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温かい宿命の部屋


 「なるほどお、『あくまでい、自衛え』と」

 

吹き飛ばされた男達が帰ってくる間、僕はグラッドさん達にさっきの装備を説明した。

 秘密にするほどの事でもないし、今まで創り上げてきた『あくまで自衛』シリーズの一部をお披露目できたのは、正直かなり嬉しい。


 牛を用意されていた荷台に乗せ終わり、男達が全員無事に帰ってくるのを眺めていると、いつ間にかエランスが僕の隣でもじもじしていた。トイレだろうか?


 ……そういえばエランスは眷属が近くにいると、魔族も近くにいると言っていたな。おそらく一人になるのが怖いのだろう。


「エランス。一人でトイレに行くのが怖いなら、ファウンドを連れて一緒に行くといいよ」

「はあ!? あなたデリカシーなさすぎでしょ! そんなんじゃないわよ!」


 エランスは怒ったように僕から離れ、集まってきた男達を統率していたグラッドさんの方に向かう。ファウンドと仲良くなれるいい機会だと思ったのにな。


 グラッドさん達が眷属の消えた場所を調べてくれたが、やはり先程倒した眷属の残骸は何一つ残っていなかった。


 しかし、どうやらファウンドにとっては違ったようだ。


「ファウンド。もしかして、例の謎エネルギー?」

「はい。先程倒した眷属の中から出現しました。今は回収作業を行なっているところです」


 どうやら倒した眷属の中に、謎エネルギーが集まっていたらしい。


 ……洞窟でファウンドが集めた謎エネルギーが先程の眷属からも出たというのは、一体どういうことなんだ?



 ――



 支度を終えたグラッドさんの号令に合わせて僕たちは村へと帰る。

 グラッドさんとエランスが先行し、僕とファウンドはロース・ブルを運ぶ荷台と男達を挟んだ最後尾から様子を見守る。


「……ファウンド、そろそろ謎エネルギーについて調べたいんだけど、『探索者』にはどんな結果がでてる?」


 『探索者』は、あらゆる物質の成分を調べられる装置だ。

 僕は、もし部屋中に未知の毒が充満した時に、その成分を調べて中和できる装置を求め、研究機関にある設備の技術を丸ごと頂いていた。


「解析の結果、元の世界にはない、完全に未知のエネルギーであることがわかりました。ですが、私には視認できており、回収して設備への電力として利用可能。現在私は、その未知のエネルギーで動いています」


 ……元の世界の成分なら全て検出可能な『探索者』でも謎エネルギーのことは分からないとなると、以前の世界にはなかったこの世界特有のエネルギーということになる。

 ただ、僕には見えないし触れられないのが欠点だ。グラッドさん達にも見えていないようだったし、今の所、ファウンドだけが扱える代物ということになる。


 結局この謎エネルギーに頼ることになってしまうのは不安だが、いずれ調べられるような場所をこの世界で見つけようと思う。


「総員! 村が見えてきたぞお! 俺たちは帰ってこられたんだあ!」


 グラッドさんの声を聞き、みんな安堵の表情を浮かべている。良かった。誰も死者が出なくて。



 ――



 僕たちはカクレータ村へと辿り着き、確保したロース・ブルを食糧庫へと運んでいく。


 ようやくみんなで一息つくと、駆け出してきたテテュスさんがグラッドさんに抱きついていた。


「グラッド! ありがとう……! よくぞ……帰ってきてくれました……!!」

「よせやいテテュス。俺たちが全員無事なのは、全部頼来の旦那あとファウンドの姉さんのおかげだあ。でも、心配してくれてありがとおよお」


 涙をボロボロこぼすテテュスさんを抱きしめて頭を撫でるグラッドさん。この人達の恋愛漫画とかあったら面白そうだなあ。完璧な部屋の本棚に置いておきたい。


 そんな腐った妄想をしていると、テテュスさんは溢れる涙を拭いて、僕たちの前で頭を下げる。


「感謝いたします、勇者様。私たち村人を、魔族の脅威から救っていただいた御恩。決して忘れることはありません」


 ……なんかものすごい仰々しいことになったな。というかテテュスさん、あなたもファウンドを勇者様呼びですか? もしかして、彼女も部屋友になれるかも?


