宿命の部屋②
宴の火を消し、村人たちは片付けに取り掛かっていた。日々のストレスを発散できたようで、みんないい表情をしている。
僕は膝の上で寝ているファウンドの滑らかな銀髪を撫でながらゆっくりとした時間を過ごしていた。
「見つけたわよ黒い痩せ男! さっきはよくもやってくれたわね!」
真紅の髪を靡かせながら、エランスが青い目をぎらつかせてやってくる。美人な顔立ちをしているのに勿体無い。
「やあエランス! そのうちこっちから出迎えようと思ってたんだけど、急にどうしたの?」
僕はこの世界で見つけた部屋友を優しく受け入れる。なにせファウンドのことを勇者と例えるくらい部屋のことを褒めてくれたのだ。エランスとは是非とも仲良くなりたい。
「出迎えって、あなた私に恨みでもあるわけ!? 一体勇者様に何をしたのか知らないけど、私の願望を叶えるために、ここで引き下がるわけにはいかないのよ! 大人しく、勇者様を引き渡しなさい。」
……驚いた。まさか既に住んでいる住人がいるのに部屋を引き渡せと言ってくるとは。彼女はこれからも物件探しで苦労しそうだな……。
しかし、それだけ僕の魔改造された部屋のことを絶賛してくれていることも事実。僕はつい嬉しくて、笑顔になってしまう。
「ちょ、何笑ってるのよ? 私はあなたの大事な命綱を奪おうとしているのよ?」
不気味そうに一歩後ずさるエランス。ごめん。こんなに嬉しいことは初めてで、つい表情に出てしまった。
「ありがとう、エランス。こんなに僕のことを理解して、優しくしてくれた人なんて、今までいなくて……君は僕にとっての救世主だ。」
「はあ!? なんで私があなたの救世主になってるのよ!? それに、理解したことも、優しくしたこともないんだけど!?」
分かっているさ。僕たちはファウンドを通じて出会った。そこに彼女がいないのは僕たちの関係が霧散することを意味する。
「おはよう。ファウンド」
「おはようございます。ご主人様」
僕はスリープ状態のファウンドを再び起こす。スリープの解除は音声識別で僕の挨拶を聞くことだ。酔いも覚めたようでキリッとした黄金の瞳を浮かべている。
起き上がったファウンドを見て、再び一歩下がるエランス。どうやら先程の件でファウンドに恐怖心を抱いてしまったようだ。部屋友として、この状況は良くない。
「そうだ! 明日は僕とファウンド、それにエランスの三人で、グラッドさんの狩りを手伝いでもしようか!」
僕の提案した意見にファウンドはすぐ頷き、エランスは顔を青ざめる。とりあえず交友を少しずつ深めていかないと。
「え? あなたと勇者様に同行しろっていうの?いや、勇者様を引き渡せと言ったのは私だけど……」
エランスはなにやら悩んでいるようだ。がんばれ、若者! 物件選びは大人になるための貴重な第一歩だ!
「もし同行してくれるなら……そうだな、ファウンドの部屋を案内しよう」
「え! 勇者様のお部屋!? そんな……勇者様は空間魔法もお使いになれるのですね……」
エランスは目を丸くし、羨望の眼差しでファウンドを見つめる。エランスも一目惚れした物件の間取りくらい知りたいだろう。
「分かったわ。その手伝い、私も同行させていただきましょう。勇者様の能力は是非とも見てみたいですからね。感謝しなさい、黒い痩せ男」
青ざめていたさっきの表情とは打って変わり、急に乗り気になった少女は堂々と宣言して、上機嫌で神殿に帰って行った。どうやら完璧な部屋を見れるのが相当嬉しいようだ。
――
「そういうわけでグラッドさん。明日の狩りを手伝わせていただけませんか?」
急にきた部屋友を食いつかせるために提案したとはいえ、グラッドさんに許可もせずに提案してしまった。これだからコミュ障は。
グラッドさんは酔い潰れたテテュスさんを部屋に運んだ後、僕たちの様子を見に来てくれていた。相変わらずできる男だ。
「へへっ、いいってことですよお。旦那あ。実は様子を見に来たついでに、こちらから言おうとしてやした。姉さんの実力を間近で見たかったんでさあ」
グラッドさん的にもファウンドの戦闘から勉強したいところがあるようだ。これは僕も気合いを入れて準備しないといけない。
「ところでお二方はあ、宿泊する場所はいかがされやすか? 小せえ村ですが、寝るとこくれえならご用意できやすが?」
グラッドさんは竪穴住居の一つを指差して、宿の心配をしてくれる。
「いえ、お気になさらずに、僕にはファウンドがいるので」
擬人化したとはいえ、自分の部屋がこっちの世界に来てくれたのは幸運だった。自分の部屋以外で寝るなんて考えられない。
「なるほどおう……野宿の方が燃えるってことですかい。そういうことならあ、あっしらから何も言うことはあありやせん」
ニコニコ笑顔を浮かべながら手を振って去っていくグラッドさん。確かに野宿といえばその通りだが、一体何が燃えるんだろうか?
大方の片付けが終わり、村人がそれぞれの家に帰った後、僕はファウンドの中に入り、久しぶりに思えるベットに横たわった。
「ファウンド。今日は激動の一日だったね」
「そうですね。ご主人様。私も多くの情報が得られました」
思えばファウンドと空を飛んでた時は、これからに一抹の不安があった。
でも、親切な人たちに沢山会って、不思議なことを経験して、初めての部屋友ができた。
何よりこの村のみんなが、見ず知らずの僕たちのことを歓迎してくれた。この世界は以前の世界より生きやすいかもしれない。
「明日も頑張ろうね、ファウンド」
「かしこまりました。ご主人様」
ここからがコミュ障な僕の頑張りどころだ。部屋友のエランスと一緒に、ファウンドのことを褒めまくる日々を目指す!
僕は最高の一日を期待で締めくくり、やって来た睡魔に身を任せるのだった。




