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エピローグ・二人の剣士と青い竜

 どうと大質量の死体が倒れる。

 二人は肩で息をしながら、しばらくの間ただ立ち尽くしていた。


 どれくらい時間が経っただろうか。

 二人はどちらともなく頽れ、手から離れた剣たちがガランと音を立てた。


 迷宮は静かになった。うねりを上げて鳴っていた風はいつの間にか止み、アイオスを苛んだ頭痛もなくなっていた。


「聞きたいことが、山ほどあるんだけど」

「……。」


 グレスはまだしばらく呆然としていた。アイオスはそんな様子に苦笑して、剣を手に取った。

 白い剣。死線を越え、その先の決死の戦闘を生き抜いた、細く鋭い名剣。

 グレスに貸した銅剣も拾う。非戦闘用の儀式剣。ガタガタに刃こぼれしても武器としての役目を全うしたこの剣を見て、アイオスは感謝というか勇気というか、何とも言えない感情を得た。


 ……あれはなんだったんだろうか。グレスはどうしてしまったんだろうか。

 わからない気がする。グレスも、そんなことがあったのかと驚きそうな気がする。

 アイオスはまた苦笑して、剣を鞘に納めた。

 この闘いをつぶさに語ることができるのは、おそらく自分だけなのだろうなと思うと、頬が緩んだのだ。


「さあ、グレス。迷宮内街道へ行こう。俺はもうへとへとだ」

「……アイオス。……ああ、ああ。そうしよう」


 迷宮内迷宮(メイズ・イン・メイズ)から落下して第五層。

 安全地帯からはひどく離されてしまったが、道に迷って野垂れ死ぬことがなくなったと思えばむしろ儲けものだった。


 薬は一つも残っていない。一度の会敵も認められない状況であったが、それは杞憂に終わった。


「おい、いたぞ!」

「君たち、大丈夫かー!」


 ああ、ああ。

 救助隊だ。

 襤褸切れのように消耗した二人は、地上及び迷宮内街道からの救助隊によって保護された。

 第一級冒険者の彼らも、見聞共に無い巨大な竜の死体に大いに驚きつつ、第五層を離れることになった。


 かくして、怪物の逆流(モンスター・フラッド)および青い飛竜の討伐戦事件は幕を閉じた。




 さて、イノンのことだ。

 他のモナベノたちと違って分不相応な階層で、強烈な呪いに被爆した彼女は、異形の姿となっていた。

 一行が地上に帰還した時には日はもうとっぷり暮れて、町明かりがわずかに明滅するばかりだった。


 レダは言葉をも失った彼女を見て泣き崩れ、グレスたちに何か言うこともなく、ただただ大声をあげて泣いていた。

 イノンは目を覚ましてから魔物のように暴れていたが、泣き続けるレダを見た途端静かになって、その顔を覗き込んだ。

 レダは彼女に抱き着くと、声も掠れるほどに泣いた。イノンは少しの間固まっていたが、レダを毛づくろいするように撫でた。夜が明けるまでそうしていた。


 残念なことに、医療の粋を尽くしても角や鱗、変形したイノンの体が戻ることはなかった。

 日に日に衰弱していった彼女は、七日目の夜、ついにレダたちのもとで息を引き取った。



「君と戦えてよかった」

「ああ。俺も。アイオスたちに出会えてよかった」

「助けようっていったのはジェノーだぜ。感謝しろよなーッ!」

「最初に見つけただけだけどね。僕が言わなくても助けたでしょ」

「ああ。ありがとう、ジェノー。あれは見事な魔法だった」

「いいよそういうの。早く行きなよ」


 グレスは迷宮の街を発つことにした。冒険者業で富を得るのではなく、新たな冒険を求めて旅をすることにしたのだ。

 懸賞金のかかっていなかった青い竜は、わずかばかりの調査費をグレスに残して解体された。


 今日もまたグレスは日銭を稼ぐため、どこかの街に寄っている。



(グレスとダンジョンの青い竜 完)




-------------------------


「二人の剣士がいた。


 彼らは道すがらあった他人同士ではあったが、同じ迷宮に踏み入るものとして意気投合した。

 そして二人は、未だかつて誰も発見しえなかった秘境の滝に到達し、そこで青い竜を見た。


 恐ろしく強大な飛竜に追われ、迷宮を彷徨う二人はしかし、決死の覚悟で大敵に相対する。

 猛吹雪を打ち出す奇怪な化け物は、迷宮全土に魔法をかけ、二人を呪いで苦しめた。


 銅の剣士は呪いに倒れ、銀の剣士は単独で竜を切り結ぶ。

 美しい純白の剣技は竜の尾を断ち翼を落としたが、なおも竜は猛り狂い、銀の剣士を踏み潰した。


 その時、神の光を湛えた銅の剣士が立ち上がり、飛竜の爪牙を搔い潜って駆け抜けた。

 彼が銀の剣士に触れたとき、彼から流れ出た血が黄金に輝き、銀の剣士に流れ込んでいく。

 銀の剣士は再び目を開き、ここに二人の剣士は並び立った。


 赤き剣と白き剣が凍てつく猛攻を打ち破り、鱗を突き破って首を切り落としたのだった。

 二人は英雄として街に受け入れられ、誰もが彼らを称賛した。


 二人は巨万の財貨を得て、長寿に暮らした。

 この地に伝わる神々と歴戦の勇者たちが、彼らに力を与えなさったのである。」



 皺だらけの老人はそう語ると、紅色の酒をあおり、息をついた。

 迷宮で狩りをする狩猟者たちは、例外なくこの伝承を知っている。

 魔物の生態や迷宮の構造が明らかでなかった古代の話に、みなが心を躍らせた。


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