温かい部屋
次第に見えてきた村は、とても狭い居住区の中でひっそりと存在していた。
地面と同化したような屋根に、地面に穴を掘って高さを確保し家を建てていた。例えるなら、縄文時代の竪穴式住居が一番近い。
住居から見える住人たちも、グラッドさん達と同様で麻布で出来た服装をしていて、原始的な生活をする姿が浮かぶ。
周りには高い建物はなく、村を丸ごと錯乱魔法で覆えるような工夫がされていた。
僕は彼らの自身の特技を活かした生き残り方に感動していた。何より、自分達の家を大事にして全て守ることにした村人達の覚悟はとても素晴らしいものだ。
村の姿が見えると、村の入り口から若い女性が強い足取りで歩いてくる。
「遅い! やっと帰ってきたのね!」
「悪かったぜい、テテュス。ちょうど同胞とばっちしあったあもんだから、村に出迎えねえとなって思ってよお」
グラッドさんはそう言うと、僕とファウンドの方を向き、テテュスという人に紹介する。
……コミュ障。こういう時は自己紹介だ。
「初めまして、平野頼来と言います。隣の子はファウンドです」
「これはご丁寧に、私はテテュス。このカクレータ村で長をしております」
先ほどのグラッドさんへの態度とはうって変わり、テテュスさんは慣れたような所作で挨拶をする。
テテュスさんは茶色の髪に黒の瞳。気品はあるが、どこか幼い雰囲気が残っていて二十代半ばくらいだろう。周りの村人と比べても年齢が若そうだが、この村の長になっているのは少し疑問だ。
「あはは、よく驚かれるんですよ。その歳で村の長? って。でも、お父様と約束したんです。私はこの村を頑張って存続させるって。それに、もう十七になるので一人前なんですよ?」
えっへんと腰に手を当てるテテュスさん。疑問を抱いていた自分が恥ずかしいくらい、彼女は立派な理想を持っていた。あと、思ってた以上に若い……
「へへっ、テテュスは前の村長でしたあ父親の意思ばあついで、この村のために日々頑張ってくれてるんでさあ。こいつは、うちらの誇りでっせい」
「グラッド! 私のことはいいから、せっかく来てくれた同胞を案内しなさい! お二方ともお待ちですよ?」
顔を真っ赤にして、恥ずかしそうなテテュスさんをからかうグラッドさん。周りの村人達を見るに、どうやら二人のやりとりは日常茶飯事のようだ。
……全く。これだからリア充は。
僕は元の世界では人間と恋をしたことがないし、付き合おうとすら思ったことはない。僕は基本見る専なのだ。当事者として恋するより観察する方が楽しい。それに、僕の場合は最高の部屋が恋人なので既にリア充なのだ。
ふとファウンドの方を見ると、無表情で村の住居を眺めている。なにか気になることでもあったのかな?あとで聞いてみよう。
――
リア充のイチャイチャを一通り眺めて、僕とファウンドはグラッドさんにカクレータ村を案内してもらう。
村の人口は二十人ほどで、グラッドさんとテテュスさんを除くと、三十代後半の男女がほとんどだった。建物は竪穴住居が十軒ほどと、食糧庫、廃棄物を処理する焼却炉に加え、近くには川が流れていた。
疑問だった生活の痕跡を消す方法も、どうやら錯乱魔法の力らしい。川や焼却炉を使う際に錯乱魔法を使うことで、周囲の獣の認識を錯乱させ、遠くに追い払うことが出来るそうだ。……この魔法強すぎない?
