旅立つ部屋
各々が村の資源を回収し終わり、村を発つ準備をしていた。
見守っている僕とファウンドは、赤い髪を纏った友達の姿を見つける。
「やあエランス! 君は村人達に同行しなくていいの?」
「無理よ。私は、あなたや村人達に合わせる顔がないもの」
……そういえば彼女は別宗教の信者だったバーバラスに長年欺かれていたんだっけ?
彼女自身は本物の女神の巫女だったから、村人達もバーバラスの正体に気づけなかったようだ。そこに責任を感じているのだろう。
「そんなことないですよ、エランス。あなたは村のために、誰よりも早く女神の予言の場所に向かったではありませんか。本当は誰よりも私達のことを心配していたことは、この私が知っています」
テテュスさんが僕たちのところにやってきて、エランスに告げる。どうやら、彼女にはエランスの良いところが全部お見通しのようだ。
「テ、テテュスうぅ……!」
初めて見たエランスの涙は、その小さい体に不釣り合いな程の責任感で押しつぶされそうな彼女から、少しだけ重荷を下ろしてくれていた。
抱き寄せたテテュスさんは、彼女を優しく包み込んで頭を撫でている。重責を背負うもの同士、意見があったのだろう。
「それに、知っていますよ? 私が死の寸前だった時、あなたが『魔法』を使って私を助けてくれたことも。素直に言ってくれないのはあなたらしいですが、自分の名誉はちゃんと言わないとダメですよ?」
「ごめんなざい……ほんどうにごめんなじゃい……」
その謝罪は彼女にとっての罪を清算し、再び立ち上がらせてくれた大切な思い出の一つとして、これからも残るだろう。
――
「ファウンド様。それに平野。私エランスを、どうかお側においてくださいませ」
カクレータ村での無念を取り払い、改めて覚悟を決めたエランスは、僕たちに跪いて同行の許可を求める。
「エランスは大丈夫なの? 村の巫女の仕事とかもあるし、村人達に同行した方がいいんじゃない?」
「いえ。勇者様がここに現れた以上、村での巫女としての役割は終わっています。これより先は勇者様の行動を記録し、その武勇を女神の下へと届けることが仕事になります」
丁寧な口調でいろいろ説明してくれたが、どうやらエランスはファウンドの凄さに感動して、もっと近くで彼女のことを見たいようだった。……それでこそ部屋友第一号。
「分かった。それじゃあ一緒に行動しよう。この世界にはまだ慣れていないし、見識者がいた方が何かとありがたい。ファウンドもそれでいいよね?」
「かしこまりました、ご主人様。エランスの同行を許可します」
あっさり同意した僕たちに拍子抜けしたようなエランス。この子も表情がよく変わるものだ。
「あの、疑念を抱かないのですか? 私が魔族の正体に気付かなかったせいで、この村は崩壊して、村人を死の危険に追いやったんですよ?」
他宗教との因縁の責任をいまだ感じているエランスは不安を隠せないでいた。
「問題ないよ。やったのはバーバラスだし。村の人達は誰もエランスのことを悪いと思っていない。なにより、君はこの世界で初めて出来た友達なんだ。疑う理由なんてない」
僕の完璧な部屋をこんなに褒めてくれるエランスには、もっとすごいところを見せてあげたいからね。
「そ、そう! じゃあ、あなたの口車に乗ってあげる。私が一緒に行ってあげることに感謝することね!」
お! いつものエランスらしくなってきた。それでこそ僕の友達だ。
「旦那あ。あっしらは先に出立いたしやす。学術都市はこの道を北にまっすぐ行った『南の山』を超えた先でさあ。そこから先なら、エランス嬢が道を教えてえくださるでしょう」
「お三方、ご武運を」
「またね! にーちゃん!」
「……また会いたい」
「ありがとうみんな! 初めてこの世界で会えたのがあなた方で、とても幸せです! 必ずまた会いましょう!」
お互いに手を振る僕たちは、彼らの姿が消えるその時まで、手を振り続けるのだった。
――
「さて、じゃあ僕たちも行こうか」
「平野、行くにしても学術都市は相当先よ? 馬車もない徒歩で向かうには、とても限界があるわ」
どうやら学術都市は先に見える山を超えたさらに向こうにあるらしい。ちなみに周りには、相変わらず何もない。
「それと、前みたいに飛ぶのはダメよ? 今回の騒動で、この場所が魔族の目に触れてるかもしれないんだから。空中なんて目立つ場所は、カクレータ村の皆さんにも迷惑をかけるわ」
その通りだ。僕らだけならともかく、村の人達に迷惑はかけられない。
――ならばちゃんと道を走ればいい。
「ファウンド、『走るぞ』!」
「かしこまりました。ご主人様」
僕の合図で、ファウンドの両足からは無限軌道が出現し、エンジン音とともに内部の無数の車輪が急速に回転する。
再びお姫様抱っこをされた僕は唖然とするエランスを急かす。
「エランス! 早くファウンドに乗って! 置いていかれるぞ!」
「は?」
エランスが疑問符を浮かべたが、もう遅い。ファウンドは無限軌道のエンジンを最大にして、地面を抉っていた。
僕は、万が一部屋が自力で移動しなくてはならない時のために、部屋を戦車並の動力で動くように魔改造した。
……しかし、この速度は予想外だ。軽くなったファウンドの体と、謎エネルギーの相乗効果でとんでもないスピードを出している。
「ちょ、ファ、ウンド、い、一回止まって」
風圧で聞き取れたか怪しい声にファウンドは反応して停止する。お姫様抱っこされてるおかげで、反動はゼロだ。
「……遠くまで来たなあ」
米粒みたいに動いているものが来た道から見える。おそらくエランスだろう。
僕たちは草原に腰掛け、エランスが来るまで休憩することにした。
「ご主人様、この枕をお使いください」
ファウンドは自分の太ももをポンポン叩いて膝枕を促してくる。僕はその誘惑に抗うことなく、自分の頭を彼女の太ももに預ける。
思えば、ファウンドと二人きりになったのは久しぶりだ。
「あれ? この感触どこかで……」
そうだ。初めてこの世界に来た時、何も見えない暗闇の中で、唯一安心出来た部屋の枕の感触だった。
「そうか……ファウンドはずっと、僕のことを見てくれていたんだね」
枕に身を預けた僕は笑顔のまま目を閉じて静かな昼のひと時を過ごす。
「ご主人様。私は常に、あなたと一緒です」
青空に靡く銀髪がカーテンとなって、主の安眠を約束する。その安心し切った表情は、彼女の完璧な部屋を温かくするのだった。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます! これにて第二章終了です!!
次の章は、三人が冒険者ギルドに入って依頼をこなしていく予定です。




