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遠足する部屋

 

「野郎どもお! 今日はあ、頼来の旦那あとファウンドの姉さん、そしてエランス嬢が狩りを手伝ってくれるぞう! 昨日たらふく食った分、取り戻しにいくぞお!」


 活気のある声で男達を鼓舞させるグラッドさん。朝早いにも関わらず、みんな準備万端だ。


 今回の同行の目的はファウンドとエランスの仲を良好にすることだった。

 部屋のことを勇者とまで言ってくれるエランスが部屋に恐怖したままでは、この先の物件探しにも大きな影響がある。


 ファウンドはいつものようにメイド服姿で姿勢良く僕の隣に立っていて、幼い見た目ながらとても綺麗だ。エランスはファウンドと接近するのがまだ怖いのか、僕を挟んだ反対側でファウンドの様子を伺っている。


「あなた、今度妙な真似をしたらタダじゃおかないからね! 次こそは勇者様にかけた魔法を暴いてやるんだから」


 何か決意したような言葉を言ってくるエランス。


 ……もしかして、ファウンドの情報を集めて、自分だけの部屋でも創りたいのかな?


 なんて向上心のある子なんだろうか。初対面の時と比べて、エランスの評価がどんどん上がっている。


 僕は満面の笑顔で親指を上に立ててエランスに向ける。エランスはひどく引きつった顔をしてそっぽを向いた。そんな恥ずかしがる必要ないのに。


「皆様あ、準備は済みやしたかい? これからロース・ブルを狩りに行きやすのでくれぐれもお気をつけてえくだせえ」


 名前からして食べる気満々の名前だが、グラッドさんがわざわざ気をつけてくれって進言してくるってことは相当危ないやつなのだろう。


 僕はファウンドの手を取り、グラッドさん達の後に続く。慌てたようについてくるエランスはやはり、ファウンドと面と向かって話せないようだった。こうオドオドしていると年相応に見えなくもない。


 今回のターゲットであるロース・ブルは村から少し離れた森に生息しているそうで、捕えるのは錯乱魔法を使ったグラッドさん達でも時間がかかるらしい。

 外見などの特徴を聞くに、以前の世界でいう牛が一番近そうだ。ただ、イメージしてる牛とは異なりかなり凶暴なようで、油断して突進を喰らうと酷いことになるそうなので注意が必要だ。


「ご主人様。依頼されていた『あれ』の準備をしておきました。万一戦闘が必要な時はお申し付けください」

「ありがとうファウンド。ちょうど必要かなと思ってたんだ」


 僕の部屋は僕のしたいことを先読みして、用意してくれてることがよくある。この完璧さのおかげで喋ることを忘れてしまいそうだよ。

 色々通じ合ってる僕らの関係を隣からジーッと見つめるエランス。実に勉強熱心ないい子だ。僕とファウンドの最強タッグを参考にして、自分だけの部屋を創るといい。


「……ファウンド、エランスとも手を繋いでくれないかな? 実は、エランスがファウンドと仲良くなりたいみたいで」

「はあ!?」


 驚いた様子のエランス。だって君、僕から言わないと一向にファウンドと仲良くなりそうになかったんだもん。これは少しばかりのお手伝いさ。


「かしこまりました。ご主人様」


 すっと差し出されるファウンドの手。エランスは引きつった顔で僕の方を見る。

 困り顔のエランスにウインクして応援してるアピールをする。前の世界ではいなかった部屋友を前に、僕は気分が上がっていた。


「……い、いえ、ご遠慮させていただきますわ。勇者様。私の手で、あなた様の行動を邪魔するなど恐れ多いです。大変申し訳ないのですが、私はこの方と少しお話しいたしますわ」


 そう言うと彼女は、元々側にいた僕の手を両手で包み込む。包んだ両手に、なんだかやたら力が入ってる気がする。というか痛い。


「いい加減にして! さっきからあなたは、勇者様の行動を邪魔しすぎなのよ! それにさっきの『あれ』って一体何よ!?」


 小声で必死に訴えかけてくるエランス。やれやれ、僕よりファウンドと仲良くなって欲しいのだが。


「ああ、どちらも気にすることではないよ」

「どちらもあなたの意見なんて聞いてないわよ!」


 エランスは何故か怒って手をさらに強く握ってくる。ははは、痛い痛い。


 ……それにしても、こうしてみんなで手を繋いで歩いてると、なんだか遠足してる気分だね。

 


 ――

 


「お三方、そろそろ目的地ですぜい。へへっ、頼来の旦那あとエランス嬢も、ずいぶんとお仲良くなったあようで何よりでさあ」

「ふっざけないで! 誰がこんなやつと!」


 グラッドさんのからかいに、髪に匹敵するくらい赤い顔をするエランスは、ばっと僕の手を離す。そろそろ握り潰されてた片手の感覚がなくなってきていたから、離してくれてよかった。


 グラッドさんからの情報では、ロース・ブルの生息する森は木々に囲まれた日の当たる場所で、そこに生えている草が主食らしい。

 ここからは村人達の錯乱魔法によって、僕たちの気配を完全に無くす。あとは、グラッドさん達の弓術によってロース・ブルを仕留めて終了だ。

 僕たちはあくまでその補助と、捕らえた獲物を運ぶ役割である。


 ……しかし、前を進むグラッドさん達の様子がおかしい。疑問に思い、グラッドさんに様子を尋ねる。


「申し訳ねえ……どうやら先客がいたあみてえだ」


 グラッドさんが見つめる視線の先には、想像していた牛の姿ではない、化け物のような存在が佇んでいた。

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