「そんな! 頭を上げてくださいテテュスさん。僕たちは昨日あんなに騒ぎあった仲間のことを助けたかっただけです。それに僕たちも、この世界で自分たちの力を使えるのか試したかったですから」


 部屋友になれそうな相手に頭を下げさせるなんてとんでもない。

 それに、なんか周りの村人達の見る目がどんどん恭しくなってる気がする。本当に性能実験したかっただけなんだって。なんか恥ずかしいからみんなやめて……


「……よっしゃあ、みんな! 今日は獲れたてのロース・ブルでお祝いだあ! 新たな勇者様の、この村での誕生を祝おうじゃあねえかあ!」


 グラッドさんが場の空気を盛り上げてくれて、しんみりムードはなくなった。

 え? 今日も宴するの? グラッドさんもファウンドを勇者呼びしてるし。


 なんだかよく分からないが、雰囲気に流されることにした僕は地面に座り、早速準備に取り掛かるみんなを眺めていた。



 ――



「……ねえ、ちょっといい?」


 村人が二度目の宴を準備をし始めている中、エランスが僕の座っていた隣に座ってくる。

 こう近くで見ると、赤い髪と青い目が、彼女の美しさをより引き立てていると思う。


「どうしたの? トイレはもう済んだんじゃ?」

「だから! そんなことじゃないっての! ほんとデリカシーないわね……」


 ……また怒らせてしまった。最初の部屋友と仲良くなる僕の計画は、どうやらまた失敗に終わるらしい。


「……その、悪かったわね。今まで、あなたのことを誤解していたわ」

「え?」


 ……もしかして、僕が謝られてる? なんで?


 そもそも彼女は、勇者と例えるくらいファウンドのことを尊敬している。そんな彼女がただの一般人の僕にどうして謝るのだろうか?


「眷属を切ったあなたの剣。凄かったわ。さすが、勇者なだけはあるわね」


 ……ああ! 振動剣のレビューか! そういえばエランスは僕とファウンドを参考にして、自分だけの部屋を創ろうとしてたんだよね。

 ファウンドと仲良くなって欲しいことばかり考えていたから忘れていたよ。


「気にしないでよ。僕とファウンドの関係をわかってもらえれば十分だったんだから。」


 ……できればファウンドとも、もう少し仲良くなって欲しかったけど。


「……ふん! そっちが気にしないなら、こちらも態度は変えないわ! もう今更あなたに勇者様っぽく振る舞えないし。」


 そりゃあそうだ。僕は勇者様と呼ばれるほど敬われる者ではない。


 ……待てよ? エランスは記念すべき部屋友一号だ。僕からエランスに歩み寄れば、もしかしたらエランスもファウンドと仲良くなれるかもしれない。



「態度なんて変えなくていいよ。むしろ今のままがいい。その代わり、僕と友達になってくれないかな?」



 部屋を魔改造している間、交友関係を絶っていた僕からすると懐かしい、『友達になりましょう宣言』。

 だが、目の前の部屋友のためだ。そしてこれから、一緒にファウンドについて語り合うのだ!


「……あなた、本当によく分からないわね」


 はあとため息をつくエランス。なんだか疲れているようだ。


「いいわ。あなたと友達になってあげる。感謝しなさい。……えっと、あなた、名前は?」

「平野頼来だ。」

「分かったわ、平野。私のことはこれまで通りエランスと呼びなさい」


 すっと手を差し出してくるエランス。僕は、初めてこの世界で友達を作ることに成功した感動で涙しながら彼女の手を両手で握り返す。


「ちょっと! 何で泣いてるのよ! 気持ち悪いわね」


 エランスは気味悪がっているが、そこまで嫌そうではない。これから一緒に、ファウンドを推していこうな!


 一部始終をずっと隣で見ていたファウンドは、主人の成長にニコリと微笑むのだった。

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