはそうだ。そういえばファウンドは擬人化していたんだった。


 僕は今までカクレータ村のような少数規模の村でしか擬人化した部屋での寝泊まりを経験していない。外から見た僕たちの様子など考えたこともなかった。


 ……もしかして、僕って子どもを一人道端で寝させていたヤバいやつってことになる?


「……何考えてるか想像つくけど、あなたはもう少し自分を客観視した方がいいわよ」


 こうして、僕たちはエランスに誘導されるがままに宿を取る。


「こんばんは。宿の予約をしたいのだけれど。」

「はい! 二名様のお部屋と、一名様のお部屋でよろしいですか?」

「ええ、それで頼むわ」


 スムーズに手続きを終えたエランスは、宿の入り口で待つ僕たちの所に戻ってきて僕に「一人用の」鍵を渡して来る。


「『おい、そこはエランスが一人用の部屋だろ。俺とファウンドは一心同体だぞ!』……ご主人様。嬉しいです」


 僕の心の声を代弁してくれるファウンドは、僕が喋らなくても通訳をしてくれる。さすが、僕の優秀な部屋なだけある。


「……ファウンド様。この際だからはっきり言っておきます。あなたは平野に毒されています。信頼関係が強固なことは素晴らしいことですが、拗れた関係は見過ごせません」


 宿の入り口にいた僕たち三人の雰囲気が変わる。違和感に気づいたのか、みんなチラチラとこちらをみていた。


「……それは聞き捨てなりませんね。私とご主人様に拗れた関係など微塵もありません。私はご主人様の部屋です。清らかな関係であることをこの部屋に誓いましょう」


 自らのお腹をさすり、僕との関係の清廉さを主張するファウンド。流石は僕の完璧な部屋だ。


「ですから、その考え自体が毒されているのです! あなたのお腹に平野の部屋があるなんて、どう考えても動機が不純ではないですか!」


「あいつ、あんな子どもになんてことさせてやがる」


「最低なクズですね」


 エランスの主張で、周りから僕に視線が向けられる。なんでファウンドのお腹に僕の部屋があるのかは、僕も知らないんだよな……


「そんなことはありません。私はご主人様の堅い意思によって誕生しました。この世に生を受けた理由は、全てご主人様の快適な暮らしのため。ならば、私はボロ雑巾の様になってでも、ご主人様のために尽くします」


 僕のために健気に頑張ってくれているファウンドの熱量に感動して、僕はファウンドを抱きしめる。その温もりは、全く変わらずに僕を癒してくれる。


「おい、あいつから生まれたって言ったぞ!?」


「ボロ雑巾の様にって……どうしたらそんな発想に?」


「……あの包帯ヤロウ許せねえ」


 周りが包帯で見えないが、なんだか僕たちのことを祝福してくれている様だ。


「はあ……分かりました。今日はこのくらいにしておきましょう。こちらの鍵をどうぞ」


 折れたエランスは、二人用の鍵を渡そうとして来る。これこそハッピーエンド……愛の勝利ってね。


「『いや、大丈夫。僕たちは二人で一人用の宿に泊まるよ』」


 どうせ僕はファウンドの中に入るし、宿はファウンドがゆっくり出来る一人分で十分なのだ。


「おい! あの娘、二人で一人とかいってたぞ!」


「まだあんな子どもなのに、なんてこと言わせやがる」


「……あいつは処刑する」


 包帯のせいで見えないみんなの声援に手を振り返しながら宿の部屋に向かう。エランスとも別れて僕たちは一人用の部屋に入る。


「ひょうもはほびはっはへ。ほやふみ。ふぁふうんお」

「私も楽しかったです。おやすみなさい、ご主人様」


 ファウンドの中に入り、いつもの部屋のベットで落ち着く。今日もたくさん綺麗な景色や食事を楽んだ。友達ともうまく喋れたことを嬉しく思いながら、いつも通り眠気に身を任せた。


 ――


 朝方目を覚ましたら、僕たちが泊まっていた一人用の部屋に気絶した人が何人も倒れていたのは流石に驚いた。

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