見えない部屋②
「それじゃあ皆さんは、この村から移動するのですね」
テテュスさんが目を覚まし、魔族との戦いは犠牲者を一人も出さずに終わった。しかし、その戦いは村に致命的なほどの被害をもたらしていた。
「俺らもお、みんなあこの村があ大好きだけれどもお、魔族が長年住みついてたあと分かっちまったからにはあ、こうするしかあねえんでさあ……」
悔しそうな表情のグラッドさん。まさか長年隠れ潜んでいた理由である魔族が、既にこの村で暮らしてたなんて思いもしなかっただろう。
これ以上魔族の思い通りにならないために、以前便りがあった人間の里を目指して、村人全員で旅をすることにしたらしい。
「私たちは、この村が魔族から受けた被害と屈辱を、他の人間達に広めなくてはなりません」
まだ足元がふらついているテテュスさんは、グラッドさんの肩を借りてこちらに歩いてくる。彼女の目は決して揺るがない、村長として相応しい覚悟を持った目をしていた。
辺りは既に村だったもので、地面は崩れ、家は瓦礫と炭の塊になってしまったが、そこに住んでた人達はこれからの未来を決して諦めていなかった。
「それがいいです。村の家々は、あなた方にもっと元気でいてほしいと伝えてきています」
ファウンドが綺麗な長髪を整えて僕の隣に立つ。
「ありがとうなあ、ファウンドの姉さん。その言葉あ、もらえるだけでえ元気が出てくるぜえ」
上を向いたグラッドさんは必死で涙を堪えている。テテュスさんも彼の肩に埋もれて、思わず涙を隠す。
他の村人達も総意は一緒のようで、それぞれ瓦礫になった部屋から使えそうなものを回収している。準備が完了次第、すぐに村から発つそうだ。
「頼来の旦那あ達はこれからどうしやす?あっしらと行動を共にしやすかい?」
「いや、僕たちは皆さんから噂で聞いた『学術都市』に向かおうと思います。どうして僕達がこの世界に来たのか知りたいんです」
魔法を教わる中で、僕は村の人々からこの世界のことをある程度聞いていた。その中でも学術都市は、勇者様と呼ばれるくらいすごい人達が数多くいるという。
とりあえずそこを目指して、謎エネルギーの解明と、この世界に来た理由を調べたい。
「分かりやした。それじゃあ、こいつはあお返ししやすぜ」
グラッドさんは懐から鞘に収まった日本刀を取り出し、僕に返そうとしてくる。
「いえ、貰ってください。その刀はあなたが使う方がいい。これからの旅できっとお役に立ちます」
僕から彼らにしてあげられることは、『あくまで自衛』シリーズの提供くらいだ。だから、せめてこのくらいさせてほしい。
それに、作ったはいいけどその刀、僕だと長すぎて振るえないんだ……
僕の意を汲み取ってくれたグラッドさんは日本刀を大事そうに抱える。
「ありがとうごさいやす。俺はあ、ここにいる村人全員をお、この『あくまでい、自衛え』と、必ず守り抜いて見せやす!」
刀を手にしたグラッドさんの目はとても輝いていた。
……それにしても、左には助け出した彼女と、右には魔族を斬り殺した剣て、明らかにあなたの方が勇者では?
「頼来にーちゃん!」
「ファウンドお姉ちゃん!」
村の方からやってきたのはグラコロ兄妹だ。彼らの元気な姿は村人全員を笑顔にしてくれる。
「ごめんな、二人の部屋を見てやれなくて……」
どうしてもこの兄妹には言わなくてはいけなかった。僕がもう少し聡くて、バーバラスの行動に気付けていれば、こんな事態にならなかったかもしれないのに……
「にーちゃん! 僕らのことは気にしないで!」
「……お兄ちゃん達は英雄。だから、これ」
二人は僕とファウンドにそれぞれ何か差し出してくる。どうやら焼けた家から探し出してきてくれたらしい。
それは、美しい光を帯びた貝殻だった。僕とファウンドでそれぞれ半分ずつ。どうやらうまく重なるようだ。
「それはね! 夜まで僕たちで探して拾った、川にあった光る貝殻なんだ!」
「……初めは片方しかなくて、可哀想だったから……日が暮れても必死に探した」
兄妹が必死になって探し出したという対になった貝殻の欠片は、僕たちの手の中でキラキラと光っていた。
「……ありがとう。僕たちがそんな大事なもの、受け取っていいのか?」
「にーちゃんだから貰ってほしい!」
「……私達からの感謝」
満面の笑みのグラコロ兄妹。二人の笑顔は陰キャの僕には眩しすぎる。
「……感謝いたします。二人とも。ご主人様と私、この村での出来事を決して忘れはしません」
兄妹に視線を合わせたファウンドは兄妹に頭を下げ、貝殻を大事な宝物のようにメイド服に仕舞い込む。
僕も二人の兄妹を抱きしめて、感謝の意を示す。この世界でも、子どもの力は最強だ。
「グラ、それにコロ……? あなた達、村に遅くまで帰らなかったというのはどういうことですか……?」
忍び寄ってくるテテュスさんは、二人に静かに圧をかけていく。
「えーっと……そんなこといったっけ!」
「……知らない。……です」
テテュスさんから顔を背けるグラコロ兄妹。どうやら大人を連れずに二人だけで貝殻探しを夜遅くまでしていたらしい。
「さあ、いらっしゃい二人とも。テテュスお姉さんがやさーしく川の恐ろしさについて教えてあげるからねー」
「コロ! これは逃げるしかない!」
「……うん。逃げよう」
二人は猛ダッシュで逃げ出すが、テテュスさんは恐ろしい速度で二人を捕らえ、奥へと引っ込んでいった。
テテュスさんは、さっきまで足元すらふらついていたはずなのに、すごい力だった。撤回。この世界でも一番強いのは子どもの保護者だ。
「テテュスはあ、もう大丈夫そうだなあ。にしても、あいつらあも錯乱魔法がうまくなったあもんだ」
「え? あの二人、錯乱魔法を使っていたんですか?」
それにしては全然二人の姿が見えたけどな。
「テテュスから逃げる時に使ってやしたが……もしかして旦那あ、二人が見えたんですかい?」
こくりと頷く僕に、グラッドさんは大喜びしてくれる。
あれ? 確か錯乱魔法って同じ魔法を使えると効果を受けないんだっけ。それってつまり……
「旦那あ! 心の底から念じてみてくだせえ! 効果は心の声で反映されやす!」
……僕は目を閉じ、心の声に集中する
「『錯乱魔法』!!」
唱えた僕は自分に靄がかかった感覚を得る。精神が研ぎ澄まされ、辺りに防音の壁があるみたいな感じだ。
「成功ですぜ、旦那あ! あんたは『錯乱魔法』を使いこなしていやす!」




