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山頂の部屋

本日二話目の投稿です!


「『錯乱魔法』!」


「なんだあ!? やつら一体どこに行きやがった!?」

 

 僕の修行の成果である錯乱魔法は、ファウンドとエランスを隠し、襲ってきた盗賊達を打ち倒していく。


「ご主人様、完璧です。さあエランス、片付けますよ」


「どうして! こう何度も! 盗賊に! 襲われるのよ!」


 僕のことをいつも褒めてくれる優しいファウンド。そして、愚痴を言いながらもしっかり盗賊を倒していくエランスはやはり真面目だ。


 盗賊は見えない敵からの攻撃に不利を察し、散って逃げていった。



 ――



「南の山」の頂上から見る景色は、まるで世界の境界線のようだった。僕たちが来たところから見える景色は、一面緑に溢れていて開放感があった。しかし、反対から見える景色は、建物の灰色が多く見え文明を感じることができる。


 僕たちはグラッドさん達と別れ、この世界に来た理由と、ファウンドを動かす謎エネルギーの正体を突き止めるため、北にある学術都市に向かっている。


「ご主人様、紅茶の用意が出来ました」

「ありがとうファウンド。いただくよ」


 ティーカップに注がれる紅茶の香りは、この景色を堪能しながらだとまた別の風味になる。

 ファウンドにも紅茶を注いだ僕は、二人でこの美しい反面世界を眺める。

 最高の部屋と一緒に、最高の景色を眺めながら、最高のお茶を楽しめる日が来ようとは。完璧だ。異世界はなんて素晴らしいんだろう。


「……何してるの? あなた達」


 呆れた声を出す真紅の長髪をした少女、エランスは僕とファウンドの関係を羨む部屋友だ。自分だけの部屋を探すため、僕たちの関係を研究している。

 最近はファウンドとも打ち解けてきたようで、彼女への丁寧語も無くなってきている。仲良くなってきたようで何よりだ。


「何考えてるか知らないけど、絶対違うからね」

「悪いなエランス。このティータイムセットは二人用なんだ。椅子は用意できないけど、この紅茶ならあげられるよ」


 僕とファウンドが椅子に座り、優雅に寛いでいたのが羨ましかったのだろう。せめて、この紅茶だけでも堪能してほしい。


「はあ……それより平野、ファウンド様。あなた達の目指してる学術都市はこの山を越えたもう少し先にあるわ」


 エランスは紅茶を飲みながら学術都市へ向かう話を始める。「美味しいわね」の一言が聞けた僕は、ファウンドとハイタッチをする。


「今下に見えてる建物の多いところが『始まりの地』。勇者様が最も多く転送されてくる場所よ。そこからさらに北にいけば学術都市、人間の領地のほぼ中心に到着よ」


「ほぼ中心ってことは、中心は別のところなの?」


「そうよ。中心は王都『フロアー』、今いる人間の領地、グデーン国の初代国王である『リビング・ス・メール』様が建国した、由緒正しき場所よ」


 エランスが言うに、勇者様はリビング王の願いに応えた女神が転送してきた存在だから偉いらしい。


 ――つまり、みんなが僕の完璧な部屋であるファウンドを勇者様と呼ぶのは、それだけすごいという比喩表現だったようだ。なぜなら僕たちは、女神のことなんて全く知りもしないからね。


