照らす部屋
夜明け前になり、魔族だったバーバラスと、洞窟だった蛇を撃退した僕たちは全く安堵できる状況ではなかった。
「テテュス! しっかりしろ! テテュス!」
「テテュスねーちゃん! 起きて!」
「……お姉ちゃんに花冠の作り方、まだ教えてもらってない……」
グラとコロが顔を俯かせて涙で嗚咽を漏らす中、グラッドさんはテテュスさんを揺さぶる。しかし、テテュスさんに全く反応はない。
「エランス嬢! あんた、あの魔族から何か聞いちゃいねえか? 兵器の起動に必要なもんとか……何でもいいんだ!」
「分からないわ……そもそもあいつが魔族なんて初めて知ったし、あいつの隠してきた兵器なんて、存在すら知らなかったもの……」
狼狽えるエランスも、バーバラスが魔族だったことに相当のショックを受けているようだった。
ファウンドの部屋から出たテテュスさんは、磔にされていたときと変わらず危険な状態だった。
僕の完璧な部屋には完璧な自衛機能はあるが、誰かを救う機能はほとんどない。せいぜい、最低限の応急処置をするしかできないのだ。
唯一手掛かりのあった神殿は、電磁加速砲で吹き飛んでしまい、魔法陣の跡すら残っていなかった。
「……すみません。神殿が残っていたら、何か分かったかもしれないのに」
僕が頭を下げる隣で、ファウンドも頭を下げていた。不完全な僕のせいでこうなってしまったのだ。謝らないと気が済まない。
「頭を上げてくだせえ旦那あ、それに姉さん。あんたたちはあ、この村の英雄だあ。誰もこの村の英雄を責めたりしねえ。どうか、どしんと構えてくだせえ。」
「頼来にーちゃんかっこよかった!」
「……ファウンド様。素敵だった」
グラッドさんは僕たちへ感謝の意を伝えてくる。こんなに褒められたことは以前の世界でもなかったので、少し恥ずかしい。
……というか、村人達は僕たちの戦いを遠くから見てくれてたのか。さすが弓兵集団なだけある。
「ご主人様。テテュスの容態を再度確認したいのですが、よろしいでしょうか?」
ファウンドの言葉に、僕はグラッドさんから許可をもらう。
仰向けに眠るテテュスさんの横に座ったファウンドは、テテュスさんの手を取り、目を瞑る。
数分の時間が流れ、ようやく日の光が出ようとしていた時、ファウンドは目を開いた。
「ご主人様、例のエネルギーを使用する許可を求めます」
キラキラした黄金の瞳で真っ直ぐに見つめてくるファウンドはいつもより熱が入っているように思えた。
「うん。許可するよ」
僕が二つ返事で認めると、ファウンドはエランスの手を強く握り、再び目を閉じた。
日が登り始めたのだろうか?テテュスさんの体が光り輝いている。
しかし、まだ周りが暗いことから、テテュスさん自身が輝いていることに気づく。
……まさか、ファウンドはあの謎エネルギーを、テテュスさんに使っているのか?
「テテュスねーちゃん、きれー」
「……天使様みたい」
その神々しい輝きは、周りの村人を見惚れさせてさらに強くなる。
「頼来の旦那あ! これは一体何でやすかい!?」
驚きを隠せないグラッドさんは、僕に助けを求めるが、僕にもさっぱり分からない。
「まさか……『蘇生魔法』!? 獣人族の中でも秘技とされる魔法を、どうして?」
エランスがその光景をみて、驚きの声を上げる。
はて? ファウンドはいつの間に僕より先に魔法を覚えたのだろうか? それに、エランスは獣人族と言うが、ファウンドにケモ耳属性はない。
光が落ち着くと、ファウンドは立ち上ってグラッドさんを引っ張ってきて座らせる。
「ご主人様のため、テテュスの一命を取り留めました。すぐに目を覚ますでしょう」
無表情でとんでもないことを言うファウンドの言葉は、このしんみりムードを一気に覆らせる。
みんなの期待がテテュスさんに向く中、彼女の瞼は微かに動き出した。微かに開いた黒い瞳で、テテュスさんはグラッドさんを見つけると、優しい笑顔を作り出す。
「……ただいま。帰ってきたよ、グラッド」
「おがえりいぃ。テデュスゥ。なげえ旅だっだなあ」
黒い瞳から静かに涙をこぼす彼女に負けないくらい、大粒の涙を滴らせるグラッドさんは、優しく彼女のことを抱きしめると、もう絶対離さないとばかりの堅い口付けを交わしていた。
ボロボロになって、何もなくなった村にようやく登った日の光が姿を見せる。照らされた風景は決して最高なものではないが、そこに生きる人たちはやはり、皆活き活きとしていた。
活気を取り戻した村人達の姿にうんうん頷いていると、隣のファウンドは僕に寄りかかってきた。身長差で彼女の頭は、僕の肘のあたりで収まる。
「ご主人様。この村の家々はやはり、住まう人間のことをとても好んでいるようです」
部屋が瓦礫になって燃え尽きたとしても、彼らと住んでいた部屋との思い出は、決して無くなったりしない。彼らの村は、彼らのこれからを日の光と共に見守っている。
僕は寄りかかっているファウンドにお願いして、部屋にあったカメラを出してもらう。
朝日に照らされた瓦礫の中で、永遠の愛を誓う二人の若者を見守りながら、僕はそのカメラのシャッターを押すのだった。




