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見えない部屋

 初めて部屋と空を飛ぼうと夢見たのはいつのことだろう。

 創ってるうちに部屋の危機管理用の強制脱出装置となっていたこの機能だが、きっかけは違かった気がする。


 確かなことは、ジェットエンジンをつけたメイド服姿の銀髪の少女にお姫様抱っこをされている僕、平野頼来はその夢を叶えたということだ。


 どうやら僕は異世界に来てしまったらしく、地下深くの洞窟に閉じ込められていたが、美少女となった部屋、ファウンドと一緒に脱出。みんなに羨ましがられるような異世界生活を送ることにしたのだ。


「ご主人様、地上から人間と思われる熱源を感知しました。接近しますか?」


 雲と同じ視点になって浮かれていた僕にファウンドが問いかける。洞窟から脱出した草原では村らしきものは見えなかったけど、見落としていたのだろうか?


「ああ、行ってみよう。ちょうど食料も買っておきたかったんだ」


 初めての異世界人が宗教の勧誘だったので、この世界の人たちはどのように過ごしているのか見当もつかない。

 これからの観光のため、勧誘されない限りは人との交流はしていくべきだろう。


 しかし、ゆっくりと降下しているが、一向に人どころか村の姿すら見えない。

 不思議に思っていると、突如地上から矢が迫ってきていた。


 僕をお姫様抱っこしているため、両手が塞がっているファウンドは避けたり、足で薙ぎ払ったりしながら矢をいなしていく。しかし、矢は収まるどころかどんどんその量を増していた。


「……ご主人様、攻撃対象を排除してよろしいですか?」


 さすがにファウンドもこうも酷い挨拶をされてご立腹だ。

 でも、いきなり人間を殺すのは良くない。なにより、完璧な部屋にそんな大罪犯してほしくない。


「……峰打ちで制圧できる?」


 こくりと頷いたファウンドは僕を抱えたまま地上へと降下する。

 降下した風圧で姿の見えない人間たちが吹き飛んだ音が聞こえる。降り立ったファウンドは白黒のロングスカートを翻して美しい脚で見えない敵を蹴り飛ばしていく。

 ファウンドには熱源感知があるので、姿が見えない程度何ということもない。しかし、抱えられてる僕から見たファウンドは、はしゃいでる子どもにしか見えなかった。



 ――



「申し訳ありやあせんでしたっ!」


 土下座している十人くらいの男たちは、弓で僕たちを狙ったことに何度も頭を下げ続けていた。


 ……いや、こちらも迂闊に空を飛んでしまい、なんとも申し訳ない。


 男達の話によると、どうやらこの世界は人間以外にも多種族が繁栄しているらしく、その中でも魔族は、人間を見つけるとすぐに殺しにくるそうなのだ。

 主な特徴は黒い風体と空を飛ぶ翼を持つことで、観光気分で飛んでた僕たちは、男達からすると魔族そのもので、決死の覚悟で戦おうとしていたのだった。


 争わずに済みそうなことに安堵した僕は改めてこちらからも謝罪し、彼らの住む村に案内してもらうことにした。



――



「それにしても旦那あ、よく俺たちの居場所があ、分かりやしたね。こんな辺境の地い生まれですが、俺らはあ、隠れることに関してなら世界一だと思ってたんですがねえ」


 歩いてる間、先ほど全員を代表して全力で謝罪の言葉を連呼していた村人のグラッドさんから不思議そうに尋ねられた。

 村に案内してくれている男達は共通して麻布で出来た服装をして、弓を携えていた。昔の時代の猟師はこんな感じだったのだろう。

 中でもグラッドさんは、体格の良さと清涼な見た目からはかけ離れた口調が特徴的で、彼のことはすぐに覚えられた。


 隠す必要もないので、僕はファウンドの熱源探知の情報をグラッドさんに教えた。 


「なるほどお、確かに俺らの体温は視覚をいくら誤魔化したところで隠せるもんじゃねぇですなあ。対策していなかったわけじゃあないんですが、あちらの姉さんには通用しなかったようでさぁ……」


 グラッドさんは呆れ返ったように僕と村人達の最後尾からついてくるファウンドを見つめる。ちなみにファウンドは村人達の誰かが僕を襲おうとしたら排除にかかるそうだ。僕の完璧な部屋は今日も優秀だ。


「どうやら、錯乱魔法の改良がいるようでさあ。発する熱に関連する対処を重点的にしていけりゃあと思いやす」


 ……む? 気になるワードが出たな。


「すみません。錯乱魔法とはなんですか?というかそもそも、この世界は魔法が存在するんですか?」


 なんと驚き、こちらの世界はファンタジーに溢れているようだ。さすが多種族が暮らすだけある。詳細な情報をグラッドさんに求める。


「ありやすよ。種族によって魔法の使える種類はあ異なりやす。例えば人間はあ補助程度の魔法ならあある程度使えるようになりやす。錯乱魔法ちゅうのは、見た者の五感情報を誤認させる魔法でありやして、うちら村人は全員使えるもんになっちょります」


 ほう。魔法はこの世界での人間にとっては当たり前なようだ。特に錯乱魔法は不意打ちも出来るし、使い勝手も良さそうないい魔法だ。


 しかし、種族の壁は恐ろしく高いらしい。人間が得られる魔法は補助魔法のみで圧倒的に弱く、そのせいで多種族から見下されているようだ。圧倒的な魔法を使いこなすエルフ族と魔族は、今では神すらも凌駕しているらしい。


 ……どうやらこのまま空を飛んで観光するのは良くなさそうだ。何が来てもファウンドのことは絶対に守るが、自ら多種族に姿をひけらかす狂戦士ではない。



――



 グラッドさんとの会話を終えて少し歩いた後、村人達は急に立ち止まった。


 ……え? ここ、何もない草原だけど?


 僕は疑問に思いグラッドさんの方を見る。

 彼が手を正面に向けた途端、手を中心にして景色に波紋が広がる。その波紋はどんどん大きくなっていき、次第に景色が揺れ動き、建築物が現れ始めた。


 どうやら彼らは錯乱魔法を応用させて、自分たちの住処を丸ごと消して、魔族から守ってきたようだ。


「へへっ、ようこそおう! ここが俺らの村でっせ、旦那あ!」

第二章始めました!よろしくお願いします!

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