「エランスも人が悪い。ファウンドをすごいと思うなら、そう言ってくれれば良かったのに」

「……あなたはいつも何を言ってるのか分からないわね」


 疲れた様子で紅茶を飲み干すエランス。どうやら口に合ったようだ。今度はもう一つ椅子を用意しておこう。


「……ご主人様。北方向より飛来してくる生物が二体」


 ファウンドの言う方角を見ると、大きな翼を羽ばたかせてこちらを狙う鳥がやってきていた。


「あれはササミー・イーグルだわ。かなり厄介な相手ね」


 また食べることしか頭にないような名前だが、あちらから襲いかかってきている以上、対処しなくてはいけない。

 ティータイムセットを収納し、ササミー達の襲撃を回避するファウンド。ちなみに僕はファウンドにお姫様抱っこされている。


「ちょっと平野! 楽しようなんてずるいわよ! さっさと討伐しちゃいましょう!」


 エランスは巫女服の裾から二つの短剣を取り出し、逆手に持つ。


「『キッチン流』一の刀『輪切り』!」


 彼女は水のように滑らかに滑り、一体のササミーを真っ二つにする。盗賊の時もそうだったが、鮮やかな剣捌きだ。彼女の逞しさの理由にも納得だ。

 僕はあくまで自衛のために、ファウンドから振動剣をもらい、お姫様抱っこされながらササミーを斬り倒した。



 ――



「平野はもう少し、自分の強さを自覚しなさい」


 襲ってきたササミー・イーグルを討伐した僕たちは、丁度お昼時だったこともあり、山頂でその肉を頬張っていた。

 名前の通り、希少部位であるササミの肉を全身に宿した鳥は、あっさりしているが、しっかりした肉の満足感を味あわせてくれる。


「僕は強くないよ? あくまで自衛のために行動しているだけで、ただの一般人だ」

「そんな一般人はササミー・イーグルをお姫様抱っこされながら片手で仕留めないのよ……」


 ササミー肉をはみはみするエランスは、僕の言葉にため息をついている。


「エランスだって一人で討伐していたじゃないか」

「……わ、私は勇者を護衛する役割のために護身術を学んでいただけよ」


「護身術にしては積極的に攻撃していたような……」

「…………もうっ! この話はおしまい!」


 無理矢理話題を逸らすエランスを目で追う。部屋友同士隠し事はなくてもいいのに。


「とにかく、あなたはもっと堂々としなさい! それだけの実力を、あなたはこの世界で持っているんだから!」

「……ああ、うん。気が向いたらね」


 別に権力が欲しいわけでもないので、エランスに適当に相槌をうっておく。


 やれやれ言いながらもお肉を完食したエランスは、僕たちから離れて紙を丁寧に取り出し、何やらメモをとっている。


 この世界でも読み書きの文化はあるようで、カクレータ村の人々はしていなかったが、エランスが紙を取り出して、丁寧にこの世界での文字と思われるものを描いていたのでようやく気づいた。……この世界を満喫する以上、そのうち覚えないとなあ。



 ――



「さて、それじゃあ山下りといきますか」


 ササミー肉を食べ終わり(食べきれなかった分はファウンドの冷蔵庫に入れた)、午後の落ち着くひと時をすごした僕たちは、ゆっくりと目的地を目指す。


「登りの時は()()()盗賊に何度も襲われて大変な目に合ったし、気をつけて進んでいきましょう」


 エランスが盗賊に襲われたのは僕のせいかのように、ジト目をこちらに向けながら話してくる。なんとも失礼なことだ。


 ……ならば、出会う隙を与えなければいい。


「ファウンド! 『あれ』だ!」

「かしこまりました。ご主人様」


 ファウンドの両足に無限軌道が出現する。自慢げな僕の表情とは裏腹に、エランスはひどく青ざめた顔をしている。


「あ、あなた達、まさか『その車輪』で降りるつもりじゃないわよね?」


 無限軌道を指差して、恐怖に引きつるエランスを尻目に、ファウンドはお腹からカクレータ村で頂いた縄と荷車を取り出す。


「エランス、安心してください。この荷車があれば、以前のようにあなたを置いていったりしません」


 無表情なファウンドだが、声が少し得意げだ。僕の完璧な部屋はいつでも欠点を克服し、完璧な解決策を用意してくれる。

 ファウンドは縄を荷台に結び、自身にも巻いていく。


「は? ……まさか、わたしがその荷台に乗るなんて言わないわよね?」


 珍しく察しが悪いエランスは、荷台を指差して僕に尋ねてくる。他に取り出した理由があるだろうか?

 逃げようとするエランスを、ファウンドは縄で縛り上げて荷台に固定する。


「待ちなさいって、こんな降り方納得いかないわ! 盗賊と会わないために、鉱山を最速で下るとか発想が変だから! ……ねえ、それならやっぱり飛びましょ? 山頂でゆっくりしてたのに何もなかったんだから、周辺に魔族だっていないわよ!?」


 ――エランス、それはフラグだ。やめた方がいい。 


「飛ぶのは悪目立ちするって言ったのはエランスなんだし、やめた方がいいんじゃないかな?」

「転がって山道下るのも、よっぽど悪目立ちするわよ!」


 ……パニックになってる彼女はそっとしておこう。ロープで縛り付けてるから、安全は保証されている。


 僕はファウンドにお姫様抱っこされて、彼女に身を任せる。ファウンドは見晴らしのいい坂を選び、自身の足につく無限軌道をその斜面に乗せる。


 ゆっくりと回る車輪は、次第に回転数を上げていき、やがて内部の車輪が止まって見えるほどの回転数になった。やってくる空気の抵抗も心地よく、擬似的なスカイダイビングのように思える。


 ――これから行く人間の街はどんなところだろう。


 そんな期待に胸を膨らませながら、僕たちは後ろから聞こえる悲鳴と一緒に、最速で鉱山を駆け降りていった。

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