村を覆う魔法の持続についても疑問だったのだが、魔法は場所によってその効力が違うそうで、この地が魔法を行使する最適な場所だったそう。テテュスさん達は日のある日中の間、この村全域を交代交代で隠蔽しているらしい。
かなり綱渡りに思える生活だが、この方法で多種族の進行を逃れ、こうして一日を平和に過ごせているのは村人たちの努力の賜物だ。それに何より、みんな活気に溢れている。
「グラッドにーちゃん、帰って来た!」
「……おかえり、グラッドお兄ちゃん」
竪穴住居から出て来たファウンドよりも幼い男の子と女の子は、グラッドさんに抱きついて、久々の再会を喜んでいた。
「待たせて悪かったなあグラ。ただいまあ、コロ」
グラッドさんは二人の頭を撫でて、喜びに応えている。なんとも微笑ましい光景だ。
「こいつらはこの村唯一の子どものグラとコロ兄妹でさあ。まだ錯乱魔法があ扱えないんでえ、俺が面倒見てやってやす」
グラッドさんが子ども二人を僕たちの前に出す。
「初めまして! グラです!」
「……コロです」
「「よろしくお願いします!」」
二人はぺこりと元気な挨拶をしてくれる。僕はコミュニケーション力で既にこの子達負けている気がした。
「初めまして、僕は平野頼来。こっちはファウンド。これからよろしくね」
当たり障りの無いセリフしか出てこない。それでも笑顔で「よろしくー」と言ってくれるこの子達の姿が眩しい。
後でグラとコロたちの部屋に遊びに行く約束をして、僕たちはグラッドさんの村の案内に従っていく。
「ファウンド、一体どうしたの? そんなに村の家を見渡して」
村に来てからずっと黙っていて、村の家ばかりジロジロ見ているファウンドに尋ねる。
「彼らの家との情報交換をしていました。この村の家々は住まう人間のことをとても好んでいるようです」
……え? あの竪穴住居達って喋るの?
つまりファウンドは、周囲の家々の皆さんとご近所付き合いをしていたというわけか。
さすが僕の完璧な部屋。例え異世界の家だろうと話を出来て、僕と違いコミュニケーション能力が高い。
ファウンドの優秀さにうんうん頷いていると、グラッドさんは僕を村の端に案内してくれた。
「旦那あ。ここがあ、カクレータ村の御神体。女神ダレーテル様への祈りを捧げる神殿でさあ」
他の家が地下に穴を掘って隠れるように潜んでるのに対して、その神殿はでかでかと存在感を放っていた。
神殿といっても日本の神社みたいなもので、神殿の中に女神ダレーテルの像があるそうだ。
宗教はもう懲り懲りだが、そのおかげでこの村がこんなに元気なのは間違いないので、この神殿の存在にも少しは感謝すべきだな。
……それにしても、女神ダレーテルってなんか聞いたことあるような?
――
「おや、帰りましたかグラッド」
「おお! ここにいやしたかあ牧師様」
神殿に入ると、中からすらっとした男性が出てくる。かなりの長身で細目にメガネをかけ、貼り付けたような笑顔を浮かべている。
「エランスに調査させている女神からの予言を確認していましてね。そちらのお二方は?」
牧師様と呼ばれた男はグラッドさんの隣にいる僕とファウンドを見つめている。
「こちらのお二方はあ、頼来の旦那とファウンドの姉さんだ! 空を飛んでたあとこを襲っちまって、成り行きでえこの村を案内させてもらってるのさあ」
グラッドさんの紹介でバーバラスという方が僕たちの方を向いた。
「初めまして、頼来様、ファウンド様。私はバーバラス。この村で牧師を営んでいます。早速ですが、『空を飛んでいた』とはどういうことでしょか?」
僕たちを見つめるバーバラスという牧師の眼差しが妙に怖い気がする。やはり宗教関連の人物とは関わりたくない……
「バーバラス。今帰ったわ」
その声を聞いてバーバラスと呼ばれる牧師は僕たちから視線を逸らす。宗教勧誘。コワイ。
「エランス、帰りましたか。女神の予言にあった場所に勇者様はいらっしゃいましたか?」
牧師様は赤髪の少女をみて笑顔のまま問いかける。
「それが、途中でそれらしい二人組がいたんだけど、空を飛んで逃げちゃって、一体どこに行ったのやら…………!?」
ふと僕らを見て青い目を丸めて固まる、赤い長髪を靡かせた女の子。
……ああ、これが宿命ってやつか。宗教は恐ろしいな。




