第2章 議題開始 ― 「痛みか、誇りか」 4.ミスターXの声:定義を拒む病
イズの中、スピーカーが低く唸るように鳴った。
それはまるで、空間そのものが呼吸を止めたかのような静けさを伴う。
そして——声が響く。
低く、重く、空間を振動させる声。
「——沈黙せよ。」
瞬間、全員の声が止まった。
机を叩いた手も、椅子の軋む音も、呼吸さえも、部屋から吸い取られたかのように感じられた。
「お前たちは、“定義”しようとしている。だが、
中二病とは“定義されることを拒む病”だ。」
その言葉が、五人の胸に冷たく、鋭く刺さる。
思わず誰もが、息を飲む。
真夜が小さな声で、震えながらも問いかけた。
「……拒む?」
スピーカーからの声は、少し微笑むかのように続く。
「そうだ。定義した瞬間、それは死ぬ。
名づけられた幻想は、もはや幻想ではない。」
アオイはタブレットに目を落としながら、ぽつりとつぶやく。
「それ、ポエムすぎて逆に説得力ある……」
赤城は腕を組み、顎に手を当て、声を低くして整理する。
「つまり……我々は“死なない定義”を求めているわけだな。」
しかし、部屋には誰も反論できる空気はなかった。
光も影も、全てがその言葉に引き寄せられたように静止している。
真夜の左手が、無意識に震える。
白石は杖を握り直し、唇をかむ。
アオイはため息を吐き、赤城は唇の端で薄く笑った。
——沈黙は、決して破られることなく、
五人の心に「中二病とは定義されないものだ」という現実を刻み込んでいた。
円卓の上には、熱く燃えた議論の残骸だけが残り、
スピーカーの声が遠ざかるとともに、
冷たく静かな朝の光が差し込む。
——中二病。それは、定義されることを許されぬ病。
五人は無言で、それぞれの思考の海に沈み込む。
議論はまだ終わらない。
しかし、答えが出せるかどうかは——誰も知らなかった。




